北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

先住民族の有形・無形文化遺産が大変なことに

2011-01-17 23:38:10 | Weblog
 阿寒湖畔で開催された国際シンポジウムに参加してきました。

 シンポジウムのタイトルは「先住民族の文化資源と知的財産~その理論と実践~」というもので、今日と明日の二日間にわたって阿寒湖畔で開催されます。

 今日は先住民族の文化資産保護活動の中心的役割を果たされている、カナダ国サイモン・フレーザー大学のジョージ・ニコラス教授による基調講演が湖畔の集会施設「まりむ館」で行われ、私は市を代表しての歓迎スピーチを行ったというわけです。


                 【ジョージ・ニコラス教授】


 ニコラス教授の問題意識は、先住民族固有の有形・無形文化財は知的財産であるにも関わらず、今日それに対する保護のための思想がないこと。

 そしてその結果、民族が悠久の歴史をかけて築き上げてきたものが勝手に使われて、民族の誇りが失われ、タブーが破られ、経済的にも打撃をこうむっているのではないか、ということでした。

 
 先住民族の歴史遺産が勝手に登用されている例は枚挙にいとまがありません。

 最近では2010年カナダで開かれたバンクーバーオリンピックのシンボルマークも、実はカナダの先住民族イヌイットの道標であるイヌクシュクをモチーフにしています。

 イヌクシュクは、極北に住むイヌイットが果てしない雪原を犬ゾリで移動するときや、海で漁をするときの道標として古くから使われてきた人型の石像ですが、これは他に類を見ない民族独自のデザインと言うべきで、民族に本来所有権があるはずだ、とニコラス教授はおっしゃいます。


                 【イヌイットのイヌクシュクがモチーフ】



                 【マイクタイソンのタトゥーもマオリ族の文様】


 そういう視点で見てみると、アイヌ文様もそうですが世界中の民族固有のデザインは、商業デザインのインスピレーションの材料として気楽に扱われすぎているのかもしれません。

    ※     ※     ※     ※     ※

 ニコラス教授はそうした民族由来のデザインを気楽に扱うことで受ける民族の被害を列挙します。

①民族の祖先の知識や財産に触れられなくなる
②民族遺産の適切な管理ができなくなる

③聖なるものへの敬意の喪失
④文化的特色が商業化されてしまう

⑤特別で聖なる象徴が不適切、あるいは危険な取り扱いを受ける
⑥民族の自信喪失

⑦変形されたものが民族本来の創作に置き換わってしまう
⑧芸術としての管理もされなくなる

⑨本物に対する脅威
⑩生計手段の喪失…などなど


 ニコラス教授は、これらのことがおきるのは西洋的な所有権をを認める法体系に由来しているといいます。

 先住民族ではそうした知的財産をしばしば個人的な所有よりも民族全体での共有物として独占をさせない思想が多く、西洋的な法体系で保全されるような運動をしていないのが現実だからです。

 日本政府もアイヌを先住民族として認定したからには、こうした知的財産も保護するような政策が必要になるかもしれません。

 そうでなければ"Made in China"のアイヌ工芸品ができてしまうかもしれません。それは安ければよいというものではなく、それを生み出した民族の歴史に対する冒涜と言えるでしょう。

 ニコラス教授は、こうした研究を国際的学術的に進めるIPinchという活動団体の中心的人物であり、今後各国の研究者や先住民族との交流を深めたいと考えています。

 民族の財産の行く末は、必ずその民族の了解や納得、あるいはその使用に対する敬意を払うようなルールはどのようにして作り上げることができるでしょうか。



 なかなか大きなテーマですが、文化の多様性の中に生きる我々に課せられた今後の課題であることは間違いありません。



                 【会場には各国先住民族研究者の姿も】
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