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御法度書四拾三ヶ條写し 2 - 古文書に親しむ(経験者)

(散歩道のナンバンギセル)

久し振りに晴れて、夕方の散歩道、土手のススキを刈った跡に、ナンバンギセルを見付けた。ススキの根に寄生する寄生植物である。珍しい植物だが、この土手では前に一度見たことがある。

「御法度書四拾三ヶ條」を続ける。

一 田畑荒地起し返り場これ有り候わば、少しの所成りとも申し達すべく候。隠し置き、相顕わるにおいては、その当人は申すに及ばず、庄屋、組頭、越度たるべき事。
 附り、山林、野方、新田に起し、障りなき場これ有り候わば、申し達し差図すべく候。少し成るとも、我が侭に開き申すまじき事。
※ 越度(おつど)- あやまち。失敗。手落ち。

一 すべて百姓、平生暮し方大切に候。日々、分限を存じ、聊かも過分の儀、仕らず、貯えの心懸け、専要に候。凶年又はその身に不慮の物入り出来(しゅったい)候事これ有る節、その期に至り、防ぎ難く候条、能々心得これ有るべき事。
※ 分限(ぶんげん)財産・資産のほど。財力。身のほど。

一 諸人に勝れ、親孝行なる者これ有らば、その様子見届け、申し出るべく候。かつまた不孝の者、又は親類とも仲悪しく、家業をも、おろそかにに致し、耕作をも仕らず、あるいは百姓に似合わぬ遊芸、を好み、行跡悪しく、いわれなく過言を尽し、偽りを勤め、我侭に募るものこれ有らば、その村の人、自然と風儀も悪しく成行き、大切に候条、この旨存じ、斯(か)様の者これ有らば、その五人組より庄屋へ相達し、厳しく異見仕り、再応に及び候ても、相用いず候わば、その趣、申出るべく候。もし捨て置き候て、以来悪事出来(しゅったい)候わば、その五人組並び庄屋、組頭まで越度たるべき事。
※ 過言(かごん)- 言い誤り。失言。言い過ぎ。
※ 風儀(ふうぎ)- 風習。ならわし。風紀。
※ 異見(いけん)-「意見」に同じ。
※ 再応(さいおう)- 再び繰り返すこと。再度。


一 悪事を企て、誓約を以って一身に連判、何事に依らず、一烈徒党がましき義、堅く仕るまじく候。もし相背くにおいては、理非を論ぜず、曲事たるべき事。
※ 曲事(くせごと)- 法に背くこと。また、それを罰すること。

一 御年貢並び役銭など、庄屋請け取り候わば、その度に納め候者方へ、請取書相渡し、重ねて勘定相違なき様に、相心得べく候。かつまた金銀取引少しの間なりとも、互いに請取り、手形取引申すべく候。証文これ無く候わば、仮(たとえ)出入に相成り候とも、取上げ申さず候事。
※ 役銭(やくせん)- 江戸時代、大工・桶屋・石屋・鳶職など、主に商工業者に課せられた雑税。
※ 手形(てがた)- 印を押した証書・証文。借用書・契約書・切手・関所札など。
※ 出入(でいり)- 紛争。訴訟。もめごと。
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御法度書四拾三ヶ條写し 1 - 古文書に親しむ(経験者)

(昨日の朝、西原方面)

朝から一日雨、夕方、わずか西の空に夕焼けが見えたから、明日は晴れることを期待しよう。写真は昨日の朝、女房が撮ったもの。「天空の城(竹田城跡)はこんな風に見えるのだろう」とは、女房の言。

今日から一週間ほど、「古文書に親しむ(経験者)」講座で、7月、8月、9月と読んできた、「御法度書四拾三ヶ條」を、取り上げる。似た御法度書はいくつか読んだことがあるが、おそらく幕府や藩、各領主から時に応じて出された御法度を、その村で必要な部分を、村の衆に読んで聞かせる目的でまとめたものだと思われる。見て来た御法度書は、似ているようで違っている。例によって、解読後、読み下して示す。

