映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

戦場のピアニスト(2002年)

2014-12-23 | 【せ】



 第二次大戦下のポーランド、ユダヤ人迫害を必死で逃れ生き延びた、あるピアニストのお話。

☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜

 
 これは、もう、ポランスキーの執念の大作でしょう。素直に、私は、感動いたしました。ポーランド人が英語しゃべってるとか、演奏の音は吹替えだとか、そんなことはものすごくどーでもよいと思える、圧倒される作品です。

 正直なところ、ホロコーストものは苦手で、というかあまりにも玉石混淆で、いささか食傷気味なため、本作も、ポランスキー作品でありながら、今日に至るまで食指が伸びませんでした。それでも、少し前にBS放映分を録画したのは、何か虫の知らせだったのかも知れません。

 本作の圧倒的なところは、その、淡々とした過不足のない描写でしょう、多分。虐殺シーンが執拗過ぎるというネット上の一部の感想も拝読しましたが、私は全然そうは思いませんでした。むしろ、シュピルマン一家が収容所移送までに追い込まれていく過程が、なんというか、じわじわとさりげなく、それでいて確実に環境が悪化していく様が描かれており、戦慄を覚えます。

 そして、貨物列車への移送に当たり、脇でユダヤ人たちを統制し指図しているのは同じく右腕に腕章をしたユダヤ人です。ユダヤ人の間でも同胞の迫害に加担した者がいたのは誰もが知るところですが、映像で見せられると、衝撃が思のほか強く、正直ショックでした。

 ユダヤ人の有史以来の辿ってきた道を考えれば、彼らが加害の立場にあった時期もあるのに、こと、第二次大戦下における迫害をフォーカスし被害者面ばかりして、、、というネット上でのある書き込みを見たことがありますが、そういう視点でモノを見るのは危険だと恐ろしくなります。誰もが迫害する・される、どちらの側にも、いつでもなり得るのだということを忘れてはならないのではないでしょうか。

 シュピルマンがひたすら逃げるだけの男であることにも、批判がありますが、私は、だからこそ感動しました。想像を絶する極限状態で、彼はとにかく生きたのです。あのワルシャワ蜂起でも彼は傍観者を貫きます。ピアノのある部屋に潜んでも、音を立てるなと言われたら、どんなにピアノを弾きたくても弾く真似をするだけで弾きません。人道上とか、芸術家魂とか、そんなことよりも生存本能が勝った。このことが、何よりも胸に迫るのです。見ていて苦しくなります。そして、ワルシャワ蜂起で亡くなった同胞にさえ、彼は無駄死にという言葉を吐くのです。義を通したところで死んでどうなる!!という強い思いではないでしょうか。それのどこが批判されなければならないのか、理解に苦しみます。

 そして、ドイツ人将校に見つかるシーン。その描写がまた素晴らしい。シュピルマンがやっと見つけた食料の入った缶詰を開け損ねて落とし、転がる缶詰から汁がこぼれ出る。その脇には男の靴をはいた足が。カメラが足元から上がっていくと、そこには将校が立っている。ポランスキー、さすがです。

 再び胸に迫るのは、彼の前でピアノを弾くシーン。ここへきて、前半の描写が、なるほど全てはこのシーンのためであると、納得させられるのです。

 ただ、このときにシュピルマンが弾くのはショパンのバラード1番。史実では夜想曲20番だったのを敢えてバラード1番にしたからには、バラード1番の最高の聴かせどころを演出にするのだろうと思いきや、そこはなんとカット、、、。だったら、夜想曲20番にした方が良かったのでは。ポランスキーの意図やいかに。

 ピアノ曲については、シュピルマンが潜伏しているときに、どこからか漏れ聞こえてくるのはドイツの誇るベートーベンです。この辺も演出としてニクいというか、なるほどというか。

 数々の周囲の犠牲の上に、シュピルマンの生還はあります。その犠牲へのシュピルマンの思いが感じられない、という批判も目にしましたが、私はそれは違うと思います。彼が犠牲になった家族や友人知人、果ては自分を援助してくれたドイツ人将校のことを思わないはずはありません。それを画にしてしまえば、映画としては非常に陳腐になり下がります。まさしく、ハリウッド的なオチの付け方で。

 だから、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を演奏会で華やかに弾ききる、あのラストシーンで正解だと思うのです。ポーランドを舞台にしたピアニストの映画で、ショパンがラストシーンでなくてどーする!

