私は『冬ソナ』日本初放送には間に合っていなくて、その年の年末の再放送か何かで一気にハマって、そこから十年くらい濃い韓流ファン生活を送っていました。2001年から2012、3年くらいまでのことですね。韓ドラと韓国映画を見て韓国料理を食べて韓国語を習いソウルに年3くらいで行って、ロケ地巡りをしチムジルパンに通いソルロンタンを食べキムチとシートマスクと韓国海苔を爆買いして帰国していました。K-POPにはハマらなかったので、だんだんメインのドラマ出演者がアイドルっぽくなっていく流行りに乗れずになんとなく遠ざかりました。
当時、「トモトモのヨンヨン日記」のち「トモトモの韓流侃々諤々」というブログをやっていて、サービス終了時にうまく移転できず貴重な記録をなくしてしまったと後悔しているのですが、コロナのステイホーム期に手持ちのDVDなど見返して、その感想は記事にしました(こちらからこちらまで)。同じころ、BSなどで『明蘭』『如懿伝』あたりから華流ドラマを見るようになり、しばらくいろいろ見ていましたが、だんだん飽和してきたというか当たり外れがあって好みで選別できるようになってきたので(役者の顔が好きか、キャラが好きか、関係性に萌えるか、ストーリーがおもしろいかのどれかがないと、4話くらいまでで見限って離脱してししまう)、さらに手を広げるべく最近の韓ドラはどんななのかしらんとちょっと見てみたら、なんせ韓国語はちょっとはわかるのでもちろん字幕で見ているんですけれどニュアンスがわかって楽しく(華流は標準中国語?の問題もあってもとの台詞も吹き替えだそうで、ときどき役者が同じなのに声が違うドラマがあるので、だんだん違和感が出てきてしまいました…)、久々にときめきました。アボジオモニーズは私が見ていたころとメンツが変わっていなかったりするし、何より当時のスターが十年経ってもまだちゃんと主役を張っていたりするので、それも楽しいです。そういえば、私はまだ観られていないのですが、『愛の不時着』の主演コンビも私がハマっていたころにはもういた役者さんたちでした。当時ももちろん、まさかここが結婚するとはねえ…なふたりでしたが。
ま、そんなわけで、この『彼女の私生活』も、「お、キム・ジェウクじゃん! さすがにおじさんになったなー、でもいい味出してるなー」くらいの感じで見始めたのですが、とてもウェルメイドなラブコメだったと思うので、以下ねちねち語りたく思います。
2019年のtvNで放送された全16話のテレビドラマで、私が見たものは全20話に編集されていました。韓国のテレビドラマは1話の尺が1時間以上あるものがほとんどなので、日本でCM入り、ノーカットで放送しようとすると枠の関係でこういうことになるのかなと思います。確かにトートツなヒキも多かったようにも思いますが、それほど気にはなりませんでした。原題ママ。
ヒロインのソン・ドクミはパク・ミニョン。私はお初かなあ? 美術館の学芸員で、ことさらに作っている感じはないけれどバリッと働くデキる女で、その実アイドルオタク、という役どころ。
相手役がキム・ジェウク演じるライアン・ゴールドで、アメリカ育ちの韓国人。彼女が勤める美術館に新しい館長として赴任してくるのですが、その前にとあるオークションで同じ絵画を彼女と競り合うところからお話は始まります。
私はかつてドラマ『コーヒープリンス1号店』とか映画『アンティーク』(原作はよしながふみ『西洋骨董洋菓子店』)で彼を見ていてまあまあ好きで、そのときはまだまだ美青年キャラだったと思うのですが、今や三十代になって(役は33歳設定かな?)、まあおじさんというのは言いすぎですがそれでも若者ではなく壮年、中年に足を踏み出したいい感じの男臭さ、その上でのマイルドでスマートで素敵な感じがよく出た役者さんになっていて、この役もとても良くて、楽しく見てしまったのでした。
他に、ドクミがメロメロのアイドルグループ「ホワイトオーシャン」のシアン、というのがチョン・ジェウォン、ドクミの幼馴染みウンギがアン・ポヒョン、ドクミの親友でオタ仲間でお嬢様のソンジュがパク・チンジュ、ライアンの幼馴染みで海外で活躍する映像作家チェ・ダインがホン・ソヨン、ドクミのライバルオタ・シンディがキム・ボラという布陣でした。
