北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

良いお話を聴いたときは質問をしよう

2005-09-05 23:30:56 | Weblog
 講演会で良いお話を聞いたときは、必ず一つだけ質問をしよう。そういう気構えで話を聞こう。それが講師に対する礼のつくし方なのです。

 さて今日は、
■地域協働プロジェクト講演会 の1本です。

【地域協働プロジェクト講演会】
 午後に開発局内の講演会で、武蔵工業大学学長である中村英夫先生をお招きして、北海道にエールを送る講演会をしていただいた。

 冒頭、「このたび国では全総に変わるものとして国土形成計画法を作ったけれど、北海道と沖縄はこの対象の外にある。大丈夫かなあ、と思います」とちょっと心配なイメージをお持ちのようだ。

 それでも今日は、北海道のファンである一人の知識人として、北海道がどういう方向に進むのがよいか、という点について「思いつくままに」お話をしてくださった。

 「北海道の良いところは高い生活水準、豊かなインフラと美しい自然」とまずは持ち上げつつ、「課題は開発投資依存、移入超過、人口停滞・若年層の流出、札幌一極集中と地方都市の衰退、災害多発、観光地の俗化、国際交流の弱さ、海外投資の少なさ」などと手厳しい。
 特に国際交流の弱さという点では、「北海道では英語が通じないという評判です」ということを何回もおっしゃった。相当心に焼き付いたイメージなのだろうか。

「今後は中央の財政が厳しくなり公共投資も減るだろうし、少子高齢化、農業の競争激化、社会資本の維持費の増大なども影響してくるだろう」と雲行きは怪しい。

 そこで新たな方向の模索として、海外で発展してきた事例をまずは観察しようと、アイルランド(面積7万平方キロ、人口350万人)とオーストリア(面積8.4万平方キロ、人口811万人)と北海道(面積8.3万平方キロ〈北方領土含む〉、人口568万人)とを比べてお話をされた。

 要するに、北海道はアイルランドという一つの国家と同程度の自然環境を持ちつつ、おそらく経済ではそれを上回っているはずなのに、片やアイルランドは1973年のEU加盟以来、なぜか元気が出てきて、今では国家財政も黒字になり明るい雰囲気が漂っているというのだ。

 その原動力として先生は、IDA(Irish Development Authority=アイルランド開発庁)という組織ががんばって海外からの投資を呼び込むためにネットワークを作り、投資家のニーズに応えるべく力を尽くしていることを上げられた。
 具体的にはEUからの開発援助も上手に受け取りつつ、IT産業の発展を進め、若年層が多いことと英語圏であることなどが有利に働いているという。

「北海道開発局とIDAの間で人事交流でもしてみたらいかがですか」とはなかなかのアイディア。私に行かせてくれないかなあ。

    *   *   *   * 

 一方のオーストリアという国は、地域の魅力創出と観光振興に国を挙げて力を尽くしているという点で面白い対象だ。

 この国は観光収入が1.5兆円でGDPの約6.5%を創出していて、観光関係雇用者数は50万人、雇用者全体の14%にも達するという。

 北海道と比較すると
        観光客数 泊数
 オーストリア 1800万人 8200万泊(海外からのみ)
 北海道     596万人 4100万泊(道外からのみ)
ということになる。

 オーストリアの観光政策は、山と湖、スキー、都市と文化の三本柱で、イベントでは音楽祭と映画、さらに対外広報重視、環境保全のためには開発抑制、景観規制、小規模宿泊に重点を置いているという。
 「実際、日本でもバブル期に見られたマス・マーケットを対象とした大規模宿泊施設は日本中で皆失敗しているのです」とは厳しいご指摘である。

 また観光客サービスとして、宿泊施設の格付けや余暇活動の整備、情報提供を盛んに行っている。北海道ではかつて全国財務局長会議で北海道観光について「自然は一流、施設は二流、料理は三流、サービスは四流、関係者の意識は五流だ」と発言したところ、この発言に道内の観光関係者が激怒し、この財務局長を取り囲む一幕があったという話を聞いた。

