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「ウィーンの冬」を読む

(春江一也著「ウィーンの冬」)

春江一也著「ウィーンの冬」を読んだ。「プラハの春」「ベルリンの秋」に続く3部作の完結編である。しばらく前に買ってあったものだが、佐賀出張の行き帰りに読んだ。元外交官という経歴をふるに生かした国際政治の裏事情などが虚実織り交ぜて実に巧みに作品化された小説である。

ずいぶん昔、偶然に「プラハの春」を読んで、鉄のカーテンの向こう側で起きていたことの一端を知ることが出来た。1968年、チェコスロヴァキアで起きた改革運動は、「プラハの春」と呼ばれ、市場経済の導入や言論や芸術活動の自由化をうたった新しい社会主義モデルを提起したものであったが、ソ連の軍事介入によって潰されてしまった。日本の一外交官の目で見たその一部始終が小説という形式で語られていた。

その後、その外交官は壁が壊れるベルリンに身を置くことになる。決してありえないと思われていた壁の崩壊が何ともあっけなく起きてしまった。東西ベルリンでは何が起きていたのか。「ベルリンの秋」では市民レベルでの事情を知ることが出来た。

「ウィーンの冬」では外交官もすでに中年といわれる年齢になり、外交官という身分を外され、ヨーロッパでのキャリアを買われてウィーンに送られる。国際都市ウィーンでは、北朝鮮秘密組織、イスラム過激派、崩壊したソビエト連邦の国々、北朝鮮の拉致に暗躍するよど号のハイジャック犯、そこにハルマゲドンを標榜する日本のカルト教団が入り乱れて、旧ソビエトから流出する武器、なかでも「プロメテウスの火」と呼ばれる核爆弾を確保しようと、暗躍している。元外交官は日本人が絡む事件に対処する為に、ウィーン警察の組織に送られたのである。

どこまでが、実際にあった事件でどこからが作者の創作なのか、なかなか区別できないのであるが、かなりの部分が事実に基づいているものと思われた。読み始めると一気に読んでしまった。

日本では横浜の弁護士一家が失踪する事件も起きていたが、日本の警察はカルト教団に何も手が出せないでいた時期に、ウィーン警察は、監禁された女性が逃げてきたのをチャンスに、ヨガ道場に一気に突入して徹底的に捜索して、中に巣食うカルト教団、新興武器商人、テロリストなどを焙り出す。国際観光都市ウィーンの治安を守るための必要処置として、一見強引と思われる行動を市民も支持している。

日本では、数々の疑惑がありながら警察が動いたのは、テロ行為で多くの犠牲者を出した後であった。平和ボケになっている日本では、それら予兆を察知する組織も無い。あれだけ大勢の日本人が北朝鮮に拉致されながら、一人として拉致を事前に防ぐことが出来なかった。

日本は、かつては犯罪の検挙率も高くて、国民生活にきめ細かく警察が関与しているように見える。しかし、それは警察が把握しているものに限る。隠れた犯罪を焙り出す能力は外国に比べて非常に低いし、そういう組織が弱体である。国民がそういう組織を認めなかったこともある。テロなど、日本が標的になったら防ぐ手立てを持っているようには思えない。

拉致問題で、もっと議論されるべきなのは、拉致を防げなかった日本の警察の体制ではないだろうか。先進国で海外の犯罪者がこんなにも楽に活動できる国は他には無いように思う。
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