ドクミは、黒キャップ黒ジャージ黒マスク姿で、天体望遠鏡かなみたいな望遠レンズのごっついカメラを掲げてテレビ局の楽屋口や空港出口に張るタイプのアイドルオタク。もちろんライブやコンサートにも行き、ファンミーティングの抽選に当たるためにものすごい努力をし、ひとり暮らしの部屋はシアンの写真やグッズでいっぱい、というありさま。撮った写真を綺麗に加工してブログに上げていて、それがファンにも好評で、「シアンは私の道」という意味のシナギルというハンドルネームで知られる(ホームページマスター、略して「ホムマ」だそうな)要するにトップ・オタです。母親にはいい歳をして…みたいに怒られていて、なので職場などでは隠しています。でもあまり悪いことだとか恥ずかしいことだとは考えていない感じなんですね、その案配がとてもよかったのです。こういうネタのとき、必要以上にそれをやられると、隠れキリシタンでもあるまいし…とか犯罪じゃないんだし…とちょっとしょんぼりするので。また、シンディも同じく有名オタでシナギルに対してライバル意識があるようで、こちらは自宅凸とかをやっちゃうやらかしタイプで、ドクミはそういうのはよしとしていない、というのもよくできているなと思いました。ドクミとライアンの美術館でシアンのコレクションを展示することになり、仕事なんだからとクールを装いつつムヒムヒするドクミとか、その打ち合わせの出入りを目撃して誤解して妬いたシンディが騒ぎ立てるとか、その彼女はライアンの前の館長の娘で…みたいな絡まり具合でお話とはテンポ良く進んでいきます。
シアンとドクミがつきあっている、と誤解されて炎上したので、その火消しのためにライアンとドクミがつきあっている振りをして…という、ラブコメに百億回出てくる偽装恋愛がやがて本気に…パターンなのですが、これもとても案配がよかったです。ライアンは帰国したときにシアンの帰国と重なって、カメ子をしていたドクミとぶつかるということもしているのですが、そこからいろいろあって彼女がシナギルであることに気づき、でも黙っていて…みたいな流れも、必要以上に陰湿じゃなくて微笑ましくて、とてもよかったんですよね。ドクミの方もオタクがバレてあわあわする感じがちょうど良くて、卑屈さは全然なかったのでした。また、お互いだんだん惹かれ合ってきて、偽装じゃなくてちゃんとしたおつきあいにしましょう、となる前に誤解で一度離れるターンがあるんですけれど(これまたラブコメ百億回あるある)、そこもねちねち引っ張ってくどくどやる感じがなくて、すぐちゃんと誤解が解けて告白し合ってラブラブになって、そのラブラブもホントてらいがなくて清々しくて微笑ましくて、とてもよかったのでした。
そう、私が『冬ソナ』にハマったときに、キャラにせよ演じる役者にせよ、男性が無意味にマッチョじゃない、本当に素直で優しいことに感動したんですよね。今はそうでもないかもしれないけれど、当時の日本のアイドルとか人気男性俳優はみんなスカしていてわざと不機嫌そうにしてみせて、それがクールとかカッコいいとか言われていましたけどその実周囲にケアや気遣いを求める傲慢さが滲み出ていて、私はそれに本当に鼻白んでいたので、こんなに近いお隣の国にまったく違う文化があることに心底驚いたのでした。今回も、ライアンのストレートなデレっぷりは本当に気持ちがよかったです。日本のドラマなら今でも、もうちょっとスカさせるか、逆に偏執的に溺愛させるところだと思います。でもライアンは、シアンやウンギに対しても不必要な嫉妬をしないし、ドクミの意志をものすごく尊重する。その上で、恋人同志としてもっと一緒にいたい、みたいな主張はするし、そのために自分の仕事とかはちゃんと調整するし、プレゼントその他も、親への気遣いもちゃんとする、ものすごくちゃんとした大人なのです。そう、全体に人間の捉え方が幼稚じゃないんですよね。ホント日本って何もかもが幼稚でお子ちゃまなんだなー、と痛感します…
ライアンとダインが結局どういう幼馴染みだったかは語られませんでしたが、アーティスト仲間だったのか、学生時代やもっと前からの知り合いだったのでしょうか? 描けなくなる前のライアンは屈託を抱えた暗い目をしたイケメンでモテて来る者拒まずで、ダインはそれを傍らでずっと眺めていて、告白しないでいたのかもしれません。