 余談ですが、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」のオケ協奏版は、レコーディングも多くないのですが、仲道郁代さん&ワルシャワフィルの演奏CDはなかなか素晴らしいです。それまでピアノ版しか聴いたことがなかったのですが、曲のイメージがガラリと変わりました。本作のラストに選んだポランスキーのセンスに拍手です。



こんなに胸を打たれた作品は久しぶり。




  ★★ランキング参加中★★
クリックしていただけると嬉しいです♪

コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 25年目のキス(1999年) | トップ | ゴーン・ガール(2014年) »

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (かおり)
2014-12-26 00:56:00
はじめまして
私は、この映画10年ほど前に映画館でみました。
そして今回こちらのレビューで、まざまざと思い出しました。
観たときはほんとに臨場感あふれて恐怖の二時間でした。でも、そんな恐怖を、ピアニストは現実にずっと感じながら生きながらえたのだと、それがほんとシンプルな感想です。
逃げるだけなピアニストも、リアルだし、戦場や虐殺の場面は、残虐だけど、残虐なのが現実だったと思うので、必要以上に残虐だとは思いませんでした。
あのときは、映画の重さに暗くなってしまったけど、観なければよかったとも思えず、何ともいえない感じでした。
でも、こうして、時間がたっても、色あせることなく印象に残るというより、強制的に心に強く刻まれてるので、名作だったのだと、思います。

いきなり長いコメントで、すみません。

こちらのブログ、面白いですね。
ほとんど、知らない映画ばかりですが、アフタースクールは、わたしは、好きでした。
25年目のキスも、もうあまり覚えてないですが、面白かった記憶があります。
映画の好みは、私とは、違うかもしれないですが、また、遊びに来ます。
返信する
Unknown (かおりさま(すねこすり))
2014-12-26 23:20:31
コメント、ありがとうございます。

劇場でご覧になったのですね。
私も、見終わった後、これは劇場で見るべきだったと強く思いました。
もし今後、どこかでリバイバル上映されることがあれば、必ず見に行こうと思っています。
胸苦しくなるような作品なのに、また見たいと思う貴重な作品です。
こういう作品に出会えるのは何十本、いえ何百本に1本ですが、だから映画はやめられません。

私は割と節操なく面白そうと思ったものなら何でも見てみるタイプなので、ジャンルはバラバラです。。。
人様のお気に入りを貶していることも多々あるかと思いますが、基本、どの作品にも映画としての愛情は抱いているつもりです。

何の工夫もない、駄文を連ねただけの拙ブログですが、いつでもいらしてください。
大歓迎です!!
返信する
ありがとうございます (かおり)
2014-12-27 23:07:16
返信、ありがとうございます!
とてもうれしいです。

私は、当時話題になっていたので、友達と気軽に観にいきました。が、ほんと背筋が凍りつくような二時間あまりで、友達と感想も言えなかったです。
凄かったね。。としか。
でも、ホロコーストといえば、シンドラーのリストより、この作品が、わたしは思い浮かびます。
今でも、鮮烈なイメージのまま、脳に焼き付かれた映画です。

最後は、ショパンのバラード一番だったんですね。あのピアノがなければ、ほんとに救われない映画だったと、感じました。実際、救われないまま、多くのユダヤ人が殺されたので、それが現実なのですが。。

辛口感想は、わたしは、歓迎です。すべて面白いより、リアルでよいと思うので。

たくさんレビューがあり、とても一度では、読み切れないので、また、遊びに来ます。(^^)


