世田谷パブリックシアター、2022年11月30日18時。
とある劇場の舞台袖。舞台監督の進藤(鈴木京香)のもと、舞台監督助手の木戸(ウエンツ瑛士)、演出部ののえ(秋元才加)たちが慌ただしく開幕の準備をしている。芝居の演目はシェイクスピアの『マクベス』で、この劇団のオリジナルバージョンだ。だが、間もなく客入れも始まるというのに、マクベスを演じる肝心の座長・宇沢(尾上松也)の姿が見当たらない。劇場に来るはずの外国人演出家は迷子になっているようだし、若い演出部のスタッフは連絡もなく現れず、ミュージシャンのひとりも来られなくなった。波乱の予感しかない開幕前。次から次へと襲いかかる想定外のアクシデントを、役者とスタッフたちは切り抜けることができるのか…?
作・演出/三谷幸喜、美術/松井るみ。三谷幸喜が劇団東京サンシャインボーイズ時代に書き下ろした1991年初演の伝説のコメディ、28年ぶりの再々演。全2幕。
初演と再演(94年)は進藤さんは西村雅彦(現・まさ彦)で、今回は女性にしたそうです。「笑いの要素も含め時代に合わせてリニューアルはしていますが、骨格は変えていません」という作者のプログラムの言葉があり、それはそうなんだろうなと思いました。この舞台自体の舞台監督さんも女性だそうですし、裏方さんにも女性進出は進んでいるはずですよね。今、進藤と木戸が男性でのえだけが女性で観せられていたら、「あーあ…」と思ったと思います。だからこの改変は正解だと思いました。
ただ、だからってそれだけでいいかと言えばそんなことはないんで、結局進藤さんは仕事はできるけど若いダンサーに入れ揚げててマフラーとか手編みしちゃってて金せびられてて若い女に浮気されて別れ話される、ってキャラにされちゃってるんですよね。働く中年女性の典型がこうで、笑えるでしょ?ってなっちゃってるのは、ホントどうかと思いました。
でも、役者の愛嬌と脚本の上手さでやっぱり笑えちゃうんですよ、悔しいことに。口癖のエピソードとかホント上手いと思いましたし、そういうことひっくるめてホントいろいろタイヘンでも、最後に座長に「お疲れさま」って言ってもらえてる進藤さんを見て、こっちがじーんと涙ぐんじゃうんですよね。ホント上手い。そのあとすぐ宇沢さんが電話口でしょーもないこと言ってこっちの涙を乾かさせる、ところまでセットでホント上手い。ホント大笑いしました、手を叩いて笑ってしまった。客席でそこまでしちゃうことってほぼないので、自分でも驚きました。
野原さん役の峯村リエが「三谷さんはリアリティとかけ離れたところで笑いを作っていく。そこがいい」と語っていますが、ホントそこが抜群に上手いんですよね。「ないよ、そんなこと!」ってところで笑わせる。ドリフまでいけばまだしも、そこに至らないしょーもない笑いに厳しい私が、ついつい吹いちゃう…そんな笑いがたくさんありました。あるあるっぽいネタも仕込んで、キャラクターやディテールのリアリティがちゃんとあって、でもそこにとんでもなさを重ねていくからできることなんでしょうね。
個人的にはプロデューサーというか、制作会社の社長さん?で自前の劇団の座長役者のマネージャーも務めているような大瀬さん(中島亜梨沙)がヒットで、これも再演まで男性役ですね。でもそれこそ今回の製作のシス・カンパニーの社長が女性でモデルになっているそうで、これはわかる、絶対こういう女性がビシバシ仕切っていたりする、でないとこんな現場回らないだろうし、でもこんな感じで浮いていたり煙たがられたりもしているんだろう…って感じがものすごくよく出ていて、働く女として共感もできて、それをあのしずくちゃんがやっているんだと思うともう感服しまくりました。すごくよかったです、濃いメイクもキリリとしたパンツスーツもめっちゃそれっぽかったです。
外国人演出家ってのも今っぽいし、その通訳で演出助手として入っているという木村さん(井上小百合)もすごくそれっぽかったし、そういう意味ではのえもだけれど女性キャラクターはみんなステロタイプというか、それをデフォルメ、カリカチュアナイズしているわけです。だから進藤さんもああなる。むしろ女優役のあずさ(シルビア・グラブ)が一番マイルドなくらいかもしれません。それからしたら男性キャラクターの方がややぼやっとして見えるのは、私が女性として観ていて解像度が低くなるからなのかな? 男性作家の手によるテレでもあるのかもしれません。だって木戸くんのフツーさとか、ズルいじゃん。七右衛門(新納慎也)や鱧瀬(浅野和之)ってのはもう飛び道具だからさ(笑)。中島さん(藤本隆宏)とかもうファンタジーなわけでさ、ホントは(笑)。でもおもしろくて笑えちゃうんですよねえ、卑怯ですよねえ。
