映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

異端の鳥(2018年)

2020-11-18 | 【い】

作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv70516/

 

以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。

=====ここから。

 東欧のどこか。

 ナチスのホロコーストを逃れて田舎に疎開した少年は、預かり先である一人暮らしの老婆と生活している。しかし、のちに老婆が病死したうえに火事で家が消失したことで、身寄りをなくした少年はたった一人で旅に出ることに。

 行く先々で周囲の人間たちの心ない仕打ちに遭いながらも、少年は生き延びようと必死にもがき続ける。
  
=====ここまで。


☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆


 チラシや予告編を見たときから、これは劇場で見たいと思っていた映画。作品自体に興味を引かれたのもあるけれど、ジュリアン・サンズが出ているのも理由の一つ。若い頃は美しかったし、独特の妖しさもあって好きだったんだけど、その後、割とパッとしないから、あんまし彼の出演作は見ていなかったのでした。でもまあ、本作ではそれなりに重要な役を演じているようだったので、久しぶりにスクリーンで見たいかも、、、と思ったのでした。

 で、見てみたら、あまりの衝撃に、ジュリアン・サンズがどーのこーのというのは一瞬、吹っ飛んでしまったのでした、、、ごーん。


◆モノクロの意義を知る。

 本作は、全編モノクロなんだが、モノクロである意義をこれほど納得させられる現代の映画も珍しい。『シンドラーのリスト』もモノクロだったが、あちらはどうも映像の向こう側から“あざとさ”が時々顔を覗かせる気がしたけれども、本作は、モノクロでしか撮れないだろ、、、と見ている者が思う説得力があった。

 まあ、一つには“残酷だから”ということもある。カラーだったら、もうシャレにならないようなシーンが多々あるが、それをいうなら、『シンドラー~』も同じだろう。それに、『戦場のピアニスト』は、残虐シーンが多くてもカラーで撮った名作だ。

 本作の原題は「ベインティッド・バード」=色を塗られた鳥、である。それはとりもなおさず、主人公の少年のことなんだが、この少年は、肌と髪の色が独特だから、という理由で、ユダヤ人と周囲から認定されてありとあらゆる迫害を受ける。しかし、モノクロだと、その色の違いが曖昧になる。本作がモノクロで撮られた最大の理由だろう。

 監督自身は、「これは、基本的な物語のラインを正確に補強するためのモノクロだ。カラーで撮影していたら、まったく説得力も、真実味もない、商業的作品に見えてしまい、大惨事になっていただろう」とインタビューで答えている。

 とにかく、冒頭からエンディングまで、目も心もスクリーンに釘付けで一瞬たりとも油断ならぬ恐るべき映画。もう、見終わってグッタリ。しばらく椅子から立ち上がれなかった。

 構成として、「○○の章」というミニタイトルが何度か出てくる。この○○に入るのが、少年と成り行き上、深く関わることになる大人たちの名前。まあ、ヒドい大人たちが多いんだが、少年を助けたり、助けようとしてくれたりする大人も一応いる。いるんだが、結果として、少年が心安らげることにはならないから辛い。

 ちなみにジュリアン・サンズは、ガルボスという少年性愛者の役だった。一見、優しい良さそうな大人に見えて、実はトンデモ、、、ってやつ。この章は「司祭とガルボスの章」というミニタイトルで、司祭はハーヴェイ・カイテル。この司祭は、本心から少年を救おうとするんだが、ガルボスの正体を見破れず(というか、薄々気が付いてはいる)に、却って少年を悲惨な目に遭わせることに。しかも、司祭は途中で死んでしまい、少年は逃げ場がなくなる。もう、見ていて絶望的な気持ちになる。

 ある日、偶然にもガルボスから逃れることが出来るんだけど、その顛末ももう、、、ゾッとするような展開。なんだけれど、少年が無事に助かって、一瞬だけホッとなる。

 それまでも、その後も、少年にはこれでもかと過酷な出来事が降りかかる。序盤ではまだ表情のあった少年だが、中盤から終盤にかけて、どんどん無表情になっていく。しまいには、少年自身が無表情なまま、怖ろしく残酷なことをしたりもする。

 一体これ、どうやって収拾付けるんだ、、、? と見ていて思っていたら、唐突に終わりが訪れる。

 終章は「ニコデムとヨスカの章」というミニタイトルなんだが、この2人の名前の大人が一体どういう人なのか、、、は、敢えて書かないけれど、ここで、少年がこのような放浪を続けなければならなくなった理由が分かる。

 断片的な展開に見えて、実は全てがつながっていた、、、という見事な構成に脱帽。分かりにくそうな雰囲気だが、無駄なシーンが一つもない、実に緻密に計算されたシナリオだと思う。いやぁ、、、こんな素晴らしいシナリオの映画は、なかなかお目にかかれないだろう。

