駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『ガイズ&ドールズ』

2015年11月21日 | 観劇記/タイトルか行
 宝塚大劇場、2015年9月4日マチネ。
 東京宝塚劇場、11月5日ソワレ、17日ソワレ。

 1948年ごろのニューヨーク。タイムズ・スクエア界隈で「カオ」のクラップシューター、ネイサン・デトロイド(紅ゆずる)は14年間婚約したままのアデレイド(礼真琴)をそっちのけに、クラップ・ゲームに夢中。今日も賭場を開きたいのだが、場所が見つからず困り果てていた。目をつけていたガレージも使用料として前金1000ドルが必要だという。そこへ5万ドルを儲けてラスベガスからギャンブラーのスカイ・マスターソン(北翔海莉)が意気揚々と帰ってくる。ネイサンは、自分が指名する女をスカイがハヴァナに連れて行けるかに1000ドル賭けないかとスカイに持ちかけ、スカイは余裕たっぷりに乗る。しかしネイサンが指名した女は、お堅いことで有名な救世軍のサラ・ブラウン軍曹(妃海風)だった…
 原作/デイモン・ラニヨン、作曲・作詞/フランク・レッサー、脚本/ジョー・スワーリング、エイブ・バロウズ、脚色・演出/酒井澄夫、翻訳/青井陽治、訳詞/岩谷時子。1950年ブロードウェイ初演、84年宝塚歌劇月組で初演、02年再演。全2幕。

 マオさま&ショーコちゃんの初演には間に合っていません。リカクラの再演は観ているけれど記憶がナイ…スカステでの放送とかがないから記憶が更新されないんですねー。
 もちろん『New Wave!-宙-』でのあっきースカイ&ゆうりサラ場面には萌え萌えだったワケですが(祝・スカステ・ノーカット!)…てかコレで全編観たかったですけれどね!
 ともあれちょうど放送があった映画版で予習ができて、いい感じに出かけました。
 普段は初日と千秋楽にしかない開演アナウンスへの拍手が毎回あることが、みっちゃんトップスター就任本当におめでとう感を表していますね。明るく楽しい、ハッピーエンドのラブコメディ、幸せ感があふれた公演でした。

 でも、毎度なんでもかんでも一言居士で申し訳ありませんが、引っかかるところもいくつかありました。
 まずプロローグが冗長だと思います。初演当時はお洒落だったんだと思うけれど、今観るには長い。下級生の区別がついている組ファンが観るにしたって、あまりに長く感じるのではないでしょうか。
 それから全体に歌詞も台詞も翻訳がひどい。直訳調で何を言っているのかわかりづらい台詞や掛け合いが多く、ジョークも訳しきれていなくて笑えないどころか意味不明。台詞は変えるなという契約だったとしても、日本語としてもっとこなれたものにすることはできるはずだし、しないと駄目だったと思います。だって伝わらないんだもん、そんなの台詞じゃないよ。
 さらには、台詞は変えるなという契約だったとしても、それをかいくぐってもっと説明を足してほしかった。現代日本に普通に暮らす日本人にとって、救世軍なんて何が何だかさっぱりわかりません。下手したらキリスト教の教会組織みたいなものだとすら理解されているかどうか、かなり怪しいと思います。
 彼らが何をしているのかもわかりづらい。こうした街頭演説や説教に私たちはほとんど馴染みがありません。教会に懺悔に行って神に許しを得るシステム(?)も多くの日本人は知らないか、少なくともやったことがないでしょう。彼らが街頭で何を訴えているのか観客はさっぱりわからなくて、つかみに失敗…となりかねません。
 もっとダイレクトに、賭博は罪です、蟻地獄です、身を滅ぼします、悪銭身につかず、さいころ賭博も競馬もポーカーも神は許しません! 教会に来て懺悔しなさい、でないと救われませんよ!! みたいなことをサラたちに言わせないと、駄目だと思うのです。
 クラップ・ゲームに関しても、歌があるから仕方ないにしても、極力「さいころ賭博」と言い換えちゃってもよかったのではないでしょうか。でないと賭け事、博打だとイメージできない気がします。さいころをもっと強調されれば、たいていの人はちんちろりんとか、やったことがないにしても出目を賭ける博打を想像できると思いますが、「ゲーム」と言われるといかにも軽い。スポーツにすら使われる言葉なんですからね。
 とにかくもっとワルいイメージをきちんと出していただきたいです。ギャンブラーたちがただの派手なスーツを着たビジネスマンに見えちゃうようじゃ駄目なんです。
 救世軍が軍隊を真似た組織である点も説明不足で意味不明。そもそも現代日本に軍隊がないし、教会の人間のはずなのになんでサラが軍曹なの?って普通の日本人はとまどいますよ。「お祈りトマトのくせに軍隊みたいにかっこつけやがって」とか酔っ払いにやじらせるとかなんとか、うまく説明する方法を考えてほしいです。
 ただ再演を繰り返すのではなく、そのときの観客によりわかりやすいようにより喜ばれるように、アップデートしブラッシュアップしないんだったら、手抜きと言われても仕方がないと思います。こういうザルさを私は激しく憎みます。枝葉末節だからこそ大事なんだし、たいした手間暇じゃないんだから愛情かけて手を入れろよ!と激しく言いたい。猛省を促したいです。
 ラストについても、これでいいのかなーと思うんですよねー。
 というのは、このラストってそもそもは、「ギャンブル、ダメ、ゼッタイ」って言っていたサラとアデレイドが、「結婚が上手くいくかどうかなんてわからない、所詮ギャンブル。男が変わるのなんか待ってないで、とりあえず今日結婚しちゃおう! 私は男を変えられる方に、結婚が上手くいく方に賭ける!!」ってなるのがおもしろいんじゃないですか。で、結婚してデレてるスカイとネイサンが実はちょっとだけストレスを感じていて、くしゃみしちゃう…という、その逆転と皮肉がおもしろいわけじゃないですか。そこにニヤリとするものでしょ? 本来は、多分。知らないけど。違うのかな?
 「結婚なんて所詮ギャンブル」というのと、「女は結婚しないことに、男は結婚することにストレスを感じる」というある種の真理(後者に関しては個人的にはもはや古いと言いたいが)があるから、それをハッピーエンドに仕立てているその皮肉に笑う、というものなんじゃないのかな? あくまでも本来は、ですが。
 それを、これは宝塚歌劇なんだから、愛する者同士が結婚して未来永劫幸せに暮らすことは当然なのである、というラブラブ・ハッピーエンドにするのだ、という意志をもって改変されているのであれば、それはそれでいいと思うのですよ。宝塚歌劇ファンが抱くロマンチック・ラブ・イデオロギーにそれは合致していますからね。
 でも、多分、残念ながら違うでしょ? 歌詞の「所詮ギャンブルなんだから賭けてみよう、今日結婚しちゃおう」という部分を訳せていないだけでしょ? スカイとネイサンがくしゃみするのをカットしなかっただけでしょ? この意味がわかっていないだけでしょ? そのザルさに絶望しますね、私は…
 
