歌舞伎座、2023年4月20日11時(昼の部)。
時は平安。故郷である東国の民のために朝廷に反旗を翻した平将門(板東巳之助)は関八州を掌握する。朝廷は将門の旧友である俵藤太(中村福之助)に討伐の勅命を出す。藤太は帝の寵愛を受ける桔梗の前(中村児太郎)を恩賞に所望し、それを条件に東国に向かう。そこへ妖術使いの蘆屋道満(市川猿之助)が現れて鏑矢を贈る。藤太は将門を討ち取るが、打ち落としたはずの首はどこかに消えてしまう。この一件で将門の祟りを案じる都の若き陰陽師・安倍晴明(中村隼人)と友人で笛の名手の源博雅(市川染五郎)は、ある日、糸滝(中村壱太郎)と名乗る娘と出会うが…
原作/夢枕獏、脚本・演出/市川猿之助、振付/藤間勘十郎、補綴/戸部和久、作曲/鶴澤慎治。2013年に新開場した歌舞伎座初の新作歌舞伎として上演された作品を、次代を担う花形俳優を揃えて再演。発端、序幕、二幕、大詰の全三幕。
原作小説は昔読んだことがあるようなないような…つまり読んではいるのですが『滝夜叉姫』を読んでいるかはさだかではなく、あとはコミカライズ版の印象の方が強いかもしれません。それでもミーハーなのでウキウキとチケットを取りました。二等で十分、でも花道は観たいから一階後方のセンターブロック、と選んで買いましたが大正解でした。もちろんラストの宙乗りは二階、三階席の方がより長く楽しめたのかもしれませんが…
しかし配役発表時、晴明と博雅はキャラのニンが逆では?などと言われていたものでしたが、そういう問題ではなかった(笑)。なんというか、キャラがちょっと原作と違っていたし、何よりこのふたりは別に主役コンビでもなんでもなくて、単なるお飾りのタイトルロールであり、それでいうとやはりタイトルロールである滝夜叉姫の方がまだ悪役令嬢として(?)見せ場のあるおいしい役になっている、全体としてはとにかく悪役大活躍、という不思議な構造の作品になっていたのでした。
初演の晴明は染五郎、つまり今の染五郎パパであり、博雅は勘九郎だったそうですが主な配役にすらなく、将門が海老蔵、桔梗の前が七之助(ヤダ、観たかった!)、蘆屋道満は亀蔵さん(ヤダ、ますます観たかった!)なので、どうも役の比重がだいぶ違う様子。それはそうで内容も、当時のサイトからすると第一幕は都大路で「晴明、百鬼夜行に遭いしこと」、そこから貴船山中の「将門復活、最後の戦いと大団円」までの全三幕だったようで、つまり今回は再演といっても「新・」がついているし全然違う作品なんじゃないの??という感じなのでした。ブラッシュアップは大事だけれど、全然違うものにするならそれは再演ではないし、これだと初演版をちょっと観てみたかったかもね…とはちょっと思ってしまいました。
いや、楽しかったんですよ、めっちゃウケたし大満足でしたよ、でもちょっと思っていたのとも違うな、とも感じたので…初演の方がイメージに近かったのかな、と思ってしまったのです。
第一幕に、主役は出てきません。将門の祟りがテーマの話だから、その元のエピソードからやろう、というのはわかるけれど、前振りにしては長すぎるわけで、要するに主体はこっちです、と言っているようなものなワケです。で、第二幕になってやっと登場とした晴明が、「私が主役です、出番が遅いのは脚本のせいです」みたいなことを言って笑いを取る。他にもちょいちょい楽屋落ちの台詞や今どきの言葉が使われるギャグがある、そういう世界観なのでした。
晴明には特にキャラはなく、博雅も笛の名手というだけのキャラのようで、糸滝とトートツに少女漫画展開が始まるのですが、それもただそれだけで、特にバディものにも平安探偵ものにもなっていない印象でした。ただ、大詰で晴明が大きな袖で博雅をかばう振りがあったので、そこはキュンとしたかな(笑)。まあそれだけで、主体は悪役たちのピカレスク・ロマンみたいな方にあるのでした。
