駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『The Lost Glory/パッショネイト宝塚!』

2014年10月04日 | 観劇記/タイトルさ行
 東京宝塚劇場、2014年9月30日ソワレ。

 1929年夏、第一次世界大戦後の好景気に沸くアメリカ、ニューヨーク。さまざまな国からさまざまな階級の人々が夢と欲望と快楽を求め集うこの街で、誰もが羨むアメリカン・ドリームを実現させたのがオットー・ゴールドスタイン(轟悠)だった。ギリシア系の移民としてアメリカに渡ってきた彼はライマン財閥の後ろ盾を得ていまや建築王としてその名をとどろかせていた。さらに、アメリカ屈指の名門キャンベル家の令嬢でありながら画家として奔放に生きているディアナ(夢咲ねね)と電撃入籍。そんなオットーを見つめる男、イヴァーノ・リッチ(柚希礼音)はオットーの腹心の部下だった…
 作・演出/植田景子、作曲・編曲/太田健、振付/Gustavo Zalac、装置/松井るみ。

 あまり芳しくない評判を聞いていて、ダメな方の景子作品かな、とハードルを下げて行きました。でも特に後半がおもしろく感じられたので、箸にも棒にもかからない駄作という感じではなくて、もうちょっとどうにかできたらもっとずっとおもしろくなっただろうになあ…と思った、という印象でした。
 私はねねちゃんが大好きですしまっかぜーが気になっているしポコちゃんがお気に入りですが、組としては星組に一番愛というか萌えがないので、よりフラットに観てしまったのかもしれませんが…ファンならもっといろいろ目をつぶれて楽しく観られたのかなあ? ショーがいいということもありますが、大入り満員ですものね。星組ファン、すごいなあ。でも芝居としてはリピートしたくなるものではない気がするんだけどなあ。でもそれがすべてではないところが宝塚歌劇のおもしろいところだったりはします。

