駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇花組『TOP HAT』

2022年03月31日 | 観劇記/タイトルた行
 梅田芸術劇場、2022年3月21日15時(初日)、30日11時半。

 新作レビューに出演するためロンドンにやってきたジェリー・トラバース(柚香光)は、同じホテルに滞在していたデイル・トレモント(星風まどか)に一目惚れ。デイルもまた陽気でチャーミングなジェリーに惹かれていくが、ひょんなことからジェリーが友人マッジ(音くり寿)の夫ホレス・ハードウィック(水美舞斗)であると誤解してしまい…
 脚本・演出/齋藤吉正、音楽監督・編曲/手島恭子。ハリウッド黄金期の同名ミュージカル映画を舞台化したもので2011年イギリス国内ツアー初演、宝塚歌劇では2015年に宙組で上演。全2幕。

 宙組版の感想はこちら、来日版を観たときのはこちら
 細かいところはいい感じに忘れて観たので、そうかこんな感じの勘違いラブコメだったっけ、とニヤニヤキュンキュンワクテカで楽しく観ました。まぁみりかいせーことのニンの違いなんかもおもしろく観ましたね。
 でもやっぱり、ヨシマサもっとちゃんと仕事して、とはまず思ったかなー。版権とか契約の問題とかもあるのかもしれないけれど、やはり脚本や演出というか演技の付け方が雑で、なんか意味がよくわからない、あいまいなところが多すぎて、気持ちよく笑えない気が少なくとも私はするんです。だから長く感じて意外と退屈する人も出てきちゃうんだと思います。もったいないよ! もっと丁寧に作ろうよ!!
 まず訳詞があまり良くないと思う。英語のままの部分が多すぎやしませんか? そしてその部分がいかにもな慣用表現だったり聞いて脳内でパッと日本語に変換しづらいものだったりすると思うので、なおさら良くないと感じました。ならもっと意訳してでも、もっとちゃんと伝わる歌詞にしてほしいなと思いました。とびっきりの歌手がいるという座組でもないので余計に感じましたね、まどかですらちょっとあっぷあっぷしてるように思えたもんなあ…
 そして台詞も足りていないし練れていないし演出とセットで意図や意味がわかりづらい掛け合いの連続で、観ていて解釈に非常に疲れる、と感じました。ル・サンクがあれば1行ごとに「この台詞の真意は? 何を伝えたくてこの言葉にしているの? でもそれならこうこうじゃないとわからなくない? そうしたらこうこうで返さないとおかしくない?」みたいに赤入れしたいくらいです。そもそもの基本設定や状況、情報の説明もなっていない気がしましたし…
 ジェリーはブロードウェイのスターで、でもロンドンのレビューにゲストか何かで呼ばれた、それはいい。モテモテだけど独身で、周りが勝手に気を揉んでいる、それもいい。
 で、ジェリーをロンドンに招聘したプロモーターがホレスで、そもそもはジェリーと良き友人関係(あるいは以前にも仕事をしたことがある?)というのはいいとして、ホレスって心配性で小心者でしなくていい心配を先回りしてくどくど心配して自滅しておもろいことになってしまうキャラ…ってことなんですかね? でもソレ、なんかよくわからなくないですか? なんちゃらクラブに出向いてくるマイティーって普通にりゅうとしていてカッコいいし貫禄あるし、なんかキャラ付けがよくわからないんですよ…あとプロモーターとしての腕はどうなの? 普通に敏腕なのそれともカツカツで常に資金繰りに苦労しているようなタイプなの? 彼が何をどう本当に心配しているのかよくわからないんです。妻の金遣いが荒いと案じているようですがどの程度の深刻さなのかもよくわからないので、観ていてどれくらい真剣に案じてあげた方がいいのかもわからなくてとまどいます。
 また、ベイツ(輝月ゆうま)はホレスの「付き人」とされていますが、付き人って聞いて普通連想されるのって芸能人の付き人、つまり内弟子みたいなあるいはマネージャーみたいな…じゃないですか? でもベイツはホレスの興行のサポートをしているわけではなく、ビジネス上の秘書っぽくもない。むしろプライベートな執事っぽいですよね? だからホレスはそもそもは坊ちゃん育ちというか、ビジネでやっている興行が当たろうと外そうと資産には実は響かない大金持ちで、でもそれとは別に妻の浪費が心配で胃が痛く薬に頼る日々…というようなことなのかなとも思ったのですが、明快な説明がないのでとにかく状況がよくわかりません。また年齢設定もよくわからない。ジェリーやデイルに比べたらホレスとマッジは年かさで中年、ということなんだろうけれどこれまた明快な説明や描写が全然ないので(くりすのおばちゃん芝居は実に上手いのですが)、普通程度のファンならジェリーとホレス、デイルとマッジが同期なことは知ってるんだから混乱しちゃうんですよ。あと、マッジは再婚らしいけどホレスはどうなの?とかね。3年目の結婚記念日を迎えるなんて新婚のうちの気もするけど、ホレスはもう妻を若い女に取り替えたいとか言っちゃってるしそもそもどういう経緯で結婚したカップルなのか、今はお互い全然別行動を取っているようだけれど家庭内離婚みたいな状況をそれでいいと思っているのか実は不満があるのかなんなのか、全然わかりません。
 これがラブコメとして問題なのは、デイルがジェリーをホレスと間違えるのと同時にマッジもホレスの浮気を疑いホレスにも思い当たりがないわけではないからこじれる、って構造なんですけど、そもそもは両想いなのである、という前提がきちんと確認された上でこじれてくれないと、誤解が解決されてちゃんとラブラブになってハッピー、というのがゴールというのも共有されないので、観客は観ていて不安になるというか、「嫌なら金払って/もらって別れた方が良くない?」ってなっちゃうでしょ、ってことです。こういう「前提の共有」は疎かにしてはいけません。それでいうなら、ジェリーもデイルもモテモテで、いつまでも独身だからモテすぎて苦労してるんだからテキトーに身を固めろ、って周りが世話を焼き出す…ってのがそもそもこのお話のスタートなんだけれど、それも明確にされていなさすぎると思います。やり方が下手、見せ方が下手すぎますよヨシマサ…そうやって世話を焼かれて、でも面倒くさいなあまあいい人がいればね…なんて嘯いていた人がコロッと恋に落ちちゃって結婚する!ってなるのがおもろいお話なんだからさ、ちゃんと演出してくださいよと思います。
 デイルも、デイルがベディーニ(帆純まひろ。私が観た回は2回ともパジャマがイタリアンバージョンで、けっこう日替わりだそうなので違うものが観られなくて残念でした…! てかこのラティーノいじりは原作映画にあるんだろうからもう仕方ないんでしょうけれど、そろそろどうにかしたら?というネタですよね…でもほってぃははっちゃけていて大健闘だったと思いました)の専属モデルなのかベディーニがデイルの専属デザイナーなのかなんかよくわからんと思ったし、デイルはベディーニの服着て出歩いて宣伝する代わりに生活費のすべてを面倒見てもらっているんだけれど囲われている愛人ではない、というのはもうちょっとクリアにしておかないとこれまた前提が気持ち悪いな、と思いました。あとデイルは結局ジェリーの顔も知らなかったし名前を聞いても「あのブロードウェイのスターの…!?」となりませんでしたけど、ジェリーってどの程度のスターなんでしょうね…?(^^;)

