駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『スワンキング』

2022年06月13日 | 観劇記/タイトルさ行
 東京国際フォーラム、2022年6月10日18時。

 作曲家・ワーグナー(別所哲也)は絶望していた。借金は膨らみ、構想中のオペラは上演に4日もかかるためどの劇場も相手にしてくれない。そんな彼に救いの手を差し伸べたのが、若きバイエルン国王ルートヴィヒ二世(橋本良亮)。彼はワーグナーの音楽を深く愛し、芸術の力でドイツ民族をひとつにする夢を抱いていた。だが、莫大な国費を一作曲家に注ぐ翁に周囲の目は冷ややかで…
 脚本・詞・演出/G2、音楽/荻野清子。GQコンビがゼロから立ち上げたオリジナル・ミュージカル、全2幕。

 ねねたんシシィだし、興味あるモチーフだしというんでチケット取りましたが、そういえばビューロー(渡辺大輔。すごーくよかった、大ちゃんはいつでも信頼できる!)と別れてワーグナーと結婚するコージマ(梅田彩佳)はフランツ・リストとマリー・ダグーの間に生まれた娘なんですよね、花組『巡礼の年』を観てきたばかりなのでタイムリーではありました。その他、『エリザベート』でおなじみエリザベート(夢咲ねね)姉妹の母ルドヴィカ(河合篤子)も出てきました。この時代のバイエルンだのプロイセンだのオーストリアだのドイツ連邦云々だの、はなんとなくあれこれの作品を通して、また世界史の授業でうっすらと、聞き馴染みがありますよね。
 でも作品としては、うーん…でした。G2って私には当たり外れある印象なのですが、何よりそこまでの個性を感じ取れていない作家さんで、今回はむしろ演出だけした方がいい人なのかな?と思ったくらいなのですが、この題材は本人肝煎りのもののようなので…うーんんん…
 私は日本のオリジナルミュージカルは歌入り芝居でも全然良くて、要するに芝居パートがちゃんとしていないと成立しづらいんじゃないのかなと考えているんですけれど(もちろん題材、内容にもよりますが)、これはナンバーが多いタイプのミュージカルでしたよね。なのでキャラが、特に主人公のキャラが序盤から不鮮明な感じなのが尾を引いた気がしました。でもこれは演技でカバーできるのかもしれません。この人は『ネクスト・トゥ・ノーマル』でヘンリー役で本格ミュージカル・デビュー、これが初主演ということですが、トウコさんチームの方のヘンリーだったってことかな? まあ歌は過不足なかったとは思うんですが、あまり役の感情が見えない歌い方だったかなとは感じました。歌うのに一生懸命になってしまっている感じ、というか…うーん。
 ルートヴィッヒ二世という人をどう捉えるかは難しいところだけれど、それこそ作者の切り口でどうとでもなるところでもあって、芸術、特に音楽でドイツ民族をひとつに統一しようとする、夢見がちな、理想家肌の、戦争や争いごとが嫌いな、繊細な青年…とするのはアリだと思いはしたのです。現代の視点から見ても、主役としてアリの在り方だと思う。それが、愛した芸術家も一筋縄ではいかなくて(同じ人間なんだから思うとおりに動いてくれなくてあたりまえなんだけど)、周りの親戚や官僚たちも口うるさくて煩わしくて、緊迫してくる国際情勢はシビアすぎて直視できなくて、同じく理想家肌なところに親近感を感じている憧れの従姉にだけは心を開いていて、でも惹かれるのは同性で、でもそれは駄目だと自分を縛めでもそのことに苛まれ、頼りの弟が心を病んでいくのを見て自分もそうなるのかと怯え、迷い悩み流されだんだん疲れていっちゃって…みたいに描くことはできたと思うし、それなら観客の共感や理解も得られたと思うのです。
 でも今、わりと棒なんですよね…芝居でも歌詞でもそこまで彼の感情が書かれていないというのもあるし、演じている役者も技量として感情的に、感情を乗せて歌うことができていないので、なんか何も伝わってこないんですよ…
 また、ルートヴィッヒとワーグナー、の話にはなっていません。コージマは自分とワーグナーとビューローとルートヴィッヒで良きカルテットみたいなことを歌うのですが、良きチームとして働けていたのは一瞬だし、コージマを巡る三角関係に主人公は関係ありません。もっと、ルートヴィッヒは色恋ではないにせよコージマに対しては女性には珍しく人として好感を持っていたのに、その不倫とかは神経質で潔癖な彼には許せなくて…みたいなドラマを作ってもよかったのかもしれません。要するにワーグナー周りのことは主人公とあまり関係ないままに話が進むので、お話が分断、分裂されているような気がするのです。でもこれ、別に群像劇を目指してませんよね? タイトルロールはルートヴィッヒですよね、あくまで彼の物語であるべきなんですよね、なのに何故こうも主人公が埋没し、孤立する構造になっているの…?
 ヒロイン格のキャラクターとしてコージマとシシィのふたりがいるわけですが、シシィもあくまで憧れの従姉、そして美や芸術や理想の象徴みたいな形でしか登場しないので、主人公の感情面にあまり機能していないんですよね。ワーグナーとのBLみたいに作らないんだったら、誰かルートヴィッヒの恋人の青年を架空の人物でもいいので立てて(ルッツの牧田哲也が声がイイしメガネだしでときめいたんですけど、たとえばどうよ?)、そこを感情のドラマのキモにした方がよかったのかもしれません。その意味では「幻」という役を作ってミドリに当てた景子先生の方が上手かったと思います。

