平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
「壺石文」 中 13 (旧)八月十六日(つづき)
先週から取り掛かっていた排水溝改良工事が完成した。畑から降りる階段と、仮橋を作ってもらい、便利になった。何とかぎりぎりで入梅に間に合った。当地は今日入梅が発表された。午後は早速雨になる。
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「壺石文 中」の解読を続ける。
あな、ねたの業やと、腹立たしくて、秋葉の杜の方を見やれば、様(よう)変わりて、大なる鳥の松の梢に高々居たり。見付けてけりと、嬉しく覚えて、やおらずついざり寄りて、扇ぎためらいて、火失いてけるを、身動ぎ(みじろぎ)をだにせざりければ、違(たが)いてけりな、口惜し、と息の下に独りごちつゝ、また物してければ、おちこちの山の山彦、俄かに響みて、数多(あまた)の人の笑い覆(くつがえ)る声すなり。
※ ねたし(妬し)- くやしい。しゃくだ。いまいましい。腹立たしい。憎らしい。
※ やおら - ゆっくりと動作を起こすさま。おもむろに。
※ 響みて(とよみて)- 鳴り響いて。響きわたって。
いと/\怪しと思いつゝも、かの鳥の元の所に居たるを、またも狙い寄るものか、とこう躊躇(ためら)いて放ちてんとせし時、景色替わりて、ただ爰元に飛び来と見えしが、たちまち、おどろ/\しう、丈高く太り過ぎたる優婆塞姿の人となりて、髪も髭もひた乱れに乱れて、まなこ威鋭(いするど)に、色黒く大口なるが、長き臂(ひ)を延ばして掴み付きて、引こずり寄せて、八十雷(いかづち)の轟くばかりの大声に言いけらく、
※ 爰元(ここもと)- この所、このあたり。
※ 優婆塞(うばそく)- 在家のまま仏門に帰依して修行する男。
※ 臂(ひ)- ひじ肩から手首までの部分。腕。
※ 引こずる - ひっぱる。ひきずる。
※ 八十(やそ)- 数の多いこと。
おれ(おい)この奴(やっこ)、いわけなかりし時より親の心に背き、親族(しぞく)の諌(いさ)めに逆らいて、家の業をも勤めず、草々の良からぬ業(わざ)をして人をたしなめ、人となりて後、いよいよかだましく荒びて、輪野原(ワノバラ)という所にて、人を殺し、おれ(おのれ)が親を打ち苛(さいな)み、おれが村の堂塔を焼き毀(こぼ)ち、竹木を盗み取り、森山堤にて苅田ノ郡に神と斎(いつ)き祀るてふ(という)白鳥を殺し、国見峠にて大窪村の村長が飼えりし赤狗を殺し、などの罪科(つみとが)、事々に数えば、及びもほと/\損ないつべし。
※ いわけない(稚ない)- 年端がゆかない。幼い。
※ たしなめる - 苦しめる。なやます。
※ 人(ひと)- 成人。おとな。
※ かだまし - 心がねじ曲がっている。ひねくれている。
※ 及びも損なう - 及びもつかない。到底及ばない。
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