prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

ベネチア映画祭日本映画全滅について

2008年09月08日 | 映画
どうでもいいことだが、ベネチア映画祭に出品されていた三本の日本映画が全部受賞を逸する。審査員長にヴィム・ヴェンダースの名前があったので、同じくヴェンダースが審査員長をつとめて今村昌平監督の「黒い雨」が本命と言われながらやはり受賞を逸した1989年のカンヌの再現になるのではないかと思ったが、当たったみたい。

第一、同じ人間が二度大きな映画祭の審査員をつとめるのを禁止した規約って、なかったっけ。

三本がそれぞれ好評だったという報道が嘘だとか間違いだとかは言わないが、星野ジャパンをバカみたいに持ち上げておいてダメだったら水に落ちた犬のように叩けるだけ叩くのと同質の、いかにも日本国内向けの願望と実際を取り違え、前触れ宣伝にこれつとめた報道(まがい)だったことは確か。
第一、押井守監督自身、以前にカンヌに参加したときの体験として、賞の行方は基本的に「政治」の産物だとはっきり語っていた。今回、特に政治力を振るおうとした形跡もないしね。

スポーツにしてもそうだが、「国際」大会に対する公正さとか権威とかに対する日本人(というか報道陣の)態度はいいかげん悪くナイーブに過ぎる。本当にナイーブなのではなくて、長いものに巻かれているだけだろうが。


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よみがえる巨匠の製作現場~野上照代が記録した19本の黒澤映画

2008年09月07日 | 映画
それはもう細かく各カットの情報を書き込んだ台本の実物を見せてもらえたのが収穫。「蜘蛛巣城」で矢で三船が射られるシーンなど、見ていて気づかなかったが毎秒40コマの微妙なハイスピードが混ざっている。複数カメラで撮ったシーンのフィルムを並べてあみだくじみたいにつないでいくのが黒澤式の編集だというけれど、ハイスピードが混ざるとまた別なのではないか。

「デルス・ウザーラ」を撮った時、ソ連に向かう飛行機がエコノミー・クラスだという。ソ連当局もセコいね。あれも今のバリバリに資本主義化したロシアではとても撮れないだろう。
シベリア・ロケでは黒澤が体調を崩して撮休になった日がかなり多いのがわかる。撮影が終わった直後の写真を見ると、ずいぶん痩せている。

野上女史は黒澤が出たサントリーのCMの製作に関わっているはずで、そのあたりの話も聞きたかった気がする。蜥蜴の尻っぽ―とっておき映画の話によると、このギャラでずいぶん黒澤家の財政が助かったらしいから。
「影武者」の演出料が500万円でしたっけ。五年ぶりの新作で、だぜ。



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シネマ堂本舗 黒澤明スペシャル2~没後10年黒澤明スペシャル2~

2008年09月05日 | 映画
井川比佐志が「どですかでん」に出た当時、俳優座の舞台ワン・ステージのギャラが100円!というのでびっくり。「どですかでん」で30000円だったか、というのもいくら37年前とはいえ高いとは思えないけれど、それでもありがたかったという。今の吉本の若手みたい。

香川京子が「悪い奴ほどよく眠る」で足が悪い役をやる役作りに高峰秀子に相談、「赤ひげ」で狂女を演じるのに山田五十鈴に相談、という具合に先輩によく相談していたというのが興味深い。今でもそういうことやっているのだろうか。当時でも珍しかったのか。

「トラ! トラ! トラ!」の公開と「どですかでん」の公開が同じ年、というのに、あ、そうかと思う。大阪万博があった年でもあります。


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「蜘蛛巣城」

2008年09月03日 | 映画

以前、淀川長治が坂東玉三郎がマクベス夫人を演じた時、「発狂した時の手の洗い方が普通に手の汚れをとる時の洗い方で、洗ってもとれない血を洗おうとしている洗い方ではない」と指摘して、それを実際にやってのけた実例としてこの映画の山田五十鈴を挙げて注意していたことがあったけれど、本物の血を洗う時と幻覚の血を洗っている時の演じ分け方は本当に凄いし怖い。
話はとぶけれど、「あしたのジョー」で金竜飛が試合後ありもいない血を洗うというのはもちろん「マクベス」からとっているわけで、梶原一騎の純文学志向が出たものだろう。

クライマックスの矢ぶすまに晒される三船の恐怖の表情は芝居ではないね。当時のスクリプターの野上照代女史の形容を借りると「ジャッキー・チェンだって断る」くらい危ない真似している。体に当たる以外は本物の矢でびゅんびゅん射っているのだもの。
この映画の撮影の時かどうかははっきりしないが、三船がべろべろになるまで酔っ払って「黒澤のバカヤロー!」と絶叫してまわったというのも無理からぬところ。

映画評論家で元・キネマ旬報編集長の白井佳夫が早稲田大学の学生だった時にこの映画のエキストラをつとめたそうだが、先君の棺を担ぐ先頭で歩いているのがそれっぽい顔をしている。