prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「フェンス」

2018年03月19日 | 映画
アカデミー賞のノミネートや受賞はじめ高い評価を受けた作品だが日本では劇場では上映されず、ビデオおよび配信スルーになったデンゼル・ワシントン製作監督主演作。

Box Office Mojoで検索すると、製作費2400万ドルに対して現在までの興収はアメリカ国内で5768万2904ドルで89.5%、それ以外が673万1857ドルで10.5%。と興行は圧倒的にアメリカ国内で終始しているのがわかる。
確かにアメリカ黒人以外でわかりやすい内容ではないだろう。

オーガスト・ウィルソンの戯曲が原作で、映画化にあたっての脚色も原作者自身だが、冒頭のごみ収集車がごみを集めて回るシーン以外はほとんど家の中と裏庭周辺で終始している。
ただセットの質感や照明の質、メイクなどすこぶるリアルで、演技の質もセリフもリアリズムなので舞台臭からは離れている。

自分がスポーツ選手として大成できなかったから息子のチャンスまで潰してしまう毒親であり、公民権運動の高まりにも耳をふさいで自分を解放するのに背反する態度をとってしまう相当にネガティヴな主人公をワシントン自身が演じ、今更スターイメージ壊すのを恐れる立場でもないにせよ、演技者としての腕を見せる。
アカデミー賞助演女優賞をとったヴィオラ・デイビスをはじめ、他の出演者もみっちり芝居を見せ、今更ながらアメリカの役者の層の厚さを感じさせる。

それにしても、演劇の映画化というのは日本にもあるが、おおむねセットなどの背景も演技の質も作り物っぽくなって、リアリズムのまま行き来することはなかなかないのはどういうわけだろう。

フェンスという言葉をコトバの範疇で扱い、モノそのものとしては見せないのにコトバの喚起力と映画の表現との兼ね合いを知った演出家としての見識がうかがえる。


3月18日(日)のつぶやき

2018年03月19日 | Weblog