返信する
Unknown (かおりさま(すねこすり))
2014-12-28 23:24:55
シンドラーは私も劇場で見ましたが、あまりグッときませんでした。
原作本を読んだときの衝撃が大き過ぎたからかも知れません。
ホロコーストものでは、本作が、私にとってのベスト1になりそうです。

早速、アマゾンで本作のパンフと原作本を購入してしまいました。
作品に関する詳細で正確な情報は、やはりパンフが一番なので、、、。
原作本は、この休みに読みたいと思っています。

辛口にしているつもりはないのですが、モノの見方が屈折しているせいで、このような捻くれた感想になっている次第です。。。
かおりさまの作品に対する率直なご感想、また、お聞かせください。

では、良いお年をお迎えください。
返信する
Unknown (フキン)
2020-02-04 15:05:59
すねこすりさん、こんばんは。^_^

昨夜、こちらの作品BSで放送してました!
何度かテレビ?DVD?で観てるし、、、
と思い観るつもりなかったんです。
でも、お風呂から上がり、さぁ寝るか!とベッドに入り、
そう言えばあの映画いま、どのシーンかな?!と観てしまい
結局最後まで観てしまいました。(o^^o)

辛いシーンはほぼ終わっていて、私の好きなシーンだけ観れて、良かった(^_^)

私、シュピルマンが隠れながら覗きながら、生きながらえていく
あのシーンたちが好きなんです!!

今回知ったんですが
あの缶詰はピクルスだったんですね!
あのシーンカワイイんです。
いや、カワイイとか絶対違うし!!と思いますが
髪ボサボサのノッポのシュピルマンが愛しくて、、、。

ドイツ将校と対面するあのシーンは名シーンですよね!
缶詰から汁が溢れてるのに、シュピルマンを映さず
将校の足元に流れるシーン、、、。

結局好きなシーンだけ観れて、ちよっと幸せな気分で眠りにつきました。笑

すねこすりさん、ピアノされてました?
この作品、ピアノ弾かれる人は
一層深く感動されるんだろうなーとおもいました。

私はチェルニーで辞めました(´∀`)

NHKの柄本君のドラマ、初回は観たんです。
でも、なんか辛くて観るのやめたんですが
もう最終回みたいですね。
返信する
原作! (フキン)
2020-02-04 20:31:45
それで、シュピルマンの原作読まれました?
いかがでしたか??
返信する
ジーザス!! (すねこすり)
2020-02-04 23:49:13
フキンさん、こんばんは☆
私も昨晩見てしまいました。新聞のテレビ欄見て、あら、、、と思いまして。9時半くらいから。見始めたら最後まで見ちゃうからどうしようかな、、、と思いましたが、結局最後まで見ちゃいました(^^;)
私も、劇場で6回見たし、Blu-rayも持っているし、別にテレビで見る必要ないんですけど、これは一度見出すと止まらないです。
クレッチマンの将校と出会う辺りのシュピルマンの容貌、なんかキリストみたい、、、じゃないですか? 撮影は、後半から始めたらしいですね。
この映画に関しては、まだまだ思うところが一杯あるので、いつかまた感想文を書きたいと思っています。
本作を見て、エイドリアン・ブロディのことも好きになりましたし!(^^)! 彼は良い役者です。地味な作品にばっかり出ていますが、、、。
原作、もちろん読みましたよ! 逃亡生活は映画を上回る壮絶さで、途中で読むのを何度も止めましたが、どうにか読了しました。映画でもそうですが、とにかく生きることにものすごく貪欲で、私はそこにとても胸打たれました。
なので、フキンさんが、隠れながら生きながらえていくところが好き!っていうの、私もまったく同感です。
原作本の後ろの方にドイツ将校ホーゼンフェルトの日記も収録されていました。先日『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校』という本を買ったのですが、まだ積ん読状態です(^^;)
ピアノは、幼稚園から小学校卒業までやって、やっとソナタをちょっとやったくらいでした。チェルニー、、、懐かしい。ハノンとか基礎練習が割と好きだったんですけど、ゼンゼン上達しませんでした。
シュピルマンが何年かぶりに弾くであろうピアノ、ポツリポツリと弾き始めるのがとても印象的で、何度見ても緊張しますわ~。
NHKのドラマ「心の傷を~」は確かにちょっと辛いですね。でも、主人公の安先生がすごく素敵です。あの若さであの人格が形成されているってのが驚異的で。最終回は哀しい展開が待っていると思うので、さらに重いかも知れません。
返信する
Unknown (風早真希)
2023-02-08 16:27:15
いつも楽しく、このブログを拝読させていただいています。
映画への溢れる愛、映画を観る視点の素晴らしさ、深い洞察力に基づいた数々の映画レビューに魅了されています。