 なかなか興味深い話で、頭に上った血が収まったところでもう一度その発言をどう思うか関係者に訊いてみたいところである。

 まあ北海道の観光は重要な柱にちがいないのだ。

 余談だけれど、トンネル工法で良く出てくるNATM(ナトム)工法が、New Austrian Tunnel Methodの頭文字をとったものだと初めて知りました。へー。


    *   *   *   * 

 そんなわけで、では北海道はどうしたらよいか、というお話に移る。

「一つには、もし北海道が独立した国家だったらどういうことを優先的に行うか、ということをシミュレーションしてみるのも面白いでしょう」というのは本気で独立しなさい、と言うことではなく、国の一部としての北海道という位置づけと、北海道のための北海道のあり方は違うのではないか、ということ。

「産業誘致や教育などにも切磋琢磨が必要で、九州は7県がそれぞれ国立大学を持ちしのぎを削っているが、北海道には北大くらいしかない」という点は本当だ。そのためには分県も有効かも知れない。

 観光政策の強化や自然環境保全、景観改善なども重要だし、住民参加の向上はこれからの政策推進の上では必須の条件だろう。

「北海道開発局も北海道最大のシンクタンクだと自覚しなさい。開発から地域開発へ移行しなさい」というのはありがたい応援だ。

 私自身も観光に対して開発局がどういう形で参画出来るのかということを日夜考えているが、新しい発想が必要な時期でもあるのだろう。

「外国人を一人招けば、その一人が落としてくれるお金は、自動車を一台売って設けるのと同じだけあるのです。10万台の自動車工場は簡単に作れないけれど、10万人の外国人観光客を迎えることならできないことはないでしょう」だって。そういう発想は初めてだ。

 最後に北海道と外国の絵葉書の違いについて一言触れられて、「北海道の絵はがきは自然環境を美しく撮った写真がよく使われますが、海外のそれは家並みの美しさなど、人工物が主役になり人の営みが美しいと言うことをPRしているものが多いのです」と述べられた。こういう視点も初めてだ。
 まさに、我々のライフスタイルが美しいのかどうか、ということなんだな、きっと。

 …というわけで、講演会はここまで。大変面白いお話でありました。

    *   *   *   * 

 最後の20分間は会場との意見交換。冒頭に書いたように、こういう良いお話を聴いたときは講師に質問をするというのが聴衆の礼儀である、と普段から言っている私としては真っ先に手を挙げずにはいられない。

「先生にご質問ですが、北海道の観光政策を語る上で、観光には民間事業が多く関わっている状況や、地方分権で国から地方へ、という流れの中で、国として特に北海道開発局としてどのように旧運輸省と違う形で観光政策に関わりを持つことが出来るとお考えなのか、もう少しお聞かせください」と述べた。

 先生からは「戦後日本は観光と言うことをほとんどまともにはやってこなかったのです。海外へ出すことばかり熱心で、最近になってやっと国を挙げてやろうという機運が盛り上がってきたばかりです。外国には観光省があるくらいですから、もっとやっても良いと思います。関係する分野を集めることが大事ですが、北海道開発局も道庁や民間とタイアップするなどして遠慮せずにやってみてはいかがですか」というアドバイスをいただいた。
 
 国として北海道を観光面でどうするのか、という点については第六期北海道総合開発計画の中にもある程度記載がある。この延長線上に活路があるのかも知れないね。もう少し勉強してみましょう。


 私の後にも質問者が3人続いてくれて嬉しかったけれど、これだけのお話を聞いて、疑問質問、あるいは講師にもっと話して欲しいと思う人間がこれだけしかいないというのも寂しい話。
 北海道最大のシンクタンクが泣きませんかねえ。

 本当なら30人くらいがばっと手を挙げて欲しかったけれど、こういう場面で目立つことをするのはなかなか気が引けるものだ。

 だから普段から「あの人ならそういうことをしかねないね」と思われておくことも必要なんだな、きっと。何事も突然は出来ないものだから、普段から頭の中でシミュレーションしておくことが大事なのだ。
 普段から、ね。
コメント
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