一方、ナンギの方もカットのせいなのか当初はちゃんとした説明がなく、弟?同級生?従兄弟?ナニ?とか思っていたのですが、実は赤の他人で、ここもとてもおもしろかったです。生さぬ仲の兄弟、みたいなのは物語のド定番ではありますが、韓国ってこれまた日本より多文化(タムナ)家庭が多いんだそうで、国際結婚とか移民とか養子とか、海外にルーツを持つ人と家族になることがそんなには珍しいことではないようで、またそうしたこととは別に、甥や姪でも我が子と同じように育てるとか近所の子でも一緒くたに面倒見るとかがドラマでなく現実に日本より断然多いようです。ドクミとナンギも、母親同士が産院で仲良くなっただけの仲で、でもナンギの母は未婚でバリキャりで性格的にも子育てに向いたタイプではなかったので…ということで、ドクミの両親がナンギを引き取って一緒に育てることにしたようです。のちにドクミの弟も生まれるわけですが、ひとりもふたりも三人も同じと言えば同じなのかもしれませんし、ドクミの父親が働かなくなるのはドクミの弟の事故死きっかけなのかもしれませんが、その前後でもナンギの母が入れる食費は現金収入としてこの家庭にはありがたかったはずで、そういうトントンのつきあいだったのでしょう。ソンジュ含めて同級生で仲良しで家族同然、のつきあい…
それが、ナンギの方はドクミを意識し出して…というのもラブコメあるあるすぎる展開でしたが、これも重たすぎずしつこすぎずしんどすぎず、ナンギが素敵に納得し引いてくれて、とてもよかったです。ラストはよくある「1年後」みたいなパターンでしたが、シンディとユーチューブのカップルチャンネルをやっているようで、まだ恋人未満なのかもしれませんけれど、とてもほっこりしました。帰国してしまったかもしれないけれどダインともいい飲み友達になっているのかもしれず、ナンギはそういうとてもいい男なのでした。
ソンジュはビル持ちの社長令嬢で裕福で、夫は薄給のテレビ局務めで自分は趣味程度のカフェを経営していて、おそらく収支は全然赤字でも実家から仕送りをもらっているような状態なのかもしれません。でも性格的にはお金持ちの意地悪お嬢様みたいなんでは全然ない、フツーのヒロインの親友役なところがこれまたよかった。別にお金持ちみんなが悪役令嬢な必要はないわけで、この程度にお金に困っていない人って普通に実在するし、でもそれが友達づきあいのネックにならないことも普通にある。そういう「普通」をきちんと取り込んで描くドラマなところが本当によかったな、と思いました。ソンジュの夫が彼女たちのオタ活をドキュメンタリー番組のネタにしてトラブルになるターンも、ソンジュの怒り方がまっとうで、とても清々しかったです。
さらに初期は、ドクミとソンジュがペタペタしているのを見てライアンが彼女たちをレズビアン・カップルだと誤解する、というターンがあるのですが、これも冷笑とか差別の視線がまったくなくて、ただ今の韓国社会ではマイノリティで苦労しているだろうからできる便宜は図ろう、みたいな感じで動くライアンの姿勢が素晴らしかったし、そういう姿勢のこのドラマが本当にちゃんとしていると思いました。誤解されていたことに気づいたドクミもただ笑っちゃうだけで、必要以上に怒ったり恥ずかしがったりしないのがまたよかったです。同性愛は数が少ないだけで恥ずかしいことや悪いことではない、という思想が根本にちゃんとあるのがわかるのです。すごいなあ、進んでるなあ、でも当然のことなんだけどなあ、翻ってなんで日本は…嘆息するばかりです。
ドラマ後半はライアンの実母捜しがテーマに展開されました。これまた日本以上に海外養子が多い韓国のこと、韓ドラあるあるネタではあります。お絵かきとシャボン玉で遊んだ幼い記憶が、ドクミとライアンをさらに深くつなぎます。ドクミは主に経済的な理由で留学をあきらめ、画家にならずに学芸員になったわけですが、今はもうそれを挫折だとは捉えていなくて、美術館の仕事を愛しまた仕事ができる女性として描かれているのも気持ちがいいです。ライアンは実母を想起させる絵画を発見して自分では絵が描けなくなってしまったようですが(カットがあるのかこのあたりもあまり細かい説明、描写がなかったのですが)、いろいろ解明されて母と弟ができて再び絵が描けるようになって、ふたりはアーティストとキュレーターとしてグローバルな活躍をしていく…というラストが本当に清々しく、またスケール感があって、こういうのも日本のドラマではなかなかないな、と思いました。だってちゃんとリアリティがありますもんね。日本でやっても残念ながらそれはただのドリーム、なんちゃってグローバルにしかならない気がする…ホントしょんぼりです。
そんなわけで、特に目新しいことをやっているわけではないんだけれど、きちんとアップデートされた、とても上質のラブロマンスで、でもおそらくこれが今の韓ドラの平均的な出来なんだろうな、と思うとホントうらやましい限り…と思ったのでした。
楽しい鑑賞でした!