 ラストは、ハッピーとまでは言わないが、一応、心落ち着くエンディングとなっている。


◆遠くない昔、あるところに、、、。

 本作は、東欧のどこか、という設定で、どの国かは特定されていない。なので、セリフは、「スラヴィック・エスペラント語」という人工語を使用している。パンフに沼野充義氏の解説が載っているが、いくつかのスラヴ語を知っている氏には、この人工語は「聞いただけでもかなりよく分かる」と書いてある。もちろん、私にはまったく分からないが、英語話者であるジュリアン・サンズやハーヴェイ・カイテルが不思議な言葉を喋っているのは、何となく違和感があった。

 原作も国は特定されていないとのこと。原作者のイェジー・コシンスキ自身は亡命ポーランド・ユダヤ人で、この原作本は長らくポーランドでは発禁本だったそうである。著者自身も故国ポーランドに帰れない時期が長かったらしい。本作を見た後、すぐに、私は原作本をネットで予約してしまった(重版中だったので)。

 また、本作はモノクロの映像が実に美しい。水墨画のような画ではなく、輪郭がどれもクッキリと鮮明な、とってもクリアな映像。残虐なシーンと美しい映像、映画好きにはたまらない。

 私が一番印象に残ったのは、まさに“ペインティッド・バード”が描かれているエピソードとシーン。文字通り、鳥の羽に色を付けて、それを空に放つのだが、同じ仲間の鳥たちに“異端”とみなされ空中で仲間の鳥たちから総攻撃を受けて突き回され、しまいには地面にボトリと落ちてくる。これは、もちろん、少年の比喩だが、その後に出てくる、村人たちにある理由で惨殺される女性の姿でもある。動物も人間も行動原理が同じなんである。

 ジュリアン・サンズ演ずる性的虐待者からようやく逃れた少年が出会った女性ラビーナとのエピソードもまた、強烈。この経験で、少年は完全に人間性を失ってしまったかに見えた。……が、その後に出会うバリー・ペッパー演ずるミートカという軍人に出会うことで、少年の心に変化が見える。

 とにかく、本作に通底しているのは「差別(異端排除)と暴力と性」である。どれも、人間の本質的な性質に係るものだ。社会的性質と本能。これらが、一番醜い形で表出する様を、少年は大人たちに見せつけられ続けるのだ。ラストで救われなければ、あまりにも悲惨すぎる話でやり切れない。

 バリー・ペッパーが実に渋くて良かった。ステラン・スカルスガルドは苦手なんだが、セリフがほとんどない役で、表情だけの演技だったんだけど、さすがに巧かった。

 まあ、とにかく、いろんな意味で凄い映画です。今年のベストかも。

 

 


 

 

 

 

 

エンドロールの音楽が良い(サントラ欲しい)。

 

 

 

 


 ★★ランキング参加中★★


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 悪い種子(1957年) | トップ | おもかげ(2019年) »

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観たんですねーーー!!! (フキン)
2020-11-18 14:27:41
いやあ!!すねこすりさん!!
これ、ご覧になりましたか!!!(/・ω・)/

私もすっごい気になりながらも、見る勇気出ず。
でも、やっぱすねこすりさんのレビュー拝見し
観たい気になったんですが・・・・怖い・・。
今年ベスト❕❕ですか。今年ももう11月半ば。
そっか~~そうなんだ~~~ゾワゾワ。(=゚ω゚)ノ

「マーティン・エデン」観てきましたよ♪
こちらも重い作品でしたけど、「異端の鳥」に比べたら、全然マシでしょ?多分 苦笑

それから、麺についていろいろレスポンスありがとうございます。きしめん派だったとは。(^.^)
きしめん、関西ではほとんどなじみないですよ。
「砂場」、少し前にテレビで見ました!!
有名なんですね。

えッ??すねこすりさんちは醤油が減らない??
マジですか?
私は結構しょうゆ派です。笑






返信する
コロナしぶといなぁ、、、 (すねこすり)
2020-11-18 21:42:07
フキンさん、こんばんは。
見ましたとも! フキンさんにも是非ご覧いただきたいです。
まぁ、確かに正視に耐えないシーンがいくつかありますが、私も思わず目つぶっちゃったり、スクリーンの端っこに目を移したりしてやり過ごしました(^^;)
一箇所、あんまりビックリして「ぅわ゛っ……!」って声出ちゃいました。劇場で声出ちゃったの『ジョーズ』とこの映画だけです。
マーティン・エデンとは、重さの質が違うというか、、、。
見て損はないと思いますよ。いえ、見ないと損!!と思います。
マーティン・エデンの感想、お待ちしてます~~!
三連休に行きたかったポーランド映画祭、この感染状況でちょっと悩んでいます。
あ~あ、どうしようかなぁ(´。`)
返信する

コメントを投稿

【い】」カテゴリの最新記事