   御法度書四拾三ヶ條写し
      條々
一 公儀より前々仰せ出され候御法度、御家の御法度、御箇條の趣、堅く相守るべき事。
※ 御家(おいえ)- 貴人・主君などの家の敬称。

一 常々親に孝行仕り、主従礼儀を正し、夫婦相宜しく、兄弟、親類、中(仲)能く相続き仕り、万端、実躰に基づき、各(おのおの)家業大切に仕るべき事。
※ 実躰(じってい)- まじめで正直なこと。実直。

一 五人組の儀、家並び、向寄(むより)次第五軒ずつ組み合い、子ども、並び下人などに至るまで、諸事吟味仕り、悪事これ無き様に仕るべき事。
※ 向寄(むより)- 最寄(もより)に同じ。

一 御年貢金、小物成、惣て上納方の儀、その年の格を考え、上納の節、少しも遅滞及ばず候様に、各(おのおの)覚悟致し、米穀手前にこれ有り候とも、上納已前、自分の義に相弁じ候事、全く仕らず、跡月相触れ候日限の通り、急度(きっと)相納め申すべく候。かつまた御年貢引き込み、欠落(かけおち)致すべき旨、見請け候者これ有り候わば、穿鑿を遂げ候上、押し置き、早々申し出るべく候。油断致し、欠落致させ候わば、その者の御年貢所として弁納致させ、かの者をも尋ね出させ申すべき事。
※ 小物成(こものなり)- 江戸時代、田畑に対する年貢(本途物成)以外の 雑税の総称。
※ 跡月(あとつき)- 後月。


一 収納米拵え、念を入れ、米怔(精)し、吟味を遂げ、荒砕け、青米これ無き様に仕り、俵入れ升目、俵拵え、麁末(そまつ)これ無き様に、庄屋、組頭、百姓立ち会い、随分厳密に相改め申すべく候。麦の儀も同様たるべく候。はたまた、郷蔵修覆など念入れ、麁相の儀仕るまじき事。
※ 青米(あおまい)- コメの収穫時期が早すぎて、胚が未熟で緑色をしているもの。
※ 升目(ますめ)- 枡ではかった量。
※ 郷蔵(ごうぐら)- 江戸時代、郷村に設置された共同の倉庫。年貢米の一時的な保管倉庫で、のちには備荒用の穀物の貯蔵倉としても利用された。
※ 麁相(そそう)- 粗末なこと。粗略なこと。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 32 葬礼9

(散歩道ヒガンバナとイタドリも花)

秋の長雨が続いている。午後3時過ぎ、雨の止み間をねらって、ムサシの散歩に出た。土手でヒガンバナとイタドリの花が雨露に濡れていた。

朝、外壁の塗装の請求書が届いた。自分の予想より2割方安く上がり、ずいぶん良心的な業者であった。早速、銀行のATMで振り込んだ。定期預金を年金口座優遇定期に切り替えるように、勧められていたので、ついでに手続きした。待つ時間に、旧知の支店長が出て来て少し話した。昔、入行したばかりだった行員も、もう支店長である。取って返して、自費出版のお遍路の本を差し上げた。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。本日で「葬礼」の項を読み終える。

何ぞこれを言う、過(あやま)てる哀戚美、人に耀かすに至らず。また乖(そむ)かずや。為すを得て為すは可なり。何ぞ也(また)人の得ざるの為すを資(たす)くる。愚ならざれば、則ち狂なり。
※ 哀戚(あいせき)- 人の死をかなしみ嘆くこと。
※ 衾(ふすま)- からだに掛ける夜具。(ここでは葬具であろう)


聞く、近くは都人、その愛する所の優(俳優)の為に、贔負相競いて、数百一連、社を結びて、銭を醵(あつ)め、これを捐(す)て、その声勢を助く。俗、社を謂いて、連と曰う。何に連、誰れに連。各々その号を建つ。
※ 贔屓(ひいき)- 自分の気に入った者に対して肩入れし、援助すること。
※ 声勢(せいせい)- 世間の評判と、権威。