当時、「トモトモのヨンヨン日記」のち「トモトモの韓流侃々諤々」というブログをやっていて、サービス終了時にうまく移転できず貴重な記録をなくしてしまったと後悔しているのですが、コロナのステイホーム期に手持ちのDVDなど見返して、その感想は記事にしました(こちらからこちらまで)。同じころ、BSなどで『明蘭』『如懿伝』あたりから華流ドラマを見るようになり、しばらくいろいろ見ていましたが、だんだん飽和してきたというか当たり外れがあって好みで選別できるようになってきたので(役者の顔が好きか、キャラが好きか、関係性に萌えるか、ストーリーがおもしろいかのどれかがないと、4話くらいまでで見限って離脱してししまう)、さらに手を広げるべく最近の韓ドラはどんななのかしらんとちょっと見てみたら、なんせ韓国語はちょっとはわかるのでもちろん字幕で見ているんですけれどニュアンスがわかって楽しく(華流は標準中国語?の問題もあってもとの台詞も吹き替えだそうで、ときどき役者が同じなのに声が違うドラマがあるので、だんだん違和感が出てきてしまいました…)、久々にときめきました。アボジオモニーズは私が見ていたころとメンツが変わっていなかったりするし、何より当時のスターが十年経ってもまだちゃんと主役を張っていたりするので、それも楽しいです。そういえば、私はまだ観られていないのですが、『愛の不時着』の主演コンビも私がハマっていたころにはもういた役者さんたちでした。当時ももちろん、まさかここが結婚するとはねえ…なふたりでしたが。
ま、そんなわけで、この『彼女の私生活』も、「お、キム・ジェウクじゃん! さすがにおじさんになったなー、でもいい味出してるなー」くらいの感じで見始めたのですが、とてもウェルメイドなラブコメだったと思うので、以下ねちねち語りたく思います。
2019年のtvNで放送された全16話のテレビドラマで、私が見たものは全20話に編集されていました。韓国のテレビドラマは1話の尺が1時間以上あるものがほとんどなので、日本でCM入り、ノーカットで放送しようとすると枠の関係でこういうことになるのかなと思います。確かにトートツなヒキも多かったようにも思いますが、それほど気にはなりませんでした。原題ママ。
ヒロインのソン・ドクミはパク・ミニョン。私はお初かなあ? 美術館の学芸員で、ことさらに作っている感じはないけれどバリッと働くデキる女で、その実アイドルオタク、という役どころ。
相手役がキム・ジェウク演じるライアン・ゴールドで、アメリカ育ちの韓国人。彼女が勤める美術館に新しい館長として赴任してくるのですが、その前にとあるオークションで同じ絵画を彼女と競り合うところからお話は始まります。
私はかつてドラマ『コーヒープリンス1号店』とか映画『アンティーク』(原作はよしながふみ『西洋骨董洋菓子店』)で彼を見ていてまあまあ好きで、そのときはまだまだ美青年キャラだったと思うのですが、今や三十代になって(役は33歳設定かな?)、まあおじさんというのは言いすぎですがそれでも若者ではなく壮年、中年に足を踏み出したいい感じの男臭さ、その上でのマイルドでスマートで素敵な感じがよく出た役者さんになっていて、この役もとても良くて、楽しく見てしまったのでした。
他に、ドクミがメロメロのアイドルグループ「ホワイトオーシャン」のシアン、というのがチョン・ジェウォン、ドクミの幼馴染みウンギがアン・ポヒョン、ドクミの親友でオタ仲間でお嬢様のソンジュがパク・チンジュ、ライアンの幼馴染みで海外で活躍する映像作家チェ・ダインがホン・ソヨン、ドクミのライバルオタ・シンディがキム・ボラという布陣でした。
ドクミは、黒キャップ黒ジャージ黒マスク姿で、天体望遠鏡かなみたいな望遠レンズのごっついカメラを掲げてテレビ局の楽屋口や空港出口に張るタイプのアイドルオタク。もちろんライブやコンサートにも行き、ファンミーティングの抽選に当たるためにものすごい努力をし、ひとり暮らしの部屋はシアンの写真やグッズでいっぱい、というありさま。撮った写真を綺麗に加工してブログに上げていて、それがファンにも好評で、「シアンは私の道」という意味のシナギルというハンドルネームで知られる(ホームページマスター、略して「ホムマ」だそうな)要するにトップ・オタです。母親にはいい歳をして…みたいに怒られていて、なので職場などでは隠しています。