prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「スイートリトルライズ」

2010年03月22日 | 映画
ひとつひとつの描写にこめられた感覚のこまやかさを味わう映画。

初めの方では朝食の卵二つを混ぜておそらくオムレツにしていたのが、ちょっと夫婦間に波風が立つと落とし卵になって、固まっていない卵がそれぞれ別々に湯の中を頼りなく泳いでいるのがいかにもそのときの夫婦のかたちなのがまことに細かい。

時計のゼンマイを巻く、アルコールランプに火をつけサイフォンでコーヒーをいれる、などというちょっとレトロなライフスタイルなのがこれ見よがしでなくおしゃれでもあるし、どこか主人公夫婦の血の気の薄さを感じさせる。

テディベアを製作している情景で、目の部分に待ち針を刺して目にするのが、目に針を刺しているようでもあったり、できかけのテディベアが体をばらばらにされた姿のようでもあったりするのが、凄んでいるわけではないのに微妙に怖い。

妻が毎朝早く起きて外から窓を拭きながら中で起きた夫にガラス越しに微笑みかけるのが微妙な距離感を出している。
窓が好き、という中谷美紀のセリフで示されているが、人物が窓を通して見る、その距離感がひとつの大きなモチーフになっていて、浮気相手とのカットバックでは両者の後ろの窓の開き方のわずかな違いと風の吹き込み方にまで気を配った、おそろしく神経の行き届いた演出。
全編のクライマックスならぬ陥没点みたいに置かれている地下鉄の扉が開いても誰もいない「空き」のショットも「窓」のモチーフの変奏ととっていいだろう。

中谷美紀のなんだか地上五センチ浮いているような感じがよく生かされた。
後半、死んだ近所の犬と一緒に埋める穴に入ってみせたり、飼い主の婆さんがトリカブトで夫を殺したと淡々と喋って、骨壷に入った砂糖をコーヒーに入れたり、どうも現実にあったこととは思えない出来事が続き、幽明定かならぬ匂いを漂わす。
(☆☆☆★★★)


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