乃ち、貧して一時金を弁ずること能わざる者至らば、壁間に筒を懸け、毎日若干銭を課し盛す。抑々(そもそも)何の功徳、神梁、仏塔造営(ヒガケ)銭を課し與(よ)すに、甚だ相類せり。
※ 神梁(じんりょう)- 神殿の梁。(つまり、神社の社殿造営を指す)

因って聞く、連愚、相約し、日を刻して越後舗絹帛を買う。揚言す、今日優某のために買うと。多銭は善く買う、多を以って勝つと為す。
※ 連愚(れんぐ)- 連の愚かな面々。
※ 越後舗(えちごほ)- 越後屋。三越創業時の屋号。江戸の代表的呉服屋。
※ 絹帛(けんぱく)- 絹の布。絹織物。
※ 揚言(ようげん)- 声を大にして言うこと。
※ 多銭は善く買う - 正しくは「多銭よく賈(あきな)う」銭が多いと商売が自由にできるの意。資力の豊かなものは、何事にも成功しやすいたとえ。ここでは「賈」を「買」に代えている。


一日は愚輩将に帰らんとす。天、已に黒(くら)し。驟(にわ)かに見る、数夥(おびただ)しく群れ来たるを。名字を通ぜず。提燈(チョウチン)数百を抛(なげうち)て去る。これを訊(き)けば、則ちまた、優某のために、その愛する所を愛する、これを為すに出づと。

奇なるや事なり。嗚呼(ああ!)この土(土地)にして、この愚有り。この愚にして、この奇を為す。この愚の多き、この事の奇なる、この都の繁昌、以って知るべし。


これで「葬礼」の項は終る。明日より、少し「江戸繁昌記」から離れる。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 31 葬礼8

(散歩道のヘクソカズラ)

これほど不運な植物を、自分は知らない。ただその実がそんな匂いを発するというだけで、そんな名前を付けられてしまった。その匂いにしても、種の保存、繁栄のために、身に着けたものだったに違いない。しかし、人間は容赦がなかった。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

予、先生(橘園先生)に遇うごとに、輙(すなわ)ち、相共にこれを嘆じて、先生嘗つて予に謂う。曰く、人の世における生、死並びに、有力の資を借らざるべからざるや。泗上の葬も、蓋し、また有力の子貢に依る。然らざるや。
※ 泗上の葬(しじょうのそう)- 孔子は魯の城北の泗上に葬られた。
※ 子貢(しこう)- 孔子の弟子にして、孔門十哲の一人。商才に恵まれ、孔子門下で最も富んだ。孔子死後の弟子たちの実質的な取りまとめ役を担った。


何ぞ諸子の(ゆう)て去る。かつ、梁山、将に崩れんとす。曰く、賜爾来たること何ぞ遲きと。これまた一証、居士、手を拍(う)ちて曰う、心喪(うしな)うもまた、子貢の、その喪(そう)を主(おさ)めるなり。
※ 揖す(ゆうす)- 中国の昔の礼の一。両手を胸の前で組み、これを上下したり前にすすめたりする礼。
※ 梁山(りょうざん)- 梁山泊。水滸伝の故事より、豪傑や野心家の集まる場所を示す。
※ 賜爾(しじ)- 天よりの賜り物。
※ 一証(いちしょう)- 一つのあかし(証拠)。
※ 断(だん)- 物を決定すること。また、その決められたこと。


必せり。かつ肥馬の子の、志を為す。これまた有力。因って思うに、子路をして在ら使めば、必ず愠(いか)らん。然も、敝縕袍典する力の能(よ)くすべきに非ざるなり。
※ 肥馬(ひば)- 肥え太っている馬。昔、中国で富貴の人の装いをいった。
※ 子路(しろ)- 孔門十哲の一人である。孔子門下でも武勇を好み、そのためか性格はいささか軽率なところがある反面、質実剛健たる人物であった。
※ 敝縕袍(へいうんぽう)- やぶれたどてら。
※ 典する(てんする)- 質に入れる。


