prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「カラフル」

2010年09月06日 | 映画
明らかに「素晴らしき哉、人生!」を思わせる話だが、すでに主人公が死んでしまっているのと、キリスト教文化圏ではない日本で「天使」を出すわけにもいかないというのが、アレンジのしどころ。案内役の子供(に見える)の髪の毛の逆立ち方が天使風なのだが、そうだとは一言も言わない。ドアをいちいち開けたてして出入りするし。

日常的な感情表現がきめ細かく描かれる代わり、いかにもアニメという感じのしないキャラクター・デザインなので、いくらか違和感を覚える。感情表現がアニメ一般みたいに記号的でないのでこちらが慣れていないということかもしれない。
秀才の兄貴がぶっきら棒な感情表現しかしなくて、その裏に張り付いた愛情をはっきりわからせる。別に優しい顔を見せるところなどまったくないのがいい。
ブスの同級生の変な喋り方(声は宮崎あおい)や、警戒しているのかどうかイーゼルを盾にしているみたいな動きが細かい。

援助交際、自殺未遂、不倫、などナマで重い現実描写が続いて、息苦しくなってきたあたりでひょいと昔の鉄道の跡をたどる旅が入ってくるあたりの開放感がいい。それ以前に今の鉄道近辺の風景をいやにていねいに描いているので、なんのためかと思うとこういう風に生かされると思わなかった。
今見るとなんにも残っていないのに、というかだからこそ息抜きになるのだし、何かあるのかどうかはどうでもよくて、それを初めて出来た友だちと辿ること自体が楽しい、というモチーフがくっきり出た。

海の底から馬が頭上の光を伺っているというテーマの、なんか中途半端なところで止まっている自殺前に描いていたという絵がよくできている。完成品ではないのが一目でわかるし、ウィリアム・スタイロンが鬱病だった時の気分を「深い海の底でもがいているようだった」と形容していたのを思い出させる。

クライマックス、「家族の団欒」像をそれまでの苦しみを乗り越えた、画で見せる演出ではなく芝居で見せる見事な組み立ての直球演出で描ききっているのに感動する。
これまで原恵一監督はいきなり絵コンテを描いてしまう宮崎駿方式をとっていたらしいが、ここでは別に脚本家(丸尾みほ)を立てたのが功を奏した感じ。
(☆☆☆★★★)


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