駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇宙組『TOP HAT』

2015年04月18日 | 観劇記/タイトルた行
 梅田芸術劇場、2015年3月25日(初日)。
 赤坂ACTシアター、4月16日ソワレ。

 新作レビューに出演するためにロンドンへやってきたジェリー・トラバース(朝夏まなと)は、同じホテルに滞在していたデイル・トレモント(実咲凜音)に一目惚れ。デイルもまた、陽気でチャーミングなジェリーに心を奪われていくが、ひょんなことからジェリーが友人マッジ(純矢ちとせ)の夫ホレス・ハードウィッグ(七海ひろき)であると誤解してしまい…
 脚本・演出/齋藤吉正、音楽監督・編曲/手島恭子。1935年に公開されたフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの同名のミュージカル映画を舞台化して2011年にイギリスで初演したものの、日本初上演版。新トップスター朝夏まなとのプレお披露目公演。

 久々に人の死なない、根っからの悪人も出てこない明るくお洒落なラブコメ・ミュージカルで、楽しく観ました。私は個人的な好みとしては人が死んで愛が残るようなタイプの悲劇の方が好みなのですが、たまにはやっぱりこういうものも観たいよね、と思いました。しかし国民性として、こういうものをオリジナルで作るのはなかなか難しいものなのかなあ…
 原作映画も観ましたが(ロンドン版の舞台は未見。来日公演は観に行く予定です)、クラシカルで上品で古風で、たわいがないと言ってしまえば言えるこのお話を、今回はうまくショーアップして楽しく膨らませていていいなと思いました。例によってメイン・キャラクターの数が少ないのだけれど、アンサンブルにもよく仕事をさせていましたしね。
 ただ、フィナーレがあるとはいえもう15分かそこらはタイトにできたのではないかなーと思いました。私が深刻なもの好きだからかもしれないけれど、こういうたわいもない話はきっちりやってくれないと間延びして感じられる気がするからです。タイトにやるんでなければ台詞を足してもっとドラマを深めてほしい。ぶっちゃけ、説明不足だったりこなれていないイギリス風ジョークが多かったりで、脚本・演出に若干の手抜き感を感じました。せっかくオープニング映像はお洒落でよかったのになあ!
 あと、歌詞の訳詞がひどい。先行の歌詞があってそれがとても有名で、というんじゃないんだからもっと手を入れて、日本語としてわかりやすく聞きやすい詞にしてほしかったです。せっかくみんながきちんと歌えているのに、何を歌っているのかわかりにくいんじゃ仕方ないでしょ?
 リッツに何を置こうっていうの? ひとつのバスケットに卵を入れるって何? イージー・トゥ・ダンスって踊り易いってこと? それは何故? 踊り易いと何がどうなの? ワイルド・アバウト・ユーってセクシーだってこと? 乱暴だってこと? レッツ・フェイスってなあに?
 ぶっちゃけ私にはチーク・トゥ・チークが頬と頬くっつけて踊ろうよね、って意味だってことくらいしかわかりませんでした。あとラプリー・デイはいい日だなってことだよね? あとはわかりません、知りません。いや本当を言えば調べたし知ってるよ? でも普通知らないと思う。調べなきゃわからなかったし、常識とか教養の範囲から外れていると思います。そんな不親切な歌詞でキャラクターの感情に共鳴できるわけないじゃん、なんとかしてくれ。
 説明台詞ももう少し足していいと思うんですよね。まず、ジェリーがブロードウェイの人気スターだってこれでちゃんとわかるのかなあ? プロローグのダンス・ナンバーはこの作品のショー・アップ場面であると同時にジェリーの舞台の再現場面でもあるわけだけど、私にはそれがちゃんと表現されているようには感じられなかったんですよね。マネージャーとリポーターがゴタゴタ言う場面が、みんなが下手すぎて台詞がよく聞き取れなかったってのもあるかもしれませんけれど。
 サッカレークラブが私語厳禁の厳格な紳士クラブだということももっときちんと説明しないと、あの場面って意味不明じゃないですかね?
 デイルがファッションモデルなのもよくわかりませんでした。モデルとしての仕事をしている場面がないのだから仕方がないけれど、では今のこのロンドン滞在は休暇中ってことなの? ベディーニ(愛月ひかる)との関係もわかりづらかったと思います。ベディーニがデザインした服を無償で提供してもらって着て歩いて広告塔になっている、というビジネス・パートナーなんだと思うんだけど、パトロンないしなんなら愛人関係にあるってことなの?とも取れちゃうようなヘンな台詞しかなかった気がしました。もっとデリカシーが必要です。
 ジェリーがデイルに一目惚れして今度こそ本気の恋をした、ということももっと台詞で宣言しないとダメだと思いました。結婚なんかに興味のないチャラいプレイボーイが、また可愛い女の子に出会っちゃったルンルン!ってのとの違いが今現在、全然ありませんよ? それだけのインパクトを残せないみりおんのせいなのかもしれませんけれど、まぁみりなんだからここが本命なのは自明だろう、なんてことに甘えて作劇するべきではありません。ちゃんと台詞書いて、演出して、表現して!
 ジェリーを懲らしめるべくデイルが既婚者を装って迫るくだりの、ジェリーがデイルの嘘に気づくあたりもわかりづらかったです。結婚指輪をしていない、だから彼女は独身だ嘘をついている夫なんかいないんだとわかった、ってことでしょう? でもそういう台詞がないと、ジェリーがデイルの左手を見てるだけじゃその薬指に指輪がないことなんか客席からは見えないし、オペラグラスで役者の顔だけ観てる観客だって多いんだから下手したら気づきませんよ?
 そういう雑さが嫌。単なるテクニカルな問題なんだから、反省して撲滅していただきたいです。