則ち想うに、応(まさ)に、原憲と皆な、逡巡、子貢に愧(はじ)ること有るべし。先生笑いて曰う、想うに然らん。それ聖人もなお有力の助けに依る。然らば則ち、有力に依らずして名を立てんと欲し、官儒の門に入らずして、禄を干(もと)めんと欲す。難(かた)いかな。
※ 原憲(げんけん)- 孔子の弟子の一人。清貧に甘んじ、同門の子貢がぜいたくな身なりで訪れてきたとき、それを たしなめたという故事がある。
※ 官儒(かんじゅ)- 朝廷・幕府に仕える儒者。


夫子曰う、その易(やす)からんよりは、寧(むし)ろ戚(いた)めよと。然るに、孟軻氏云う、君子は天下以ってして、倹(つつましやか)なその親にあらずと。遂に、天下後世をして、盡(ことごと)くこれを易きに失せ使(し)む。
※ 夫子(ふうし)- 長者・賢者・先生などを敬っていう語。ここでは孔子の敬称。
※ 孟軻(もうか)- 孟子のこと。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 30 葬礼7

(散歩道のツリガネニンジン)

台風が去って、台風一過とはいかなかったが、めっきり涼しくなった。夕方の散歩では、もう半袖では肌寒さを感じた。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

曰う、前(さき)には、吾が友、齊藤氏陶皐先生の死する家に余財無く、尸(しかばね)を挙げること能わず。桐棺三寸、纔(わずか)にこれを、貧弟子、貧朋友の手に獲(え)たり。

嗚呼、哀しいかな。先生、名は誠、字は子明、賦性孝友、意気爽邁、友に交りて、先ず施し、厚くを以って接す。人に青天白日、毫(ごう)虚設無く、甚だ古豪傑の風有り。然も、狐威、狸術、無きの故を以って、有力の助けを獲(と)れず。一生貧困、志しを飲んで卒す。
※ 賦性(ふせい)- 生まれつきの性質。天性。
※ 孝友(こうゆう)- 親孝行で兄弟の仲が良いこと。
※ 爽邁(そうまい)- 気性がさっぱりしてすぐれている。
※ 青天白日(せいてんはくじつ)-よく晴れ渡った天気。転じて、心にいささかも後ろ暗いところがないこと。
※ 虚設(きょせつ)- 実体のない物事を設定すること。


惜しいかな。橘園先生が祭文の略に曰う、君の世に在る、雄を知りて雌を守り、毀誉苟せず。
※ 祭文(さいもん)- 中国、文体の一種。死者の葬祭にあたって、その思い出を綴りつつ、哀悼の意を表わすもの。
※ 毀誉(きよ)- けなすこととほめること。悪口と称賛。
※ 苟(こう)す - 物ごとを深く考えないでいい加減にする。


言孫(ゆずり)て行危(あやう)うす。恂々翼々(あわび)を辟(さけ)て、芝に居り、人を誨(さと)して倦(う)まず、訓導私無し。貨色(かえりみ)ず。権勢覗(うかが)わず。
※ 恂々(じゅんじゅん)- まことのあるさま。まじめなさま。
※ 翼々(よくよく)- 慎重にするさま。びくびくするさま。
※ 鮑を辟て、芝に居り -(何か、故事を踏まえているのだろうが、解明できず)
※ 訓導(くんどう)- 教えみちびくこと。教導。
※ 貨色(かしょく)- 金品。


独り楽しむ所の者は、吟哦壺色、(くん)れば必ず佳句あり。頴脱嶷々、情を尽くしを極めん。
※ 吟哦(ぎんが)- 節をつけて漢詩・和歌などをうたうこと。また、詩歌をつくること。
※ 醺す(くんず)- 酒に酔う。
※ 頴脱(えいだつ)- 才能が特にすぐれていること。
※ 嶷々(ぎぎ)- ひときわ高いさま。
※ 致(ち)- 物事の行き着くところ。


頤を解くべし。曽(か)つて、稿を存ぜず。後に貽(のこ)すに意(おもい)無し。零紙千庁(枚)、雲飛び、風吹く。輯(あつ)めて編を成さんと欲するも、亡羊誰に問わん。
※ 頤(おとがい)を解く - あごを外すほど大きな口を 開けて笑う。大笑いをする。
※ 稿(こう)- 詩文などの下書き。原稿。
※ 零紙(れいし)- 余り紙。
※ 亡羊(ぼうよう)- 逃げて見失った羊。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 29 葬礼6