でも歌舞伎のギミックというのはこういうファンタジックなものと相性がいいと私は思っていて(私が古典歌舞伎をまだまだちゃんと観られていない素人だからでしょうが)、スッポンから現れたりセリ下がったりするのはもちろん、壁のどんでん返しで現れたり消えたり、謎の法力?をかますと相手の武器に火が点いたりといった仕掛け、何よりムカデその他に扮したアンサンブル隊とのアクロバティックなチャンバラ・アクションが湧きどころになっていて、登場人物たちの感情のドラマとかではなくそういうパフォーマンスで見せる演目なのだな、とわかって観るとそっちに完全に振りきっていて、そしてちゃんと楽しくおもしろいわけで、そういう意味でよくできているのでした。
なので祟りの調伏というか首の回収というか、はなんとジャンプ方式の「続く!」みたいな棚上げエンドで、絶賛東京公演中の宝塚歌劇月組『応天の門』とまさかの同じで笑いましたし、あちらはれいこちゃんが銀橋で歌って去るけどこちらは猿之助が宙乗りしてハケるという、そういう呼応になっています(笑)。いや酒に毒、とかホント同じことやってるやん!というのもおもしろすぎました。そういうのをそういうふうに楽しむ演目として大正解だったということです。昼の回だし、ホントのんびりわあわあ楽しめておもしろかったです。大向こうは全然かかっていなかったけれど、客席はよく湧いていました。特にいい感じでミーハーな歓声を上げる女性グループが近くにいて、嫌味でなくうるさくなく、自然で可愛らしくて、空気を盛り上げていました。大衆演劇って感じでホント楽しかったです。
児太郎さんも声がいいなあ、とか、壱太郎さんも圧巻の裾捌きの大アクションで花道引っ込み、カッコよかったなあぁ、とか、ホントいろいろ楽しかったです。てか将門と村上帝が二役という歌舞伎のランボーさ、ホント好き(笑)。
二部制になってたっぷり四時間やるようになり、個人的にはちょっと行きづらくなりました。また、七月まで私が観たい、観てわかりそうな演目や惹かれる配役がなさそうなので、来月の明治座のグランドロマン歌舞伎まででちょっと一休み、かな…でも機会を見つけてまたいろいろ観ていきたいです。お声をかけてくれるお友達たちにも恵まれていますしね…むしろおもしろいものがあれば御園座でも博多座でも行きたい(笑)。引き続き、なるべく素軽く生きていきたいと思っております。
時は平安。故郷である東国の民のために朝廷に反旗を翻した平将門(板東巳之助)は関八州を掌握する。朝廷は将門の旧友である俵藤太(中村福之助)に討伐の勅命を出す。藤太は帝の寵愛を受ける桔梗の前(中村児太郎)を恩賞に所望し、それを条件に東国に向かう。そこへ妖術使いの蘆屋道満(市川猿之助)が現れて鏑矢を贈る。藤太は将門を討ち取るが、打ち落としたはずの首はどこかに消えてしまう。この一件で将門の祟りを案じる都の若き陰陽師・安倍晴明(中村隼人)と友人で笛の名手の源博雅(市川染五郎)は、ある日、糸滝(中村壱太郎)と名乗る娘と出会うが…
原作/夢枕獏、脚本・演出/市川猿之助、振付/藤間勘十郎、補綴/戸部和久、作曲/鶴澤慎治。2013年に新開場した歌舞伎座初の新作歌舞伎として上演された作品を、次代を担う花形俳優を揃えて再演。発端、序幕、二幕、大詰の全三幕。
原作小説は昔読んだことがあるようなないような…つまり読んではいるのですが『滝夜叉姫』を読んでいるかはさだかではなく、あとはコミカライズ版の印象の方が強いかもしれません。それでもミーハーなのでウキウキとチケットを取りました。二等で十分、でも花道は観たいから一階後方のセンターブロック、と選んで買いましたが大正解でした。もちろんラストの宙乗りは二階、三階席の方がより長く楽しめたのかもしれませんが…
しかし配役発表時、晴明と博雅はキャラのニンが逆では?などと言われていたものでしたが、そういう問題ではなかった(笑)。なんというか、キャラがちょっと原作と違っていたし、何よりこのふたりは別に主役コンビでもなんでもなくて、単なるお飾りのタイトルロールであり、それでいうとやはりタイトルロールである滝夜叉姫の方がまだ悪役令嬢として(?)見せ場のあるおいしい役になっている、全体としてはとにかく悪役大活躍、という不思議な構造の作品になっていたのでした。
