平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
江戸繁昌記初篇 27 揚花 1
「江戸繁昌記初篇」の解読を続ける。
揚花
※ 揚花(ようか)- おんなだゆう(女大夫)とルビあり。
壇上の低簾金縷晃々、贔屓連中などの数字を繡(ぬ)い出す。簾内声有りて、その按ずる所の曲名、何に為したることを唱(とな)う。柝響きて簾捲く。大夫粧飾端整、紅錦蒲団に尻し、銀縷欹案に鼻す。麗美、目を奪われ、三線調い定まる。
※ 低簾(ていれん)- 低いすだれ。
※ 金縷(きんる)- 金色の糸。
※ 晃々(こうこう)-きらきらとひかり輝くさま。
※ 柝(き)- ひょうしぎ。
※ 粧飾(しょうしょく)- 美しくよそおうこと。
※ 端整(たんせい)- 姿・形や動作などが正しくて、きちんとしていること。
※ 銀縷(ぎんる)- 銀の糸。
※ 欹案(いあん)- そばだつ台。(「けんだい」とルビあり)「見台」は、邦楽など日本の伝統芸能において、台本や譜面を見るために使用する台。
※ 鼻す(びす)- 始める。
徐々按じ起こす。女にして男喉(のど)、婦にして女粧、宮を引き、羽を刻み、縹緲遅廻、行雲流れず。神将に逝かんとするの間、人をして覚えず絶倒せしむ。恍惚、涎(よだれ)を垂れ、欷歔、泣(なみだ)を飲む。音を賞する者有り。節を喜ぶ者有りて、観る者、較々(くらべて)聴く者より多し。
※ 婦(ふ)と女(おうな)- 「婦」は、成人した女性、または夫のある女性。「女」はむすめ、または若い女性。
※ 女粧(おんなよそおい)- 男の女粧もあるが、ここでは「むすめよそおい」であろう。
※ 宮(きゅう)、羽(う)- いずれも、中国・日本の音楽の理論用語、五音(ごいん)の一つ。低い方から順に宮・商・角・徴・羽。
※ 縹緲(ひょうびょう)- 広くはてしないさま。かすかではっきりとしないさま。
※ 遅廻(ちかい)- ぶらぶらさまよう。
※ 絶倒(ぜっとう)- 感情が高ぶって倒れるばかりの状態になること。。
※ 欷歔(ききょ)- すすり泣くこと。むせび泣き。
何ぞやなり。曰う、妙なるかな。稈史家、某の言に曰う、二人曲を聴いて帰る。某、度曲の巧拙を問う。甲の曰う、那(なん)ぞ弁ぜん。特(とく)その面を(見)守るのみ。因って、乙に向いて、その美醜を叩く。曰う、わが眼、一にその腰帯間に注ぐ。声と色との如きは、吾れこれを大きにせざるなり。相視て大いに笑い、これ、これを観ると謂う。伝に所謂(いわゆる)、視るとも見えず、聴いて聞かざる者は、真にこれ、これらの人。
※ 稈史家(かんしか)- 洒落本の戯作者。「洒落本」は江戸後期の遊里文学。
※ 叩く(たたく)- 相手の考えを聞いたり、ようすを探ったりする。打診する。
※ 視るとも見えず、聴いて聞かざる -『大学』に「心ここに在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえども其の味を知らず」とある。これを指す。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 江戸繁昌記初... | 江戸繁昌記初... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |