goo

遠州高天神記 巻の四 7 遠州一国平均御治国の事

(天方城跡より森町)

「遠州高天神記 巻の四」の解読を続ける。本文は今日で終りであるが、追記がもう少し残っている。

   遠州の内、甲州方城々明け退き、
     一国平均御治国の事

一 同国飯田村の城主、山内大和守方へ、早々城を明け退くべき旨、御沙汰有けれども、下らざる故、御出馬有り、御先手を以って急に攻めさせ給えば、城中も随分防ぎけれども、大勢に小勢、叶わず皆討ち死に致しければ、城主腹を切りて城に火を掛ける。勝喊(かちどき)を作って城中へ乗り込みければ、城々、或いは聞き怖じに明け退き、或いは降参する族(やから)多し。この飯田の城と云うは、高天神より四里北、懸川より二里西北の方なり


(天方城跡)

一 同国、天方の城主、山内山城守も高天神落城を聞いて力を落し、是非なく御詫び言申し上げ降参する。城代、前は駿河一騎蒐の番手持ちの城なり。近頃、山城守城主と成りけれども、甲州より後詰め成らざるを見て、高天神さえ落城なり。増してこの城は、一支えも大軍を引き請け防ぐ事成るまじきと、思案する処に、飯田の城主、攻め殺さるゝを聞きて、なおもって力を失いて、かくの如くの次第なり。もっともと云う族も有るなり。
※ 番手(ばんしゅ)- 城にいて警護に当たる兵士。城番。

一 乾の城主、天野宮内右衛門尉、立て篭もる処、難なく攻め破る。並び光明山の城も攻め破り、浜松の御手に入りければ、秋葉の城、只来城、鍵掛の城、皆々明け退き逃走、散り/\に成る。山家筋残らず御手に入り、御感悦甚だ限りなし。

一 同国二俣の城主、前は中根平左衛門なり。元亀三年申の十二月、信玄攻め給いし時、叶わずして明け渡す。甲州より持ちける所に、これも浜松へ攻め取り給うなり。

一 天正十壬午年の二月十六日、甲州兵、遠州小山の城を開きて、甲州へ帰る故、浜松方ヘ乗っ取るなり。

一 同国、相良の城、瀧堺の城も番手持ちなりしかども、高天神落城を聞きて、内々力を失いて居たりけるが、小山の城と一度に明け退くなり。

一 天正十年二月廿日、駿州田中の城主、芦田下野守、浜松へ和を乞い、城を明け渡し、甲州へ帰るなり。

一 同月廿七日、同国用宗の城主、朝比奈駿河守、和を乞い、同廿九日に浜松勢用宗城へ入りて、朝比奈駿河守甲州へ退く。

これより段々当春中、駿州まで御手に入り、遠州一国平均に御治め、それより駿州、甲州、信州まで、段々この年中に御手に入り、早や五ヶ国の御大将と成らせられる。これ天下泰平に御掌に入るべき元なり。千穐万歳、治国平天下の始めと成りてぞ、目出たかりける御事どもなり。
※ 平均(へいきん)- 安定した状態にすること。平和であること。穏やかなこと。
※ 千穐万歳(せんしゅうばんざい)- (元は「千秋万歳」であるが、「秋」の中の「火」が縁起が悪いと、「亀」に入れ替える。)千年万年。永遠。また、長寿を祝う語。


  天正十二年未の覚え書有りて、かくの如く写す者なり。

高天神記巻之四 終

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )