駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

島田明宏『絆』(集英社文庫)

2020年10月19日 | 乱読記/書名か行
 拓馬の家は福島県南相馬の競走馬生産牧場だ。2011年3月11日、東日本大震災の津波で牧場は壊滅、愛馬シロは子馬を産み落として事切れた。恋人も失った拓馬に唯一残された希望でもある子馬は「リヤンドノール(北の絆)」と名付けられ、競走馬として成長していくが…相馬野馬追の地を舞台に描く、人と馬の祈りの物語。

 正直、ルポルタージュも書ける競馬記者が取材して着想を形にしただけの小説で、文芸とまで呼べるほどの深みはないかな…と思ってしまいましたが、それでもこうした馬ものを読むのが久々だったので、けっこう楽しくのめり込んで読んでしまいました。恋人を亡くした主人公の前に次々美女が現れてモテモテになる…みたいな展開がないのもよかったです(笑)。まあそうした人間模様がきちんと描ければもっともっと深い作品になったのかもしれませんけれどね。でも、できすぎだろうがなんだろうが、それはお話だからいいのです。ワクワク読んだし感動しました。
 なので以下は、本の感想ではなくただの自分の思い出語り、覚え書きです。私が競馬にハマっていたことろの観戦記や日記その他を上げていたサイトはもうなくなってしまっていて、デジタルのテキストデータとしてはもうないからです。まとめた同人誌はまだ実家にありますけれどね…(笑)

※※※

 私は騎手の武豊と同じ年の生まれ、向こうが早生まれなので一学年下になります。向こうは中卒で2年か3年競馬学校に学んで騎手デビューしたんでしたっけ? ジェンヌか!って感じですよね。なので先輩のミッキーともどもヤングでイケメンでまあまあ勝てるスター騎手が揃ってきたときに世はバブル真っ盛りないし終宴間近、JRAは競馬場に女性客を呼び込もうと大々的なキャンペーンを張り、それに「いっちょ覗いてみようか」となった当時の女子大生のひとりが私だったのでした。
 で、ホントーにハマりました。平日は大学の授業と家庭教師のアルバイトに明け暮れ、週末はラジオの競馬中継を聞きながら一日中同人誌の原稿を描く日々になりました。私が初めてコミケに行ったのは中学の時だったかもう高校に入っていたか、とにかくまだ晴海で世はキャブ翼全盛期だったんですけれど、私はオリジナルSFなんかをコツコツ描いていたのでした。もちろんディスコを覗いたこともあったしワンレンボディコンでしたがなんせ地味な大学だったし苦学生でもあったので、ひたすらバイトと趣味に生きていたわけです。
 そして好きになった馬がレースに出るとなれば北は札幌競馬場から南は九州、小倉競馬場まで、夜行バスや新幹線や飛行機で観戦に出かけていったものでした。宝塚歌劇にハマる前の私にとって関西とは、淀と仁川と栗東トレセンだったわけです。買う馬券は数百円で、当たりゃしないし、交通費の方が全然高くて、レースは本公演3時間どころか長くても3分ないわけですが、それでも生でその場にいることが大事だったわけで、腰軽くどこへでも行きました。
 地味な大学でも世はバブル、大学を卒業して就職するまでの春休みにはクラスメイトは三々五々アメリカだヨーロッパだと一週間ほどの卒業旅行に旅立ちましたが、私は静内の競走馬の生産牧場で二週間の住み込みバイトをして過ごしました。実家のそばに乗馬クラブがあったので乗馬も始めていたのです。家族経営の牧場がほとんどでしょうがそこはわりと大きめで、全国から馬産に情熱を抱く若者が働きに来ていて寮もあって、私もお客さん扱いされることなくフツーに働かせてもらいました。ただ東京から来た女の子、という面も確かにあって、冗談でしょうがうちの跡取りの嫁に来いと何人もの牧場主から声かけられたりもしました。けれど私はもう今の会社の内定が出ていたので、予定どおり帰京し、就職したのでした。
 仕事が忙しくなると週末の休日は貴重になって、競馬場へ出かけたりテレビ観戦したりすることは少なくなっていきました。都内でひとり暮らしも始めましたが、週末には実家に帰って上げ膳据え膳一番風呂のウィークエンド・パラサイト生活を送っていて、昼間は乗馬クラブで犬の散歩をし愛馬に跨がり、ときどきローカルな競技会に出ては落馬執権を繰り返すような日々を結局20年過ごしました。馬仲間と千葉や軽井沢や盛岡や青森や旭川に外乗旅行に出かけましたし、オーストラリアにも行きました。モンゴルに行っておけばよかったなーと今でも思っています。
 四十歳になったときにトートツに家を買おうと思い立ち、都内に新築マンションを買って、それで週末に実家に帰る生活はやめて、合わせて愛馬も手放し乗馬クラブも退会しました。鞍も長靴もヘルメットも乗馬クラブに寄付してしまいましたが、キュロットとチャップスは取ってあるので、そのうちハワイででもまた乗りたいです。自転車と同じで、乗馬も乗るとなったらまた思い出して乗れるだろうと信じています。
 小学校に上がったときに父が犬をもらってきてくれてずっと飼っていましたが、乗馬を始めたのと入れ替わるように天国へ旅立ちました。犬と馬はずっと好きです。猫も好きだけど飼ったことがないので触り方や可愛がり方がよくわかりません。でも犬と馬は、わかる。馬は犬のようには表情豊かではないけれど、耳はもちろん、全身の仕草で感情や考えを伝えてきます。何より人に添おうとしてくれる動物です。愛しい生き物です。
 この小説は震災の年に生まれた子馬を巡って前後数年を描いていますが、私は架空の一年間の物語を考えていたことがありました。春の桜花賞から暮れの有馬記念まで、そしてまた春へ…という一年間です。若手騎手の青年が主人公で、競馬記者の卵がヒロインで、獣医の女性や若い馬主や恩師の調教師やライバル騎手や生産牧場や育成センターやのキャラとドラマとレースを考え、4分の1ほどは描いたんだったかなあ…全体の構想をすべて書き付けたノートが、まだ実家にあるでしょうか? オタクとしてはやっていることが四十年前から変わらないのでした。
 仕事で凱旋門賞にも英仏ダービーにも行きました。今でも馬モチーフのアクセサリーなんかには目がなくて、エルメスにもグッチにもどれだけ散財したかわかりません。馬具屋スタートのハイブランド、恐るべし。
 今は馬の歳の数え方も違うし重賞体系も馬券の種類も違うんだそうですよね。それでもまたたまには競馬場へ、牧場へ、乗馬クラブへ、外乗へ、馬術競技場へ行きたいです。






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