 でもそういうことには目をつぶりましょう、お披露目公演ですからね!
 みっちゃんは達者で素晴らしい。スマートなニューヨーカーのギャンブラーというよりは、いなせな江戸っ子でちょっといい人風味でしたけれどね。
 ふうちゃんもキュートで素晴らしい。ゆうりちゃんサラではさっぱり聞き取れなかった歌詞がちゃんと聞こえましたしね。酔っ払い芝居サイコー!
 フィナーレのふたりのデュエダンは古風で振り数が少なくて、でもそれをたっぷり見せてくれていて、とてもよかったです。
 対してベニーは、私は感心しませんでした。ネイサンってもっとダンディに作るべきキャラクターなんじゃないのかなあ、あんなにおちゃらけちゃダメなんじゃないのかなあ…
 まこっちゃんは上手すぎて素晴らしすぎました。まったく娘役っぽくなくガシガシ踊るフィナーレも素晴らしい。こんなに上手くても娘役に転向すれば?なんて言わせない実力とオーラが段違いですよね。次のバウ主演作も楽しみにしています。
 かいちゃんは三番手スターたるべきなのにベニー役で残念、という面はありましたが、小気味いい芝居をしてくれていて素敵でした。ガンガン踊るところはちゃんとカッコいいのも素敵。
 まさこはちょうどいい役でよかったですね。みきちぐがさすが、柚長もこういうキャラがピッタリですよね。しーらんのチンピラっぷりが素晴らしかったです、もちろん褒めてます。れんたは役不足だったかなあ。
 あとはポコちゃんが渋かったこと、サラとキャットファイトを繰り広げるクバーナの女Sのはるこの激マブ(笑)さが印象的でした。
 あとみっきぃアーヴァイドね! 慈愛あふれる後見人っぷり、単なる脇の老け役にならないあたたかい演技、素晴らしかったです。なかなかこうはできないと思うのです。
 まおくんにはおマヌケな役を芝居でできるだけの演技力が残念ながらないと思う。あいーりにも感心しませんでした、こういうコメディエンヌをやる技量がないと思う。
 あとはやはり綾くん、天華くんに華を感じましたね。
 ロケットセンターの真彩希帆は可愛すぎました! 次回バウ・ヒロインおめでとう、楽しみです!!

 音楽はクラシカルでとても素敵。なんのかんの言っても生で観られない人はたくさんいるので、なんらかの形でであれ記録が残ることを祈っています。映像で繰り返し見られることにはやはり意義があると思うのです。がんばれ、劇団!



 
 



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