 そういうことを除けば、本当に楽しく観ました。
 まずまぁ様、ニンにぴったり! ヒールのないタップシューズを履いていても脚が長い! ただの黒燕尾やタキシードやスリーピースのスーツがお洒落に決まる! 素敵!
 明るくて優しくてお茶目で、歌も健闘していたしダンスは抜群で、とにかく素晴らしいスターっぷり。新生宙組の未来は明るいです。
 いつもなんでもそつなくこなすみりおんですが、こういうキャラクターもチャーミングでいいですね。のびのびやっていたし大ナンバーもあったし、万全のヒロインっぷり、よかったよかった。
 かいちゃんも歌が格段に良くなって、何より演技が素晴らしい。ただのおじさん役になることなくただのコミックリリーフになることなく、すごくよかった! しかしホレスはマッジが財産目当てで自分と結婚したと思って内心妻不信気味だということなのかなあ? あのくだりの台詞も意味不明でもったいなかった…
 せーこも声を作ったりでやりすぎを心配していたのですが、さすがの鮮やかさ。本当は役が大きすぎるのではないか、もっと下級生の娘役にやらせるべきなのではないか、と配役発表時には実はちょっと思った私でしたが、かいちゃんのラスト宙組公演を同期と夫婦役で、という泣かせる配慮もわかりますし、やっぱり上手い。なかなかこうはできませんよね。
 またデイルとマッジがいい感じにいい女友達同士感を出していたのも良かったです。
 そして愛ちゃん、よくはっちゃけた! 初日はイタリア人だからとはいえほとんど台詞が聞き取れないぞまあ意味はわかるからいいけどさあ、とか思いましたが赤坂に来てちゃんとクリアになり、かつおもしろさは薄れていなかったのが素晴らしいし、初日のストリップ場面(笑)は本当にどよめきましたからねー。愛ちゃんはバリバリの路線スターで必ずや宙組生え抜きのトップスターになってくれると私は信じて疑っていないけれど、だからこそこういう役もちゃんとやってインパクトを残すことも大事だと思っています。カッコいいよ愛ちゃん!
 そしてホレスの付き人(という日本語もいかがかと思われる)ベイツ(寿つかさ)役のすっしぃさん! 素晴らしすぎました。あとフィナーレのカッコよさがほとんど反則。路線組長怖い。
 モンチがさすがになんでも達者なこと、さおりおかなこまりなが素敵なこと(だからこそかなこ台詞ホントがんばれ!)、アリサやしぃちゃんがさすがいい仕事をすること、ららまどか可愛いよハアハアなどなど、アンサンブル・メンバーも輝いていました。てんれーの出オチ感もすごかった!(ほめてます)