でもあまり悪いことだとか恥ずかしいことだとは考えていない感じなんですね、その案配がとてもよかったのです。こういうネタのとき、必要以上にそれをやられると、隠れキリシタンでもあるまいし…とか犯罪じゃないんだし…とちょっとしょんぼりするので。また、シンディも同じく有名オタでシナギルに対してライバル意識があるようで、こちらは自宅凸とかをやっちゃうやらかしタイプで、ドクミはそういうのはよしとしていない、というのもよくできているなと思いました。ドクミとライアンの美術館でシアンのコレクションを展示することになり、仕事なんだからとクールを装いつつムヒムヒするドクミとか、その打ち合わせの出入りを目撃して誤解して妬いたシンディが騒ぎ立てるとか、その彼女はライアンの前の館長の娘で…みたいな絡まり具合でお話とはテンポ良く進んでいきます。
シアンとドクミがつきあっている、と誤解されて炎上したので、その火消しのためにライアンとドクミがつきあっている振りをして…という、ラブコメに百億回出てくる偽装恋愛がやがて本気に…パターンなのですが、これもとても案配がよかったです。ライアンは帰国したときにシアンの帰国と重なって、カメ子をしていたドクミとぶつかるということもしているのですが、そこからいろいろあって彼女がシナギルであることに気づき、でも黙っていて…みたいな流れも、必要以上に陰湿じゃなくて微笑ましくて、とてもよかったんですよね。ドクミの方もオタクがバレてあわあわする感じがちょうど良くて、卑屈さは全然なかったのでした。また、お互いだんだん惹かれ合ってきて、偽装じゃなくてちゃんとしたおつきあいにしましょう、となる前に誤解で一度離れるターンがあるんですけれど(これまたラブコメ百億回あるある)、そこもねちねち引っ張ってくどくどやる感じがなくて、すぐちゃんと誤解が解けて告白し合ってラブラブになって、そのラブラブもホントてらいがなくて清々しくて微笑ましくて、とてもよかったのでした。
そう、私が『冬ソナ』にハマったときに、キャラにせよ演じる役者にせよ、男性が無意味にマッチョじゃない、本当に素直で優しいことに感動したんですよね。今はそうでもないかもしれないけれど、当時の日本のアイドルとか人気男性俳優はみんなスカしていてわざと不機嫌そうにしてみせて、それがクールとかカッコいいとか言われていましたけどその実周囲にケアや気遣いを求める傲慢さが滲み出ていて、私はそれに本当に鼻白んでいたので、こんなに近いお隣の国にまったく違う文化があることに心底驚いたのでした。今回も、ライアンのストレートなデレっぷりは本当に気持ちがよかったです。日本のドラマなら今でも、もうちょっとスカさせるか、逆に偏執的に溺愛させるところだと思います。でもライアンは、シアンやウンギに対しても不必要な嫉妬をしないし、ドクミの意志をものすごく尊重する。その上で、恋人同志としてもっと一緒にいたい、みたいな主張はするし、そのために自分の仕事とかはちゃんと調整するし、プレゼントその他も、親への気遣いもちゃんとする、ものすごくちゃんとした大人なのです。そう、全体に人間の捉え方が幼稚じゃないんですよね。ホント日本って何もかもが幼稚でお子ちゃまなんだなー、と痛感します…
ライアンとダインが結局どういう幼馴染みだったかは語られませんでしたが、アーティスト仲間だったのか、学生時代やもっと前からの知り合いだったのでしょうか? 描けなくなる前のライアンは屈託を抱えた暗い目をしたイケメンでモテて来る者拒まずで、ダインはそれを傍らでずっと眺めていて、告白しないでいたのかもしれません。
一方、ナンギの方もカットのせいなのか当初はちゃんとした説明がなく、弟?同級生?従兄弟?ナニ?とか思っていたのですが、実は赤の他人で、ここもとてもおもしろかったです。生さぬ仲の兄弟、みたいなのは物語のド定番ではありますが、韓国ってこれまた日本より多文化(タムナ)家庭が多いんだそうで、国際結婚とか移民とか養子とか、海外にルーツを持つ人と家族になることがそんなには珍しいことではないようで、またそうしたこととは別に、甥や姪でも我が子と同じように育てるとか近所の子でも一緒くたに面倒見るとかがドラマでなく現実に日本より断然多いようです。ドクミとナンギも、母親同士が産院で仲良くなっただけの仲で、でもナンギの母は未婚でバリキャりで性格的にも子育てに向いたタイプではなかったので…ということで、ドクミの両親がナンギを引き取って一緒に育てることにしたようです。のちにドクミの弟も生まれるわけですが、ひとりもふたりも三人も同じと言えば同じなのかもしれませんし、ドクミの父親が働かなくなるのはドクミの弟の事故死きっかけなのかもしれませんが、その前後でもナンギの母が入れる食費は現金収入としてこの家庭にはありがたかったはずで、そういうトントンのつきあいだったのでしょう。ソンジュ含めて同級生で仲良しで家族同然、のつきあい…
