prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「WOLF 狼」

2010年09月27日 | 映画
昨年の東京国際映画祭でトヨタ・アース・グランプリ作。一般公開されていないかったのが、今年のプレイベント用に再度上映された。
ニコラ・バニエ監督は、極地や寒冷地の探検の記録ドキュメンタリー制作に携わってきたフランス人探検家であり、「狩人と犬、最後の旅」で高い評価を受けている。

極寒の地シベリアで暮らす遊牧民エベンク族にとっては大切なトナカイを狙う憎き存在でしかなかったオオカミが、ある日、少年セルゲイが傷ついた母オオカミとその子供たちを見つけて人間と変わらない親子愛にすっかり心を動かされたのをきっかけに、憎しみから共感に変わっていくドラマ。

エベング族がはっきりと東洋系の顔立ちで、セルゲイを演じているニコラ・ブリウデはなんだか永島敏行に似ている。
シベリアの壮大で過酷な自然に圧倒される。トナカイの放牧というのは初めて見た。冬山の稜線を何百というトナカイが伝っていくのが蟻の行進のように見える壮大な光景には、鳥肌が立つ。
オオカミの子供がぬいぐるみみたいに可愛いのがだんだん大きくなっていくのをきちんと描いているあたり、一体どれほどの手間がかかっているのか、見当もつかない。

オオカミがトナカイを襲うのは、別に憎いからではない、という恋人の少女のセリフが印象的。
オオカミとトナカイと人間が共棲したくてもそう簡単ではなく、トナカイの血で口のまわりが真っ赤になったかつてかわいい子オオカミだった肉食獣のアップは、かなりインパクトあり。

ただし、彼らが再び襲ってきたのを撃退したら、別のオオカミの群れでしたという展開はいささか疑問。オオカミはオオカミでしょうが。仲良しだったかどうかはおよそ本質的な問題ではないばかりか、えこひいきにもつながる。

トナカイを家畜として、どう利用しているのかはっきりしないのも不満。食べてないわけではないと思うのだが。
(☆☆☆★★)


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