ミュージシャンの尾木さん役で作曲家・ピアニストの荻野清子を起用するのもホント卑怯。音楽・演奏もやらせてるんだからギャラは三倍出してますよね?って妙な心配しちゃいましたけど、これがシャイで小さい声でしかしゃべれないってキャラにしてるのがまた上手いんですよ。結局役者って声だから、そこは差が出ちゃうところでもあると思いますしね。で、その声が誰にも聞こえなくて伝わらないことがあり…ってのにつなげるところがまた抜群に上手かったです。ホント卑怯(笑)。
初めて戯曲を書いた作家、という栗林(今井朋彦)に作家のシンパシーはあるのかなあ? でも三谷さんならお稽古場に通い詰めそうだし、初日から観ないなんてありえなさそうですけどね。でもこのあたりもおもしろかったなあ、ウザさがもう卑怯でねえ…(笑)
「観た後に何も残らない」ということはないんじゃないかと思いますけれど、あえて、そういうエンタメを目指しているんでしょうね。それはある種正しいと思います、そういう娯楽もホント大事。何か教訓めいたことを入れなくては、とかいい話にまとめなくては、とかは別にしなくてもいいんです。ウェルメイドなコメディって、笑って泣いて全部流れちゃって、心にほっこりしたあたたかさだけが残るのが正解なんでしょう。そんな舞台にちゃんと仕上がっていると思いました。ハコが大きくなっても、役者が著名な俳優さんたちばかりになっても、みんな真摯にひとつのものを追い求めている。そういう姿はちゃんと見せてくれました。楽しかったし、感動しました。よくできていると思うし、しかしみんなホント『マクベス』好きだな、シェイクスピアってすごいなとも思いました(笑)。
福岡、京都と来て東京がファイナルなんですね。年末の大楽まで、どうぞご安全に!
とある劇場の舞台袖。舞台監督の進藤(鈴木京香)のもと、舞台監督助手の木戸(ウエンツ瑛士)、演出部ののえ(秋元才加)たちが慌ただしく開幕の準備をしている。芝居の演目はシェイクスピアの『マクベス』で、この劇団のオリジナルバージョンだ。だが、間もなく客入れも始まるというのに、マクベスを演じる肝心の座長・宇沢(尾上松也)の姿が見当たらない。劇場に来るはずの外国人演出家は迷子になっているようだし、若い演出部のスタッフは連絡もなく現れず、ミュージシャンのひとりも来られなくなった。波乱の予感しかない開幕前。次から次へと襲いかかる想定外のアクシデントを、役者とスタッフたちは切り抜けることができるのか…?
作・演出/三谷幸喜、美術/松井るみ。三谷幸喜が劇団東京サンシャインボーイズ時代に書き下ろした1991年初演の伝説のコメディ、28年ぶりの再々演。全2幕。
初演と再演(94年)は進藤さんは西村雅彦(現・まさ彦)で、今回は女性にしたそうです。「笑いの要素も含め時代に合わせてリニューアルはしていますが、骨格は変えていません」という作者のプログラムの言葉があり、それはそうなんだろうなと思いました。この舞台自体の舞台監督さんも女性だそうですし、裏方さんにも女性進出は進んでいるはずですよね。今、進藤と木戸が男性でのえだけが女性で観せられていたら、「あーあ…」と思ったと思います。だからこの改変は正解だと思いました。
ただ、だからってそれだけでいいかと言えばそんなことはないんで、結局進藤さんは仕事はできるけど若いダンサーに入れ揚げててマフラーとか手編みしちゃってて金せびられてて若い女に浮気されて別れ話される、ってキャラにされちゃってるんですよね。働く中年女性の典型がこうで、笑えるでしょ?ってなっちゃってるのは、ホントどうかと思いました。