 新調のオレンジとブルーのお衣装には物申したいですが、組カラーでのデュエダンが素敵だったので我慢します。「この空(宙)の下、ともに手を取り合っていこう!」みたいな素敵な台詞もあって、じんわりきました。
 次の『王家』もまあまあ楽しみではありますが、その次の本公演はぜひオリジナルの二本立てを! まぁ様にオリジナルのショーを!! ぜひともお願いいたします歌劇団さま。
 『NW!』組との合流も楽しみですね、集合日がすぐのようですが、がんばっていただきたいものです。そしてようこそゆりか…! 楽しみです!!

 
 


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4 コメント

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Unknown (田中)
2015-04-19 20:28:52
駒子さま

はじめまして。
ツイッターでフォローさせていただいております、田中と申します。
ツイッターでも申し上げましたが、いつも楽しく拝読しております。
今回のTOPHATの観劇記もしかり…!

私は梅田で一度観ただけで、しかも宙組さんにそれほど詳しいファンでもないのですが、すごく楽しんだのを覚えています。

軽快でハッピーで、まぁ様のスターとしての陽性の魅力と作品の魅力が相乗効果で高まったかのような、お披露目にピッタリの作品。
みりおんちゃんも明るく恋を楽しむハキハキした女性の役がお似合い、まぁ様とも抜群のコンビネーションで、そのほか主要キャストの皆さんは勿論のこと、舞台の隅々まで目が楽しかったです。
私は特にせーこさんのマッジが大好きで!駒子さまの「さすがの鮮やかさ」という表現がピッタリだと思いました。
「組子の皆さんのお顔と名前が一致しない状態で観ても楽しい作品」というのが自立した一つの作品としての成功の一例だと思うのですが、私にとって、今回のTOPHATはまさにそれでした。

ただ、駒子さまが指摘されていた英語の歌詞についてや、ジェリーの設定や場面の説明不足感が、私にとっては作品を楽しむ結構大きな障害になっている気がしたので、駒子さまの文章を拝読して、よかった私だけじゃなかった…!とホッとしました。
駒子さまのおっしゃるように、冒頭のクラブの場面の意味がよく分からず(その後映画版で理解しました)、ジェリーの作品の再現場面も???のまま観ていました。
観劇後映画を観たところ、今述べた場面は本当に映画の演出のまんまな印象です。(映画を観てから観劇すればよかったのか…)
舞台として提供するのだから、もっと分かりやすいようにできただろうなあと思います。
作品自体が楽しく、キャストの皆さんがハマって魅力的に輝いておられるからこそ、もっとこうしてくれれば見やすくなったのに…!という思いが強いのかもしれません。
まあでも楽しかったからいいんですが!(^o^;)

ハッピーで皆さんの満足度が高く評判のいい作品の中に違和感を持ったときに(どんなに好きな作品でも、?となるところが大体一つはあるようなタイプの人間でして)、それを感じてる自分が変で、いけないのかしら…と思ってしまうことがこれまでに何度かあったので、駒子さまの文章に出会えてよかったです。
ありがとうございました!