 セットは素敵だったけれど(美術/乘峯雅寛)、『巡礼』もたいがいでしたが装置を動かしている黒衣のスタッフさんがちょいちょい丸見えで、もうちょっとなんとかしてほしかったです。アンサンブルがやっているところはよかったと思うんですけど。
 別所さんはきっちり役目を果たしている感じ。この物語の中で別にワーグナーは好かれたり共感されたりする必要はないんだと思うので、脚本にある、わがままな天才音楽家のおっさん、を楽しげにやっていて、でも作品や主人公を支えようとしている感じはまったくないなと思いました。それは自分の仕事ではない、とこの脚本に対して割り切ってしまっているのではなかろうか、と思えました。
 梅田彩佳は私は以前も何かで観たことはあったと思うのですが、アイドル出身だろうと今はちゃんとミュージカル女優ができる人だと思うのでそれはいいんだけれど、もともと首が短いのかドレス姿が女優さんの中で一番美しくなく、しょんぼりでした(衣裳/前田文子)。もっと肩を落としてデコルテを綺麗に見せて立つ勉強をするか、首が長く見えるデザインのドレスにしてもらってほしかった…あと、これまた歌えるだけに力任せに、本人だけが気持ちよく歌っている印象で、コージマのキャラは全然伝わってこず、なんかあまり感心しませんでした。ワーグナーの最初の妻ミンナ(彩橋みゆ)やテレーゼ(藤田奈那)なんかの方が断然よかったなあ。あとルドヴィカも声がとても良くてちゃんと芝居をしていて、安心できました。
 ルートヴィッヒの弟オットー(今江大地)もジャニーズ枠でしたが、あまり感心せず…てかタッパがなくて見栄えが悪いのがなんとも…何度かリプライズされる重臣たちの三重唱みたいなのが一番良かったかな、上手くて安定してたからな…
 ねねたんはそら綺麗なので、よかったです。歌は本人比で上手くなっていると思うし、声量があまりないんだけどずいぶんな高音も綺麗に出せていて、なかなか健闘していると思いました。ずっと黒いドレスでいくのかなーと思っていたらいわゆる鏡の間ドレスも披露してくれて、その次の旅装みたいな黒ドレスは(馬上の写真なんかで残っているものに似せたのかな?)めっちゃウェストが絞れていて惚れ惚れと美しく、大正解でした。

 こういう作品って仕込まれているのか特に好評でなくても二年後くらいにひょいっと再演されたりしますが、脚本がブラッシュアップされ、一部キャストが変更になったりすればより良いものになることもあるのかもしれない、と思いました。世界に羽ばたく作品を目指すならまず、そのあたりから、かな…
 まずは7月の福岡まで、大阪、愛知とご安全に。完走をお祈りしています。







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