 …と、以上ブーブー言うだけは言いますが、でもまぁ様のあっかるいチャラさとは違ったキラキラのチャーミングさと粋さと意外に一途で一本気なれいちゃんのジェリーにキュンキュンしましたし、歌はまあいつもの出来かなという気もしましたがダンスはタップ含めてもちろん絶品でした。でもプロローグのステッキは何故ベージュなんだろう、白か金がよくない…? 普通な年寄りが持つものに見えた、って意見を見かけましたよ…
 まどかデイルもみりおんよりちょっと幼い感じで、でもまどかって意外にこういうブロンド美人役をやったことないよな? でもツヤピカメイクがとーっても似合っていてプンスカしててめっかわだぞオイ! と悶絶しながら見守りました。乗馬服もめっちゃカラフルになっていて、みりおんのを着たプログラムの写真もシックでいいんだけれどこれはこれでやっぱりまどかデイルっぽい気がして、私は好きです。ほってぃの趣味がいいということなのか!?(笑)馬場の、下半身をみっちり密着させてのダンスはまだ体重が預けきれていないというかバランスを取りきれていない気がして重そうでヒヤヒヤしましたが、チークトゥチークのダンスは絶品でした! 来日版のポスターにあったあのポーズといいリフトといい、息ぴったりで軽やかでドレスの裾のフワフワも美しく、夢のようで涙が出ました。はーきゃわうぃい。
 マイティーはホント上手いよね手堅いね、そしてくりすも本当に本当に上手いよね、そしてまゆぽんホント絶妙でしたさすが専科でしたプロローグやフィナーレにはちゃんといてバリバリ踊っているのも素敵でした。ほってぃも大健闘、そしてキョンちゃんやさなぎやカガリリちゃんが確実に脇を固めているのもイイ。糸月ちゃんも踊っていて可愛くてホントいい…んだけどあのキャラは不発で残念。これでご卒業の桜月のあちゃんが可愛かったです。あとあわちゃんの生腹、ごちそうさまでした。どこにいても可愛い美里玲菜ちゃん、しかしここからどうして起用がないのか…はなこはなんか役不足だったかもしれません、パワーを持て余しているようにも見えました。ベディーニ役替わりとかもアリだったのかも…
 生オケ、やはりとてもよかったです。送り出し音楽付き。初日は私の席からは柱で見えなかったのですが、指揮の橋本和則先生はちゃんとトップハットを被っていらしたんですね。オシャレ!
 アステアを敬愛してやまないというれいちゃんには素晴らしい出会いとなったことでしょう。珠玉の名曲に彩られたハッピーで楽しいラブコメ・ミュージカル、千秋楽までどうぞご安全に!


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