長文で失礼いたしました。
今後も更新を楽しみにしております!
返信する
コメントありがとうございます (田中さんへ)
2015-04-20 11:19:06
先日の大劇場~バウではすれ違いでご挨拶できず、
すみませんでした!
コメントありがとうございます。
また以前から読んでいただいていたとのこと、ありがとうございます!

私はどんなに楽しくても、イヤ楽しいからこそちょっとの傷が気になるタイプの
面倒くさいファンなのですが(^^;)、
しつこくてもひとつひとつ指摘していけばいつか撲滅されるはず…と信じて訴えています。
ここでだけでなく演出家にお手紙もバンバン入れちゃってますしね。もうブラックリストに載っているかもしれません…(ToT)
全ツとかの再演ものはある程度トップさんに選択の余地があるとかないとか聞きますが、
基本的に生徒さんは作品を選べないので、とにかくいい作品を作ってくれるよう、
生徒に合う、生徒の魅力を引き出し開花させる作品を当ててほしい、
と切に願っています。
そして新たなファンを増やすべく、わかりやすく丁寧な作品作りをしてほしい。ディープなファンに甘えた作りはしないでほしい、と考えているのですよ…

宝塚歌劇は一般の演劇と違って生徒の輝きを楽しむ部分が大きいものですが、
それでも「組子を知らなくても楽しい作品」であるべきですよね、まずは。
そのあたりを改めて考えさせられました。

またツイッターでもよろしくです!

●駒子●

返信する
千秋楽ご挨拶 (とおやま)
2015-04-22 15:57:10
こちらにもお邪魔します。
「TOP HAT」は梅田で2回、東京は初日と千秋楽を含む4回で都合6回観劇しました。

確かに歌詞は判り難かったですね。
ちゃんとお金を払って、日頃から訳詞を手掛けている外部の人に頼めば良かったのに、と思いました。
宝塚歌劇団、ちゃんとお金払うの嫌いそうだけれど…。

もちろんまぁ様はとっても素敵で、みりおんはそつなくて、かいちゃんは愛らしかったですが、
ミュージカル足りえていたのはせーこちゃんだけだったかな、という気がしました。
歌の場面のせーこちゃんは本当に上手い。
そして小顔でこそないけど、四肢が長くて姿が良いのでドレスがとても似合う。

駒子さんのご指摘にもあるとおり、ジェリーがなぜ「これからは彼女だけだ!」と思ったか不明なのは、もちろん脚本の欠陥だけど、みりおんのせいでもあるのかなと思います。
デイルについて、「あなた何て素敵なの!」とマッジに何度セリフで言わせてみても、
正直せーこちゃんの方が素敵に見えるので、ちょっと困ったなあと思いました。
みりおん、実力は申し分ないので、もっと華やかさを身にまとえるといいですよね。
次作に大いに期待しています。

客入りが心配された公演でしたが、尻上がりにチケットは売れていき、大いに盛り上がった千秋楽となりました。

まぁ様は、新トップとは思えない落ち着いた挨拶でした。
かいちゃんを気遣いつつも、自然体で明るく晴れやかな様子で、本当に良いお披露目になったと嬉しく思いました。
何回もカーテンコールがありましたが、どの時も一番深く腰を折ってお辞儀をしていたのは、まぁ様でした。
何よりそれが印象的だった千秋楽でありました。
返信する
良い千秋楽だったのですね! (とおやまさんへ)
2015-04-23 18:06:13
出だしはホントにチケットの売れ行きが悪かったようで心配していましたが、
最後は大入りでよかったよかった…!
千秋楽、仕事がなんとかなれば行きたかったなー。
様子を教えてくださいましてありがとうございます!
まぁ様のキラキラしたトップスターっぷり、素晴らしいですよね。本公演も楽しみです。
そしてみりおんもはじけてほしい…実は未だに顔がよく覚えられないのです。
美人だとは思うのだけれど…
全体的な「ミュージカル力」の向上も課題でしょうね。
来日公演を観てみるのが楽しみです!

●駒子●
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