この「戦場のピアニスト」について、"こんなに胸を打たれた作品は久しぶり"というコメントは、私も全く同感で、初めてこの映画を観た時の衝撃と興奮は、今だに鮮明に覚えています。

そこで、この映画を観た時の私の感想を述べてみたいと思います。

第二次世界大戦下のポーランド。
ピアニストのウワディスワフ・シュピルマンとその家族は、ユダヤ人居住区に強制移住させられる。

隣人や友人が虐殺され、家族が収容所へ送られる中、シュピルマンは、奇跡的に救われるが、死と隣り合わせの逃亡生活を続ける彼にも、危険が迫って来るのだった------。

ユダヤ系のロマン・ポランスキー監督が、遂に自身の過去と向き合い、原体験と重ね合わせたリアリズムで描く「戦場のピアニスト」は、抑えた演出ながら、説得力と執念がにじみ出て、非常に完成度が高い作品になっていると思う。

出演俳優の演技力と、CGとセットを駆使した光景、深遠な人間描写など、見応えも充分だ。
巨匠ポランスキー監督が、自身の過酷な人生の体験に基づいて放った、渾身の一作と言っていいだろう。

シュピルマンが生き延びる姿は、捕らわれるも地獄だが、生きるも地獄と思わせるほどで、ただ一人で身を潜め、逃げ続ける彼の恐怖と孤独が、痛いほど伝わってくる。

シュピルマンにヒーロー的な要素は皆無で、家族に許可証を調達したり、抵抗活動を間接的に助けたりはするが、彼自身は痛々しいほど無力だ。

力仕事もこなせず、身を隠すにも不器用すぎる彼には、ピアノを弾く才能以外、何もない。
まさに、奇跡的にホロコーストの狂気をかいくぐるのだ。

前半で描かれる、ナチスの残虐な行為に派手な演出はなく、無表情なのは、銃を突きつけるナチスも、殺されるユダヤ人も同じだ。

あまりにも日常化した死がそこにあり、一面廃墟と化したワルシャワの光景は、巨大なセットを使った上にCGを駆使したもので、奥行きといい色彩といい、出色の出来栄えだ。

戦況が刻々と変わる中、シュピルマンは、遂に一人のドイツ人将校に見つかってしまうが、結果的にピアニストである事が幸いする。

廃墟に響くショパンの旋律。
妙なるピアノの調べは、シュピルマンの命の周辺で流された、無数の血を思い起こさせて、言いようのない感動を生むのだ。

繊細な主人公を演じるエイドリアン・ブロディの熱演と共に、ドイツ人将校役のトーマス・クレッチマンも出番は少ないが、実に良い演技を示していると思う。

人間は本来、善と悪を併せ持つ存在だと思う。
被害者の悲劇や加害者の蛮行だけでなく、物語の視点が公平なのが目を引く。
善悪の単純な区分けの民族主義など、この映画には存在しない。

あくどいユダヤ人や、音楽を愛するドイツ人を登場させるのは、ゲットーの非人間性を、実体験として知っているからこそ生まれる、深い人間観からきているのだと思う。

ラストの4分間に及ぶ演奏が胸を打つ、カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞の名に相応しい秀作だ。
返信する

コメントを投稿

【せ】」カテゴリの最新記事