でも、役者の愛嬌と脚本の上手さでやっぱり笑えちゃうんですよ、悔しいことに。口癖のエピソードとかホント上手いと思いましたし、そういうことひっくるめてホントいろいろタイヘンでも、最後に座長に「お疲れさま」って言ってもらえてる進藤さんを見て、こっちがじーんと涙ぐんじゃうんですよね。ホント上手い。そのあとすぐ宇沢さんが電話口でしょーもないこと言ってこっちの涙を乾かさせる、ところまでセットでホント上手い。ホント大笑いしました、手を叩いて笑ってしまった。客席でそこまでしちゃうことってほぼないので、自分でも驚きました。
野原さん役の峯村リエが「三谷さんはリアリティとかけ離れたところで笑いを作っていく。そこがいい」と語っていますが、ホントそこが抜群に上手いんですよね。「ないよ、そんなこと!」ってところで笑わせる。ドリフまでいけばまだしも、そこに至らないしょーもない笑いに厳しい私が、ついつい吹いちゃう…そんな笑いがたくさんありました。あるあるっぽいネタも仕込んで、キャラクターやディテールのリアリティがちゃんとあって、でもそこにとんでもなさを重ねていくからできることなんでしょうね。
個人的にはプロデューサーというか、制作会社の社長さん?で自前の劇団の座長役者のマネージャーも務めているような大瀬さん(中島亜梨沙)がヒットで、これも再演まで男性役ですね。でもそれこそ今回の製作のシス・カンパニーの社長が女性でモデルになっているそうで、これはわかる、絶対こういう女性がビシバシ仕切っていたりする、でないとこんな現場回らないだろうし、でもこんな感じで浮いていたり煙たがられたりもしているんだろう…って感じがものすごくよく出ていて、働く女として共感もできて、それをあのしずくちゃんがやっているんだと思うともう感服しまくりました。すごくよかったです、濃いメイクもキリリとしたパンツスーツもめっちゃそれっぽかったです。
外国人演出家ってのも今っぽいし、その通訳で演出助手として入っているという木村さん(井上小百合)もすごくそれっぽかったし、そういう意味ではのえもだけれど女性キャラクターはみんなステロタイプというか、それをデフォルメ、カリカチュアナイズしているわけです。だから進藤さんもああなる。むしろ女優役のあずさ(シルビア・グラブ)が一番マイルドなくらいかもしれません。それからしたら男性キャラクターの方がややぼやっとして見えるのは、私が女性として観ていて解像度が低くなるからなのかな? 男性作家の手によるテレでもあるのかもしれません。だって木戸くんのフツーさとか、ズルいじゃん。七右衛門(新納慎也)や鱧瀬(浅野和之)ってのはもう飛び道具だからさ(笑)。中島さん(藤本隆宏)とかもうファンタジーなわけでさ、ホントは(笑)。でもおもしろくて笑えちゃうんですよねえ、卑怯ですよねえ。
ミュージシャンの尾木さん役で作曲家・ピアニストの荻野清子を起用するのもホント卑怯。音楽・演奏もやらせてるんだからギャラは三倍出してますよね?って妙な心配しちゃいましたけど、これがシャイで小さい声でしかしゃべれないってキャラにしてるのがまた上手いんですよ。結局役者って声だから、そこは差が出ちゃうところでもあると思いますしね。で、その声が誰にも聞こえなくて伝わらないことがあり…ってのにつなげるところがまた抜群に上手かったです。ホント卑怯(笑)。
初めて戯曲を書いた作家、という栗林(今井朋彦)に作家のシンパシーはあるのかなあ? でも三谷さんならお稽古場に通い詰めそうだし、初日から観ないなんてありえなさそうですけどね。でもこのあたりもおもしろかったなあ、ウザさがもう卑怯でねえ…(笑)
「観た後に何も残らない」ということはないんじゃないかと思いますけれど、あえて、そういうエンタメを目指しているんでしょうね。それはある種正しいと思います、そういう娯楽もホント大事。何か教訓めいたことを入れなくては、とかいい話にまとめなくては、とかは別にしなくてもいいんです。ウェルメイドなコメディって、笑って泣いて全部流れちゃって、心にほっこりしたあたたかさだけが残るのが正解なんでしょう。そんな舞台にちゃんと仕上がっていると思いました。ハコが大きくなっても、役者が著名な俳優さんたちばかりになっても、みんな真摯にひとつのものを追い求めている。そういう姿はちゃんと見せてくれました。楽しかったし、感動しました。よくできていると思うし、しかしみんなホント『マクベス』好きだな、シェイクスピアってすごいなとも思いました(笑)。
福岡、京都と来て東京がファイナルなんですね。年末の大楽まで、どうぞご安全に!