駒子の備忘録

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氷川きよし特別公演

2022年07月04日 | 観劇記/タイトルは行
 明治座、2022年7月2日16時。

 2022年、歌手を目指している子門慧音(氷川きよし)は病気の母に変わり家計を支えるため、アルバイトに明け暮れていた。ところがある日、入院中の母親の容態が急変し、亡くなってしまう。病室で落ち込む慧音がふと顔を上げると、母のベッドの横にフランス製の砂時計が置いてあるのが目に入る。「時を戻せたらどんなにいいか…」慧音が砂時計をひっくり返すと、時空が歪み始めて…第1部の『ケイト・シモンの舞踏会~時間旅行でボンジュール~』は作・演出/堤泰之。2003年から開催してきた座長公演初の現代劇。第2部は「氷川きよしコンサート2022」。

 今は無き新宿コマ劇場なんかで開催されていた、演歌歌手の、1幕が芝居で2幕が歌謡ショーの座長公演はとってもエンタメでおもしろい…という評判は聞いていたのですが、今までご縁がありませんでした。今回は、「『ベルばら』…?」みたいなポスターが目を惹いたのと、最近とみに活躍の場を広げているらしい座長に惹かれ、サエちゃんやミナコが出ていることでもあるし、ちょっと覗いてみる…?と友達と誘い合って、てっぺん端っこ席に出かけてみました。ら、これが超おもしろくてよかったんですよ奥さん!!!
 こういう舞台のお芝居って股旅ものとか母子ものとかのベタベタな時代劇が定番で、いくら私が昭和の子供でも祖父母と同居していない核家族育ちだもんで意外に馴染みがなく、腰が退けていたのですが、今回は現代劇。というか主な舞台は1788年フランスなのですが、まずは現代日本の主人公のバイト先のコンビニから始まります。
 まあ芝居といっても新喜劇とかドリフのコントに近いんだろうな…と思っていたらまさしく、店長のハゲ/カツラいじりや片言日本語の外国人従業員いじりから始まり、そしてちゃんと笑いが沸くので、「ああ、こういうノリか…」とちょっと気が遠くなりかけました。冗長だし、そりゃ上演時間が長いはずだよ、とも絶望しかけました。しかしそこからがとてもおもしろく、またよかったのでした…!
 タイムスリップした慧音はパリの市民運動家たちに助けられるのですが、まず彼らが政治を語る台詞がかなり固く熱く長く濃く本格的で、なんなら現代日本の政権批判も込められていて、とにかくものすごく骨太なんですよ。で、こういう芝居にここまで要る? 観客ついてきてる? てか彼らはロベスピエールとかなの? と思ったらゴーフル(山崎銀之丞)だのなんだの甘そうな名前のついた男たちだったのですが(笑)、とにかく彼らは何故か慧音をケイトという女性だと思い込み、まずジャンヌ・ダルクの扮装をさせて運動のシンボルにしようとします。そこから何故か彼はブルボン公爵(西寄ひがし)家に使用人の行儀指南に出向いたり、令嬢の従者になったり、かと思えば令嬢に想い人への伝言を頼まれて怪盗ルパン姿で街に出かけたり、七変化で八面六臂の活躍を繰り広げ出すのです。そしてキーちゃんは別に役者じゃないので芝居が上手いわけではないのだけれど、タレント力と愛嬌があるので掛け合いの間合いは良く、コスプレはどれも決まっていてすがすがしくカッコよく、美しいのでした。
 そして令嬢ショコラ(彩輝なお)がサエちゃんで公爵夫人の後釜を狙う愛人エクレア(愛原実花)がミナコなので、学年的に配役が逆では?とか思っていたら、ケイトがオスカルばりの軍服の従者姿になったあと、令嬢と入れ替わって婚約者候補のヌガー公爵(この日はなだぎ武)の品定めをする展開になり、サエちゃんがそれこそオスカルもかくやという凜々しい男装の従者姿になり、そしてキーちゃんは鏡の間のシシィもかくやの純白の大きな輪っかのドレスの令嬢姿で出てきて大拍手、もうおもしろすぎましたし美しすぎました。
 最後は場面が再び病室に戻って、夢オチかと思いきやちゃんと歴史が改編されていて慧音の母は新薬で回復し、一方革命の顛末はナレーションで語られて、真の悪役もなく死ぬ貴族もなく血の流れないフランス革命ものとして締められ、優雅な舞踏会は続き、メイドたちも綺麗なドレスを着てそれぞれみんなカップルになって踊るフィナーレ込みの大団円、これぞ自由・平等・博愛…!となって幕が下りたのでした。
 ケイトが語るのは慧音が母に教えられた言葉で、誰かのために生きなさい、身近な人のために心をつくしなさい、というようなことで、それが博愛ということだ、そうして人類は平和を目指すのだ…という力強いメッセージがある、立派な作品に仕上がっていました。もうもう、エンタメってこうじゃなくっちゃね!というベタさとわかりやすさと楽しさ、おもしろさ、素晴らしさが詰まった演目でした。ブラボー!
 2幕の歌謡ショーでは、私はデビュー曲とズンドコ節くらいしか知らないくらいだったんですけど、無問題でした。なんせ歌が上手い! 袴姿でキリリと歌い上げるド演歌から水色の総スパンの燕尾で歌う歌謡曲、ジェンダーレスでキュートなパンツスーツにロングポニーテールのヘアピースで歌うポップスまで、とにかく上手い!! 耳が幸せ! バンド四人も絶好調!!
 専属司会がいるのもいいし、トークで垣間見える人柄は真面目で熱心でちょっとすっとぼけていて正直でラブリーで、デビュー22年をすぎても愛すべき若者という感じで、応援したくなるのに十分でした。このツアーとディナーショーを最後に年内は休養するとのことですが、たとえばKiinaというアーティストとして復帰する、とかのプランがあるのかな…でも、なんでも歌えるシンガーとして大活躍できるんじゃないでしょうか。ジェンダーレスな在り方についても世の中は激変していて、本当なら当然のことなんだけれど許容に軋轢が少なくなっていると思います。みんながありのままに、その人なりの自然さで、生きたいように生きられる世界が理想ですよね。国民の弟、孫息子みたいな場所がもう狭いのなら、羽ばたくときなのでしょう。
 客層は意外と老若男女幅広く、私たちみたいな物見遊山客からペンラの振りもしっかり揃うディープなお姉様方のグループまで、いろいろで賑わっていました。ファンはきっとついてきてくれるんだと思います。ご本人が何度も繰り返した心身ともに健康に、という言葉を本人にも言ってあげたいです。楽しかったです、応援しています、また来ます!






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