初演の晴明は染五郎、つまり今の染五郎パパであり、博雅は勘九郎だったそうですが主な配役にすらなく、将門が海老蔵、桔梗の前が七之助(ヤダ、観たかった!)、蘆屋道満は亀蔵さん(ヤダ、ますます観たかった!)なので、どうも役の比重がだいぶ違う様子。それはそうで内容も、当時のサイトからすると第一幕は都大路で「晴明、百鬼夜行に遭いしこと」、そこから貴船山中の「将門復活、最後の戦いと大団円」までの全三幕だったようで、つまり今回は再演といっても「新・」がついているし全然違う作品なんじゃないの??という感じなのでした。ブラッシュアップは大事だけれど、全然違うものにするならそれは再演ではないし、これだと初演版をちょっと観てみたかったかもね…とはちょっと思ってしまいました。
いや、楽しかったんですよ、めっちゃウケたし大満足でしたよ、でもちょっと思っていたのとも違うな、とも感じたので…初演の方がイメージに近かったのかな、と思ってしまったのです。
第一幕に、主役は出てきません。将門の祟りがテーマの話だから、その元のエピソードからやろう、というのはわかるけれど、前振りにしては長すぎるわけで、要するに主体はこっちです、と言っているようなものなワケです。で、第二幕になってやっと登場とした晴明が、「私が主役です、出番が遅いのは脚本のせいです」みたいなことを言って笑いを取る。他にもちょいちょい楽屋落ちの台詞や今どきの言葉が使われるギャグがある、そういう世界観なのでした。
晴明には特にキャラはなく、博雅も笛の名手というだけのキャラのようで、糸滝とトートツに少女漫画展開が始まるのですが、それもただそれだけで、特にバディものにも平安探偵ものにもなっていない印象でした。ただ、大詰で晴明が大きな袖で博雅をかばう振りがあったので、そこはキュンとしたかな(笑)。まあそれだけで、主体は悪役たちのピカレスク・ロマンみたいな方にあるのでした。
でも歌舞伎のギミックというのはこういうファンタジックなものと相性がいいと私は思っていて(私が古典歌舞伎をまだまだちゃんと観られていない素人だからでしょうが)、スッポンから現れたりセリ下がったりするのはもちろん、壁のどんでん返しで現れたり消えたり、謎の法力?をかますと相手の武器に火が点いたりといった仕掛け、何よりムカデその他に扮したアンサンブル隊とのアクロバティックなチャンバラ・アクションが湧きどころになっていて、登場人物たちの感情のドラマとかではなくそういうパフォーマンスで見せる演目なのだな、とわかって観るとそっちに完全に振りきっていて、そしてちゃんと楽しくおもしろいわけで、そういう意味でよくできているのでした。
なので祟りの調伏というか首の回収というか、はなんとジャンプ方式の「続く!」みたいな棚上げエンドで、絶賛東京公演中の宝塚歌劇月組『応天の門』とまさかの同じで笑いましたし、あちらはれいこちゃんが銀橋で歌って去るけどこちらは猿之助が宙乗りしてハケるという、そういう呼応になっています(笑)。いや酒に毒、とかホント同じことやってるやん!というのもおもしろすぎました。そういうのをそういうふうに楽しむ演目として大正解だったということです。昼の回だし、ホントのんびりわあわあ楽しめておもしろかったです。大向こうは全然かかっていなかったけれど、客席はよく湧いていました。特にいい感じでミーハーな歓声を上げる女性グループが近くにいて、嫌味でなくうるさくなく、自然で可愛らしくて、空気を盛り上げていました。大衆演劇って感じでホント楽しかったです。
児太郎さんも声がいいなあ、とか、壱太郎さんも圧巻の裾捌きの大アクションで花道引っ込み、カッコよかったなあぁ、とか、ホントいろいろ楽しかったです。てか将門と村上帝が二役という歌舞伎のランボーさ、ホント好き(笑)。
二部制になってたっぷり四時間やるようになり、個人的にはちょっと行きづらくなりました。また、七月まで私が観たい、観てわかりそうな演目や惹かれる配役がなさそうなので、来月の明治座のグランドロマン歌舞伎まででちょっと一休み、かな…でも機会を見つけてまたいろいろ観ていきたいです。お声をかけてくれるお友達たちにも恵まれていますしね…むしろおもしろいものがあれば御園座でも博多座でも行きたい(笑)。引き続き、なるべく素軽く生きていきたいと思っております。