それが、ナンギの方はドクミを意識し出して…というのもラブコメあるあるすぎる展開でしたが、これも重たすぎずしつこすぎずしんどすぎず、ナンギが素敵に納得し引いてくれて、とてもよかったです。ラストはよくある「1年後」みたいなパターンでしたが、シンディとユーチューブのカップルチャンネルをやっているようで、まだ恋人未満なのかもしれませんけれど、とてもほっこりしました。帰国してしまったかもしれないけれどダインともいい飲み友達になっているのかもしれず、ナンギはそういうとてもいい男なのでした。
ソンジュはビル持ちの社長令嬢で裕福で、夫は薄給のテレビ局務めで自分は趣味程度のカフェを経営していて、おそらく収支は全然赤字でも実家から仕送りをもらっているような状態なのかもしれません。でも性格的にはお金持ちの意地悪お嬢様みたいなんでは全然ない、フツーのヒロインの親友役なところがこれまたよかった。別にお金持ちみんなが悪役令嬢な必要はないわけで、この程度にお金に困っていない人って普通に実在するし、でもそれが友達づきあいのネックにならないことも普通にある。そういう「普通」をきちんと取り込んで描くドラマなところが本当によかったな、と思いました。ソンジュの夫が彼女たちのオタ活をドキュメンタリー番組のネタにしてトラブルになるターンも、ソンジュの怒り方がまっとうで、とても清々しかったです。
さらに初期は、ドクミとソンジュがペタペタしているのを見てライアンが彼女たちをレズビアン・カップルだと誤解する、というターンがあるのですが、これも冷笑とか差別の視線がまったくなくて、ただ今の韓国社会ではマイノリティで苦労しているだろうからできる便宜は図ろう、みたいな感じで動くライアンの姿勢が素晴らしかったし、そういう姿勢のこのドラマが本当にちゃんとしていると思いました。誤解されていたことに気づいたドクミもただ笑っちゃうだけで、必要以上に怒ったり恥ずかしがったりしないのがまたよかったです。同性愛は数が少ないだけで恥ずかしいことや悪いことではない、という思想が根本にちゃんとあるのがわかるのです。すごいなあ、進んでるなあ、でも当然のことなんだけどなあ、翻ってなんで日本は…嘆息するばかりです。
ドラマ後半はライアンの実母捜しがテーマに展開されました。これまた日本以上に海外養子が多い韓国のこと、韓ドラあるあるネタではあります。お絵かきとシャボン玉で遊んだ幼い記憶が、ドクミとライアンをさらに深くつなぎます。ドクミは主に経済的な理由で留学をあきらめ、画家にならずに学芸員になったわけですが、今はもうそれを挫折だとは捉えていなくて、美術館の仕事を愛しまた仕事ができる女性として描かれているのも気持ちがいいです。ライアンは実母を想起させる絵画を発見して自分では絵が描けなくなってしまったようですが(カットがあるのかこのあたりもあまり細かい説明、描写がなかったのですが)、いろいろ解明されて母と弟ができて再び絵が描けるようになって、ふたりはアーティストとキュレーターとしてグローバルな活躍をしていく…というラストが本当に清々しく、またスケール感があって、こういうのも日本のドラマではなかなかないな、と思いました。だってちゃんとリアリティがありますもんね。日本でやっても残念ながらそれはただのドリーム、なんちゃってグローバルにしかならない気がする…ホントしょんぼりです。
そんなわけで、特に目新しいことをやっているわけではないんだけれど、きちんとアップデートされた、とても上質のラブロマンスで、でもおそらくこれが今の韓ドラの平均的な出来なんだろうな、と思うとホントうらやましい限り…と思ったのでした。
楽しい鑑賞でした!
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