prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「蜘蛛巣城」

2008年09月03日 | 映画

以前、淀川長治が坂東玉三郎がマクベス夫人を演じた時、「発狂した時の手の洗い方が普通に手の汚れをとる時の洗い方で、洗ってもとれない血を洗おうとしている洗い方ではない」と指摘して、それを実際にやってのけた実例としてこの映画の山田五十鈴を挙げて注意していたことがあったけれど、本物の血を洗う時と幻覚の血を洗っている時の演じ分け方は本当に凄いし怖い。
話はとぶけれど、「あしたのジョー」で金竜飛が試合後ありもいない血を洗うというのはもちろん「マクベス」からとっているわけで、梶原一騎の純文学志向が出たものだろう。

クライマックスの矢ぶすまに晒される三船の恐怖の表情は芝居ではないね。当時のスクリプターの野上照代女史の形容を借りると「ジャッキー・チェンだって断る」くらい危ない真似している。体に当たる以外は本物の矢でびゅんびゅん射っているのだもの。
この映画の撮影の時かどうかははっきりしないが、三船がべろべろになるまで酔っ払って「黒澤のバカヤロー!」と絶叫してまわったというのも無理からぬところ。

映画評論家で元・キネマ旬報編集長の白井佳夫が早稲田大学の学生だった時にこの映画のエキストラをつとめたそうだが、先君の棺を担ぐ先頭で歩いているのがそれっぽい顔をしている。