prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ザ・ホエール」

2023年04月16日 | 映画
元が舞台劇ということもあってほとんど 室内で登場人物も限定されている。
画面はどこから光が来てるのかわからないローキーで統一されていて、強い光が差し込むところを限定しているのが効果的。
カメラワークや編集も舞台くささをまるで感じさせない。わずかに挟まれる屋外シーンが海というのは、開放感と鯨というモチーフに合わせてだろう。

アカデミー賞を取っただけのことはあって特殊メイクとブランドン・フレイザーの演技はちょっとびっくりするレベル。テレビだとこういう極端な肥満体はもっぱら見世物的に「治療」の対象として描かれるが、さすがに次元が違う。ブランドンの声などそれこそ鯨の吠え声みたい。

テレビの「名探偵モンク」に鯨のデールというやはり部屋から出られないくらい肥満した犯罪者がどうやって外で人を殺せたかという謎のエピソードがあって、「ロッキー・ホラー・ショー」や「レジェンド」などでもすごいメイクアップを見せたティム・カリーがやはり特殊肥満メイクで演じていたが、あれはベッドの上でほとんど身動きできない設定だったから、技術的にはかなり楽だったろう。

鯨というタイトルから、ハーマン・メルヴィルの「白鯨」が出てくるだろうとは思ったら案の定。
アメリカ文学の代表作な割に、おそろしく読み通しにくいのはウディ・アレンの「カメレオンマン」のネタにされていたくらいで、長いだけでなく本筋から脱線して鯨に関する百科全書的な、たとえば鯨の脂肪の層は一メートルもあるとか、その油をとるにはどんな手順かとかいった記述が細部に至るまでえんえんと続くもので退屈と言えば退屈なのを、主人公の娘があっさり王様の耳はロバの耳式に言ってしまう。
そこで終わらず、徒労に思える人生の意味という点で作品のモチーフに持ちこむことになる。

それにしても「ノック 決断の訪問者」といい、同性愛カップルと子供の話が続く。介護人にして義理の妹役が東洋人のホン・チャウというのも含め、「伝統的」家族だけが未来にバトンを渡すわけではない、という認識が一般的になってきた表れだろう。