 さてしかし、この構造では、物語の主人公、というか少なくとも観客が感情移入して物語の展開を追うキャラクターはチエちゃん演じるイヴァーノになりますよね?
 専科のイシちゃんが主役として特別出演していますが、組のトップスターはチエちゃんなのだし、冒頭に登場して解説めいたモノローグを語るのがイヴァーノなのですから、観客はイヴァーノの立場に立って舞台を観る心の準備をここでもうさせられてしまうのです。
 イヴァーノは黒くてカッコいい。暗い情熱を秘めた男に思えます。イタリア系として虐げられ差別されて生きてきたようですが、能力はあるようで、オットーの右腕的存在にまで登りつめている。
 で、オットーが新会社を設立するにあたり、その社長に起用されるのではないかと期待していたようですが、その座はカーティス(真風涼帆)に与えられてしまう。彼が育ちのいいボンボンだから、イヴァーノではその生まれ育ちが保守的な株主たちに受け入れられづらいと判断されたから…
 そこまではわかります。で、どうなるか?
 実はここからのイヴァーノの意図が私にはよくわかりませんでした。社長にしてもらえなかったのが悔しいというなら、独立して起業しちゃうんじゃダメなの? それでオットーの会社に勝って見返すんじゃダメなの?
 あくまでオットーに認められたい、正当な評価が欲しい、というなら、さらに身を粉にして働いて次の機会を待つんじゃダメなの?
 オットーもまた差別に苦しんできて自分をわかってくれていると思っていたのに裏切られてショックで、復讐してやりたい、傷つけてやりたい、ということなの? でもイヴァーノがそこまでオットーに人間的に執着していたようには見えなかったんですけれど?
 たとえばここにBLとは言わないまでもそういう執着、愛情の枯渇や欲望が見えていれば、相手を破滅させることだけが目的になってしまって、ひどいことでもなんでもやっちゃう悲しい男の悲しい生き方…みたいなドラマになったと思うんですけれど、とにかくそういう動機とか目的とかがよく見えないので、イヴァーノがオットーに対して仕掛ける罠とか策略とかがどれもみんな姑息で陳腐で的外れに見えて、応援する気になれないのです。イヴァーノも小さい男に見えて、魅力的に感じられなくなる。
 一方、ではオットーがもう一方の主役として明るくまっすぐひたむきにがんばる素敵なキャラクターとして立っていたか、というと、これも私にはそうは見えませんでした。そらイシちゃんはカッコいいよ、超絶スタイルだしリアル男性みたいだし。でもキャラクターとしてはごく普通の男ってだけで特に魅力的に見えない。浮かれて生きてきたお嬢さまのディアナがオットーに「本物の男」を見て階級差もものともせず恋に落ちた、というのはわからないでもないけれど、そんな綺麗なだけで人間としてはまだまだ子供でなんてことない女であるディアナに恋をしたオットーは、ただの面食い、ただの容色好みの、要するに普通の男ってことじゃん、と思えてしまう。
 だからオットーがいい人で素敵でイヴァーノのことも本当はいろいろ考えているのにそれがイヴァーノに伝わってなくてそのねじれをハラハラしながら見守ってだけど物語は悲劇的に展開していって…みたいな醍醐味も感じられませんでした。
 要するに、共感したり好感を持ったりすることができないキャラクターたちが織り成す物語は観客にとっては他人事でつまらなく感じられてしまう、ということなのです。作家はキャラクターを魅力的に立てて読者や観客の共感や感情移入を誘い、その上で物語を展開させていかなければならないのです。その基礎ができていない。だからつまらない。
 なのに展開自体はドラマチックに進みます。だからもったいなかった。
 ディアナのかつてのボーイフレンドで、未だに彼女に心を残しているロナルド(紅ゆずる)がイヴァーノに利用されて破滅するのも、オットーに復讐しようとしていたイヴァーノがロナルドの復讐によって命を落とすのもおもしろい構造になっています。
 もっとイヴァーノに寄り添えて観られていたら、その死に泣けるのに。ヒロインの腕の中で死ぬなんて、敵役冥利に尽きるじゃないですか。
 ところでイヴァーノとディアナとの間には特別な感情はないように演出されていたように見えましたが、それももったいなかったし、そうだとするなら死に際の「あんな人にこんなに想われてあなたは幸せだ」みたいな台詞は誰のことを差して誰に言っているつもりのものなんでしょうね? …景子先生はおそらくどっちとも取れるように書いているつもりで、ああカッコいいワザ使っちゃったなとか悦に入ってるんじゃないかな…でもどっちにも取れなくて呆然としている人が大半なんじゃないかと思うんですけれど。
 あと、カーティスとミラベル(綺咲愛里)は何故くっつかなかったんですかね? カーティスは独身ではないんですかね? 都会に出てきたけど職がないから田舎に帰る、とミラベルは言いますが、カーティスのところに永久就職、ってオチじゃないの?と私は思っていたんですけれど…特にきちんと描かれたロマンスではありませんでしたが、あえてくっつけない意味もよくわからない。景子先生の意地悪なオールドミス根性をこういうところに激しく感じて、基本的に私は景子先生に対して一方的な親近感と近親憎悪を抱いているのでなおさらイヤなのです。あなたが作っているのは宝塚歌劇でありラブロマンスであるのだから、そこは素直にやりましょうよ。カッコつける場所が違うっーの。
 それで言うとラストのオットーとディアナはどういう関係になっているのでしょうか。離婚して、友達として見送りに来ただけ? 資金繰りに商用の旅に出る夫を妻が見送りに来ただけ? なんで明確な説明というか描写がないの?
 トップコンビに気を遣っているのかな。確かに幻想のタンゴをチエちゃんと踊るねねたんのしっくり感はハンパなかったけどね、あたりまえだけどね。でもだったら特出なんか成立しないじゃん、ヘンなの。
 あとこれ、もともとの着想がそうだったんだとしても、あまり『オセロー』だって言わないほうがよかったんじゃないかなあ…
 サムの美城れんやレイモンドの天寿光希がさすが手堅くいい仕事をして見えました。フランシスの音波みのりもよかったけどなー。伝説の靴磨きパット・ボローニャ(礼真琴)のまこっちゃんはよくわかりませんでした。歌が上手いのはわかるんだけど。あと新公映像を見た限りではイヴァーノを下品にやり好きでいるように見えて、路線スターとして心配になりました。単に好みじゃないだけかもしれませんが…
 退団する生徒にトピックが与えられていたり、ミュージカルとして大勢口の扱いがなかなか鮮やかだったりして、いい演目に仕上がって見えただけに、スターとというか前提に失敗しているのが残念でした。

 ラテン・グルーヴ『パッショネイト宝塚!』は作・演出/稲葉太地。星組お得意の黒塗りショーで楽しくてあっという間、体感時間は10分ほどだったでしょうか(^^;)。
 ねねたんのダルマ、ベニーのコミカル船長、チエねねのねっとりしたデュエダンと色っぽい歌手たち、まかぜセンターの若手5人口にまおポコはともかく紫藤りゅうに天華えまをぶっこんでくる星組プロデューサーの手腕を宙Pも見習えマジで。
 ドイちゃんのダルマはもう見せすぎな感じがしたけれどまおポコにダルマをやらせるのはこれまた正しい起用で、バウのダブル主演が楽しみです。カイあき愛りくとかダルマにしてみろよ宙P! てかずんだよかなこだよまりなだよ使っていかないと育てていかないと!!
 銀橋に残ったスター5人のうちではチエちゃんを別格にしたらねねたんが一番男前、素晴らしい。
 まこっちゃんの歌は本当に上手い。しかし上手いというだけに聞こえる。大丈夫かな?
 カポエイラの場面は圧巻、またまたの団体賞ものですね。そこからの総踊り、流れ込むフィナーレ、不思議な柄のお衣装が不思議と似合うデュエダン、パレードとあっという間でした。階段降りの人選の潔いこと、宙P見習ってくださいよマジでホント…

 チケ難で一度しか観られませんでしたが、十分でした。卒業も発表されてますます星組のチケ難はヒートアップするのだろうなあ…
 ベニーの全ツ取れてないし、まおポコのバウも友会はずれたので一般でがんばらなければ…
 武道館は友会で当たったので行きますが、諸事情あって上演時間によっては早出します(><)。ううーむタイヘンだ…



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