映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?(2022年)

2023-11-12 | 【わ】

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv82295/


以下、テアトルの紹介ページよりあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。

=====ここから。
 
 2012年12月17日、パリ近郊ランブイエ。原子力企業アレバの労働組合代表モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)の自宅で衝撃的な事件が起きる。

 数か月前――原子力企業アレバ傘下にあるハンガリーのパクシュ原子力発電所へ、女性組合員たちの要望を聞くために訪れたモーリーンがパリ本社に戻ると、盟友で社長のアンヌから、サルコジ大統領から解任されると告げられる。後任には無名で能力のないウルセルが就任するらしいと。そのころ6期目の組合代表に再選されるモーリーン。

 テレジアスというフランス電力公社(EDF)の男から突然電話があり面会すると、内部告発の書類を受け取る。アンヌに見せると「ウルセルの野望は、中国と手を組み、低コストの原発を建設すること。裏にEDFのプログリオがいる。権力に憑かれた男、夢は世界一の原子力企業。私を消そうとしている」と。

=====ここまで。

 ユペールの新作。実話ベースってのが驚愕、、、。


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 確か、ファスビンダー特集を見に行った際に、本作のポスターを劇場で見ました。そこに映る女性が、ユペールっぽくなくて、それもそのはず、髪の色がブロンドになっていた、、、。おまけに真っ赤なルージュ。よく見たら、ユペールだったのでビックリ。新作なんだ、、、てことで、それほどそそられた訳じゃないけど、一応見に行ってまいりました。

 事前情報は、予告編くらいなもので、ユペールが巨悪と闘う話?社会派サスペンス??ヘヴィかなぁ???てな感じで見に行ったのだけれど、途中から、ゼンゼン違う展開に、、、。終わってみれば、予想していたのとはまるで違う映画だったのでありました。

~~以下、ネタバレバレです。本作は、予備知識なく見た方が良いと思うので、本作をご覧になる予定の方はお読みにならないことをオススメします。~~


◆自作自演??

 本作は、典型的な性犯罪被害者の二次被害&冤罪事件のオハナシで、ヘヴィというよりはストレスフルだった、、、ごーん。ま、ある種の、というかまんまフェミ映画かな。

 とはいえ、中盤まではユペール演ずるモーリーンが組合代表として、会社が水面下で画策している中国との提携を暴くべく経営陣と闘う話になっている。問題は、モーリーンが当時のオランド大統領との面会日当日の朝に、前述のあらすじ冒頭にある「自宅で衝撃的な事件」に遭遇して、一気に話が変わってしまうことである。

 衝撃的な事件、とは、性犯罪である。強姦(今の日本の刑法では強制性交等ですな)はなかったようだが、ナイフの柄を股間に差し込まれ、腹にはナイフで「A」の文字を刻まれるというもの。手足を縛られて身動きが取れないまま家政婦が出勤してくるまで6時間もその状態だった、、、という。

 この事件で、それまでのストーリーの流れは一気に変わり、モーリーンを襲ったのは誰か、、、というか、誰の差し金か、、、となる。が、しかし、話はさらに曲折し、捜査をしている憲兵隊の曹長が“この事件、おかしい”と疑い、モーリーンは被害者から、自作自演……つまり事件捏造の容疑者へとなり、話の本筋は、モーリーンは本当に被害者なのか、本当は容疑者なのか、、、へと変わっていく。

 モーリーンを拘束した梱包用テープは、モーリーン宅にあったもの。モーリーンの股間に差し込まれたナイフも、モーリーン宅にあったもの。何より、彼女を襲撃した男たちの姿を彼女は直接見ていないのだ。あっという間に覆面を被せられ地下室まで連れていかれ、何も目にする暇がなかったって彼女は証言するが、それは不自然すぎやしないか。6時間もの間、どうして自力で拘束を解こうと試みなかったのか、おかしくね??……という具合に、憲兵隊がモーリーンの自作自演を疑う根拠はあるわけだ。

~~以下、結末に触れています。~~

 この一件について、実際の事件では、一旦は有罪になった後の控訴審で、モーリーンの自作自演は否定され、憲兵隊の誤認逮捕と認定されている。本作内でも、同じ流れだが、作りとしては本当に自作自演でなかったのかどうかは、やや曖昧にされている。

 けどまあ、私は見ていて、これは自作自演ではないだろうなと思っていた。もちろん、自作自演の可能性はゼロではないけど、この一件が起きたことで、結局、アレバ社の画策は現実のものとなって中国との提携は成立、社員は大量に失業し、最終的には会社自体も解体されてしまっていることを思えば、モーリーンの思惑とはことごとく逆に物事が進んでおり、自作自演で事件を起こす意味はほとんどないと言って良い。加えて、オランド大統領との会談が予定されていたのであり、この会談が実現していたら事態がどうなったのかは知る由もないが、少なくともモーリーンが進めたい方向性としては、事件を起こすよりは、大統領との会談の方が格段に上だろう。

 私が自作自演でないと感じた理由は他にもあるが(後述)、まあ、とにかく憲兵隊の取調べが典型的二次加害そのもので、見ていて非常に腹立たしかった。モーリーンが取調べ中にコーヒーをくれと言って落ち着いた様子であるのを見て「妙に淡々としている」と言ったかと思うと「作り話を暗唱しているんじゃないか」と言ったり、「被害者には見えない」と言ったり。モーリーンに自殺未遂の過去があることをあげつらい「異常者だろ」と言ったり。……他にもいっぱいそういう描写が続いて、明らかに最初からモーリーンの申告を疑ってかかっているのである。

