映画 ご(誤)鑑賞日記

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エミール・クストリッツァ監督のこと

2022-03-15 | 映画雑感

 ロシアが(というか、プーチンが)ウクライナ侵攻に踏み切った。今日までの状況を見ると、これは長引くのかも、、、という嫌な予感がしている。

 西側があれこれ制裁をしていて、それはもちろん、当然の策だと思うが、芸術の分野も煽りを喰らっており、ゲルギエフはあちこちからポストを解任されてロシアに凱旋(半ば英雄扱いされているらしい)、ソヒエフも複数ポストを辞任した。バレエにも影響が及んでいるというし、、、、というか、影響を受けていないジャンルはないだろう。

 そんな中で、私が個人的に結構ショックだったのが、映画監督のクストリッツァがあちら側に行ってしまったことだった。

 村山章氏という映画ライターの方(私は今回のニュースを見るまで存じ上げなかったが)のツイートが流れてきて知ったのだが、映画監督のエミール・クストリッツァがロシア陸軍劇場のディレクターに就任したという。

 ドイツ語の記事なので、翻訳機能で読んだからイマイチ把握しにくいが、どうやらガセネタではないようだ。

 私にとっては、彼が95年に発表した映画『アンダーグラウンド』マイ・ベスト5である。初めて劇場で見たときの衝撃と感動は、今でも到底忘れられない。その後、DVDも買って何度も見たし、リバイバル上映にも2度行った。そして、何度見ても、やはり感動するし、心を揺さぶられる。こんな映画を撮る人、というだけで“凄い人”認定をしていた。

 実際、彼のほかの映画も(好みが分かれるとは思うが)秀作が多く、何より、その全てに貫かれているのは「人生賛歌」である。どんなに悲惨な現実であれ、生きること、その時間の積み重ねである人生は素晴らしい! という、その作風が私は好きだった。

 彼の作品は好きだったが、彼自身の追っ掛けはしていなかったのだが、私の映画友は彼の熱心なファンで、彼女が言うには、クストリッツァは、数年前から露骨に「プーチン大好き」と公言するようになっていたらしく、彼女は「でも、プーチンの強烈なキャラに惹かれているだけだと思っていた」のだそうだ。

 そうとはつゆ知らず、私は今回のこの記事にかなりの衝撃を受けた。映画友もショックを受けていた。クリミア併合でもロシアを支持していたとこの記事で知り、これはただのプーチンファンではないのだと、今さらながら思い知った。

 私が見た彼の映画は、いずれも“反戦映画”だった。けれど、それは私の誤解だったのかも知れない。

 思えば、『アンダーグラウンド』のラストシーンも、決して平和を願っている象徴的なシーンとは言えないのではないか。今までそうだと思い込んで見ていたから反戦映画に見えたけれど、あれは、彼の歪んだ祖国愛の表れだったのかも知れない。クロの最後のセリフ「許す、でも忘れない」に、それは象徴されているということか、、、。

 前述の村山氏のTwitter(リンクは貼りませんので、ご興味ある方は検索してください)で、関連のスレッドを拝読すると、「クストリッツァにはセルビア人としてコソボ紛争で空爆を行ったNATOへの怒りがあり、実際NATOの出した条件はユーゴのNATO軍の駐留と治外法権という主権国家を蹂躙するもので、NATOとロシアがウクライナにやってることのどこが違うのかという考え方」だそうで、「セルビアと協調するのはロシアしかないという過去の経緯があった」というのが、クストリッツァの立ち位置らしい。

 『アンダーグラウンド』などの映画を撮っているからといって、クストリッツァ=反戦論者=ヒューマニスト=非暴力主義、などという公式は、日本人の勝手な連想ゲームに過ぎなかったということなのだろう。村山氏も「そもそも武力行使を否定してる国や民族は少ない」と書いているとおり、この辺はやはり日本人だからこその誤解だったのかも知れないと思うに至っている。

 私の部屋には、『アンダーグラウンド』のポスターが目立つところに飾ってある。そのポスターにはクストリッツァの名前もデカデカと書いてある。正直なところ、今はこのポスターを外す気にはならないが、今後のウクライナ情勢やロシア(というかプーチン)の出方、もちろん、クストリッツァ自身の動向次第では、私の中では封印する映画になるのかも知れない、、、という気もしないではない。

 それとこれは別。そうも思う。『アンダーグラウンド』から30年近く経っており、人ひとりの思考が丸ごと変わってしまうのには十分な年月であることを思えば、映画は映画として愛し続けても良いと思いたい。

 今は、自分でもまだ結論が出ないが、少なくとも、今までと同じ気持ちで彼の映画に向き合えなくなることだけは確かである。

 

 

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