ビリー⋅ホリデイを扱った映画としては、ダイアナ⋅ロス主演、シドニー⋅J⋅ヒューリー監督の「ビリー⋅ホリデイ物語」があったわけだが、あれがまず歌手としての面の再現が前に来て麻薬の面はややひっこめた作りだったのに対して、こちらは逆に歌はそれほど出さず、麻薬取締局が「奇妙な果実」(リンチで木に首を括られて吊るされた黒人の遺体のこと)で黒人差別を歌うビリーをひっくくろうと弾圧してくる話がメイン。
汚いやり口でビリーを貶め亡くなった後でも手錠をかけた取締局の長官がケネディ大統領に表彰されている実写がなんともグロテスク。
何度もリンチや差別そのものを禁止する法律が提出されても成立していないという字幕が典型的にアメリカの闇を示す。
警官はもちろん、アメリカでは官憲・体制そのものが黒人の敵というのがありありとわかる。
リンチで黒焦げになっている遺体を前に白人たちが平気な顔で並んでいる実写写真がショッキング。
ただ実をいうと本物のビリーの「奇妙な果実」や自伝に比べると、どうしても再現の域を出ない感は免れない。