 最終的にモーリーンの自作自演疑惑は晴れ、ラストシーンは、モーリーンが原発の国民議会委員という会合で堂々と発言した後、キリッとカメラ目線を送ってジ・エンドとなる。このシーンが、意味深だ、と言ってモーリーンの自作自演を疑っている感想をウェブ上で見かけたが、それはちょっと読みが違う気がするなぁ。「私はまだ闘えるのよ!」という宣戦布告じゃないか、と私は見たのだが。


◆再現の重要性

 少し前に、twitterに伊藤詩織さんが外国でインタビューを受けている映像が流れて来て、彼女はホントに大変な目に遭って、それでも闘い続けたその勇気には頭が下がるのだが、映像の中で1つだけ気になったことがあった。

 彼女が被害を届出た後、警察で再現見分が行われたときの話をしていた。等身大の人形を使って、性被害に遭ったときの状況を説明させられたと彼女が話したら、インタビュアーの男女2人は眉をひそめて「あり得ない……」的な反応をしていた。詩織さん自身も、おそらくその経験をネガティブなものとして話していたように見えたのだが、再現見分は結構大事なことだと思う。

 つまり、再現して検証しないと捜査機関として事実関係が分からない部分というのは必ずあり、被害者と加害者の供述の矛盾点を究明し、公判を見据えてきちんと資料化することが捜査機関としては絶対的に求められる。なので、等身大の人形(あるいは被害者役の警察職員)での再現見分は、捜査機関としては必ずやらなければならないことなのよ。

 本作を見ていて、私が一番引っ掛かったのもこの点で、憲兵隊は現場検証はしているが、自作自演を自白したモーリーンに対し、自分で手足の拘束を再現させることをしていないのだよね。本当にモーリーンが自作自演なら、拘束方法を再現できるはずで、捜査機関としては、必ず再現させなければならない。それをしていないというのは、捜査機関として完全な手落ちで、後に控訴審で判断が覆った理由の一つでもあるだろう。

 詩織さんのケースは、想像だが、そのときの警察官の言動に配慮に欠けるものが多々あったのではないか。だから、彼女にとって非常に深く傷ついたこととして、あのような語りになったのではないかと察する。

 あと、前述したとおり、モーリーンが「被害者らしくない」というのも、よくある二次加害。本作内では「よい被害者でない」というセリフが何度かあったが、過去に派手な男性遍歴があったり、犯罪歴があったりすると、本当に被害者なのか?と疑われるという、、、。それでなくても、普通に仕事していたり、会話で笑っていたりすれば、本当に事件のことで傷ついてるの? とか。捜査機関は一応あらゆる可能性を視野に入れなければならないけれども、一般人でも同じようなことを言ってしまうことはあるだろう。池袋の母子交通事故死の遺族が、あるとき飲食店で笑って友人と話をしていたら、見知らぬ人に「被害者らしくない」と言われたという話をしていたが、……そういうことである。

 犯罪で被害に遭い、捜査でまた被害記憶を掘り起こされるだけでなく、配慮の無い捜査官に当たれば人格を否定されるようなことを言われ、全く関係のない第三者に心無いことを言われて傷に塩を塗られ……、犯罪被害者は何度も何度も痛い思いをさせられるのが現状だ。


◆フェミが誤解される理由

 ユペールは、相変わらず貫禄の演技で、本作はユペールの映画と言ってもいいくらい。モーリーンのような複雑な人物設定は彼女でなければ演じられなかったかも知れない。メイクのせいもあるかもだが、とにかく若々しく、実年齢70歳にはまったく見えないのが驚愕だった。

 本作の序盤、アレバの社長も女性で、労組の代表であるモーリーンと立場を越えて良い関係であることが描かれている。また、憲兵隊の取調べ中に、曹長の尋問に疑問を抱く女性警察官がいて、彼女の情報提供がモーリーンの冤罪を晴らす突破口にもなる。これらを捉えて、パンフでは「不正義を覆したシスターフッド」と題したコラムが掲載されているんだけど、私はこの「シスターフッド」って言葉が好きじゃないのだ。女同士の連帯って、それ強調すること?

 控訴審で無罪になったのは、弁護士を変えたのが大きいと思うし、その弁護士は男だ。一審での弁護士も男で、こいつはホントに無能そのものの弁護士だったが、とにかく、正義も能力の有無も、性別で括るのはやめていただきたい。そういうコラムをフェミを標榜するジャーナリストとやらが書いているところが、世間でフェミ嫌いを増殖させている理由の一つだと思うのだよね。

 私が見に行った回では、終映後にトークイベントがあったのだが、その話の内容も、犯罪被害者としての扱いにおける男女の不均衡、、、みたいなフェミ的なもので、まあ、私自身がフェミについては若干学んできた身であるからかも知れないが、今さらな内容ばかりで、ハッキリ言って面白くも何ともなかった。そんなことより、中国産原発が世界中に雨後の筍のごとく建設されまくっているという現状や、フランスにおける労組の実態の話を聞きたかったわ。原発作りまくってるって、、、地球、マジでヤバいでしょ。しかも中国産、、、。

 ……というわけで、愚痴や文句ばかりのまとまらない感想になってしまいましたが、見て良かったです! ユペール好きなら見る価値ありです。

 

 

 

 

 

 

邦題にヘンな副題を付ける傾向、、、何とかならないのかね。

 

 

 

 

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