(散歩道の土手を覆うススキ / 一昨日写す)

台風16号が大隅半島に上陸、室戸岬をかすめて、紀伊半島を横断したあと、当地へ真っ直ぐに向かってきたが、1000ヘクトパスカルになって、消えてしまったようだ。雨は降ったが、風はそれほど吹かずに終わった。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

世、或は儒葬を欲する者有り。曰う、願うは死して仏氏引導を受けず。思うに、その人生、果して儒行有りや。生じて儒行無く、死して儒葬を用ゆ。また戻らざるや。また投壙に投ずるの、費え少なく、事なるを以ってして、可なり。
※ 儒葬(じゅそう)- 江戸時代の儒者が行なった、とむらいの儀式。儒者が僧侶の専門職になっていた葬式に反発し,中国,宋の学者朱子が編集した「家礼」を基にして制定したもので,林羅山,野中兼山から始ると伝えられる。
※ 儒行(じゅこう)- 儒家としての行い。
※ 投壙(とうこう)- なげいれ穴。
※ 約(つづまやか)- むだを捨て、全体を引き締める。


且つそれ、今、仏氏の仏氏ならざる、浄土を識る者、蓋し少なし。居士、それ惟(おもんみ)るに、真如の月は明なるも、和尚の徳は明ならず。これを受けるも、受けざるに同じ。また何ぞ難ぜんや。かつ人、墦肉強飯の生を為ざば、明僧の引(導)を受るといえども、豈(あに)西方(浄土)に到ることを得ん。
※ 真如(しんにょ)- ありのままの姿。万物の本体としての、永久不変の真理。宇宙万有にあまねく存在する根元的な実体。法性(ほっしょう)。実相。
※ 難ず(なんず)- 非難する。悪く言う。また、難癖をつける。


去歳(昨年)は、秀佳路考、二優、同時に駢(なら)び死す。天に泣き、地に(こく)し、児女、為めに毀す。僉(み)な言う如し。(あか)べくんば、その身を百にせんと。葬るに及びて、四方来り観る。棺槨の美、衣衾の麗、予(くみ)する者、大いに驚く。蓋し有力の者、これが資を為せばなり。居士、これを聞きて、天を抑ぎて大息す、何ぞや。
※ 秀佳(しゅうか)- 三代坂東三津五郎。(1775~1832)江戸時代後期の歌舞伎役者。俳名は秀佳。
※ 路考(ろこう)- 五世瀬川菊之丞。(1802~1832)江戸で女方として活躍。代々俳名路考。多門路考。
※ 哭(こく)- 大声を上げて泣く。慟哭(どうこく)する。
※ 児女(じじょ)- おんな子ども。
※ 贖う(あかう)- (「あがなう」の古形)金品などを提供して罪などを償う。
※ 棺槨(かんかく)- 遺体を納める箱。ひつぎ。
※ 衣衾(いきん)-衣服と夜具。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 28 葬礼5

(散歩道の白いキノコ)

秋雨前線と言うのだろうか。太陽を見ない日が続いている。また、台風がこちらへ向かっているらしい。彼岸の入りで、午前中に女房の実家の墓参りに行く。

夕方、ムサシの散歩で、土手を歩いていて、白いキノコがたくさん出ているのを見た。昨年も、一昨年も、同じ所で見た記憶があるが、こんなにたくさんではなかった。但し、キノコの名前を特定するのは難しい。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

昔者の繁昌、墦間の内、以って一妻妾を養う者有り。予謂(いわ)く、千古、一人のみと。何ぞ意(おも)わん、今の世もまた、その人有らんとは、この日に聞くなり。
※ 昔者(むかし)-むかし。過去。昔日。往時。
※ 斎(とき)- 仏事の際に寺院で出される料理。
※ 墦間(はんかん)- 墓地。
※ 千古(せんこ)- 遠い昔。おおむかし。


