駒子の備忘録

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宝塚歌劇宙組『リッツ・ホテルくらいに大きなダイヤモンド』

2019年09月14日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚バウホール、2019年9月10日11時。

 アメリカの大学、セント・マイダス校では恒例の学生公演が上演されている。華やかに歌い踊る学生たちの中心にいるのは、ジョン・T・アンガー(瑠風輝)。活力にあふれ、誰の目にも魅力的に映る彼は仲間たちから絶大な人気を得ていた。ジョンの親友で公演の出資者でもあるパーシー(鷹翔千空)も、彼に強い憧れを抱くひとりである。終演後ジョンは、公演の成功も君の寄付があればこそだとパーシーに感謝する。パーシーはお金の価値について実体験をもとに語り合おうと、自分の故郷に遊びに来るようジョンを誘うが…
 原作/F・スコット・フィッツジェラルド、脚本・演出/木村信司、作曲・編曲/長谷川雅大、手島恭子。フィッツジェラルドがデビュー間もない1922年に発表した中編小説を原作にした夢物語、ファンタジー。全2幕。

 原作は未読。「いかにもキムシン」みたいな評判を聞いて、楽しみに出かけてきました。
 私は好きです。ただこれは、ファンタジーというよりは寓話だな、と思いました。そしていかにもあの時代のあの年頃のフィッツジェラルドが書きそうな話だとも思いました。もう少し前に、むしろバブル末期に上演していたらもっと響くんじゃないかな…でも宝塚歌劇は、というかその客層はそこまで世間の空気に左右されないのかな。ラストは改変されているとも聞くし、かなり宝塚ナイズされているのかもしれず、もしかしたらけっこう別物になっているのでしょうか?
 私はこれは、大きすぎる富は不幸をもたらすとか富が幸福を保障するものではない、みたいな、まあよくある、ごく普通のことを言っているにすぎないお話だよなと思いました。なので今の日本で真面目に上演すると「そんなおためごかしはどうでもいいから富をくれ」ってなっちゃうだろうな、と思ったんですよね。そのあたり、宝塚歌劇の観客はどうなのかなあ。ちなみに私は富が保障できる幸福も確実にあるよ、とも思いますけれどね…経済的な余裕があるから観劇もできてとときめきを得られて精神的に安定する、だから仕事もがんばっていける、みたいなサイクルが現状あるので。
 それはともかく、次代を担うスターの大事な初主演作、いい作品であるに越したことはありませんが肝心のスターの魅力すら生かせていない例も多い中、これはもえこや夢白ちゃんの良さを発揮させることができている、いい作品だったんじゃないかなと思いました。
 もえこはとにかく歌えるし、スタイルがいいし(個人的にはちょっと良すぎるのが心配なくらいではあります…)、弱点にもなりかねないんだけれど明るくまっすぐでいたって普通な、スマートさと素軽さが持ち味のスターさんかなと私は思っているので、ジョンには適任だったかと思います。
 そして夢白ちゃんは、美貌と声と芝居の質が不思議にアンバランスなところがある娘役さんで、路線の枠にはめづらいところが魅力なんだけれどなと私なんかは考えていたのですが、なので今回の浮き世離れした深窓の令嬢キスミン(夢白あや)役が合っていたと思います。鬘が素晴らしく、なんか素敵な靴を履いていたのにドレスの裾でチラチラとしか見えなくて歯噛みしました!
 パーシーは、どうなのかな…こってぃもそんなに暗かったり歪んでそうだったりするところがない人だと思うので(というかそういうのが萌えや熱狂的人気につながるタイプのスターがいなさすぎるのがいからも宙組であり弱さの原因なんですよね…)、もっとそういうタイプのスターが演じた方が爆発力を持ったりしたんじゃないでしょうかね?
 てか結局パーシーの「僕のジョン」発言ってなんだったんですかね? だって毎夏誰かを招待しているんだったらそのたびに「僕のジョー」「僕のマリー」とかなんかそんなだったってこと? それじゃジョンが特別だったことにならないからしょぼんなんですけど…もえこの長ーい脚にしがみつくこってぃ、ってのが美味しかっただけでさ。てかこの招待って、たまには外の風を入れないと中が淀むから、ってこと? けれどまた外に帰しちゃうと秘密が漏れるから殺すってこと? すごい短絡的…まあお話なんだからそれでいいのかもしれませんけれど…
 飛行士たち(りっつとわんたのいい仕事っぷりよ…! あとやっぱキョロちゃん押しなんですねとしょぼんとするなつ派の私…あ、沙羅ちゃんもとてもよかった!)への仕打ちの回収もありますし、楽園の崩壊は当然かなとも思いますが、ここで飛行士たちのやり過ぎにも触れているところはなかなか憎いですよね。
 ともあれジョンとキスミンはなんとか脱出できました。周りは砂漠、というか荒野でふたりは身ひとつ。でも、そこから始めるしかないのだ…ということですよね。ふたりが見つめているのは未来のようでもあり燃えさかり崩れていく楽園のようでもある。ふたりは夢と希望に満ちあふれているようにも、後悔と不安に苛まれているようにも見える…いいラストだなと思いました。

 ただしフィナーレはこってぃセンターの男役群舞から始めようよ、もえこ板付きで始めたいい気持ちはわかるけど再び幕が開くまでの間が長いよ事故かと思うよ拍手し続けるのつらいよ配慮がないよキムシン…今の形はトップになったらやればいいの、トップになるまでやっちゃ駄目な形なの贅沢なの!
 しかし久々にダンサー同士のデュエダンをがっつり観られて幸せではありました。リフトも素晴らしいけれど、終盤の、男役が腰のあたりに娘役を乗せてくるりと回して娘役は脚を大きく広げてスカートを翻させる振り、素晴らしすぎましたね!
 そしてなんとバウなのにエトワールから始まるパレードよ…! どんだけ重宝されてるのせとぅー。てかさよちゃんの美声が本編でがっつり聴けたのも幸せでした。
 学生から(大学生は「生徒」ではないよキムシン…タカラジェンヌと違うんだよ…)楽園の男女から先祖、飛行士と大忙しの下級生たちもいい意味でいいアンサンブルぶりで、とても良かったと思いました。客入りがあまり良くないとも聞きますが、終盤仕上げていってくれるといいな…期待しています。






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