幹人(世話人)中に参じ、左接右応、駿走、事を執る。便(すなわ)ち、目の注ぐ所、手の触るゝ所、強飯、茶碗、土瓶を連ねて、これを抱き、遂に混雜中に逃ると。然も道路(みちみち)の言、安(いずくん)ぞ、その果して然るや否やを知らん。また、多く、以ってこの都の繁雑を推(おしはか)るに足るのみ。
※ 駿走(しゅんそう)- すばやく走る。
※ 弟(てい)-「第」と同じ。段階。程度の差。


火事場泥棒ならぬ、葬儀場泥棒の話である。それで、妻と妾を養ったというから、もはや見上げた者である。江戸の地口でいえば、「屋根屋のふんどし」。

不義の禄は墦肉なるのみ。不義の銭は強飯なるのみ。播肉の生(なま)は、死に如(し)かざるなり。強飯の生は、葬らるゝに如(し)かざるなり。
※ 墦肉(はんにく)- 墓前祭肉。

詩に云う、人として礼無ければ、胡(なん)ぞ、遄(すみやか)かに死なざる。(うなぎ)は、則ち礼無くて可なり。猿は、則ち義無くして可なり。乃(すなわ)ち、仁義を知らずして、儒と謂うやに至りては、則ち不可なり。虎の威を藉(か)りらば、即ち狐のみ。人には非ざるなり。狸術を設けば、即ち狸のみ。儒には非ざるなり。狐狸にして生(お)いんよりは、寧(むし)ろ、鱣と為りて、和尚の口を悦ばさん。山鯨、煨薯(やきいも)、口を悦(よろこば)しむるもの、なお数有り。
※ 詩に云う‥‥ - 詩経に、「人而無礼、胡不遄死」(人にして禮無くんば、胡(なん)ぞ遄(すみやか)に死せざる)とある。
※ 山鯨(やまくじら)- イノシシの肉。また、獣肉。獣肉を食べるのを忌 んで言った語。
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古文書解読余話 2題

(解読の依頼を受けた書/手書きはカラーコピーに解読しながら自分が書いたもの)

前々回の講座で、学生の方から書の解読を依頼された。古文書解読と書の解読はまた別の物と、古文書解読の先輩も意外と避けると聞くが、頼まれたら嫌とはいえない。しかし、頼まれたことを忘れていて、一ㇳ月経ち、次の講座の準備に入って、頼まれたことを思い出した。早速解読に入り、文字に置き換えてみたが、意味が全く解らない。これでは解読したことにならないし、解読した文字が合っているのかどうかも、確認できない。

思い付いたのは、ネットで調べることである。読み取った五文字「與化翁争境」を、そのままネットにぶち込んで、検索してみた。何と一発で、すべてが解明された。

與化翁争境
【解読】化翁と境を争う
福沢諭吉の言葉。
『福澤先生晩年の語に「造化と境を争う」とか「化翁を束縛す是れ開明」(いずれも原漢文)というのがある。造化も化翁も天地自然の働きのことで、別の言い方をすれば造物主と同じ意味である。だから、この語はその働きを人間の智力で制御しながら、自然の法則を人類の幸福のために発展させるのが文明化の目的なのだ、と言っているのである。』

ネットの力を改めて知った。ネットを使わなければ、この説明にたどり着くのに、どれ位掛かるだろう。残念ながら、福沢諭吉の言葉としては「天は人の上に人を作らず」位しか知らなかった。

よくみると左脇に二つの印が押され、上は、雅号の「三十一谷人」下は「福澤諭吉」と読める。だからと言って、この書が諭吉の真筆なのかどうかは、分らない。それはまた別の分野の話である。

今日、「多田乙山」さんからコメントがあり、分らない2文字は「農隙」ではないかとアドバイスを頂いた。目から鱗だった。調べる上で、前提に考えていたのは、読み聞かせる条だから、決して難しい言葉ではないだろう、また、何か、奢侈をとがめる条なのだろうということであった。「時間の無駄使い」という点は、想定外だった。ただ学生のNさんとの会話に、そんなヒントが少しあったようにも思う。

そういえば、「農」の異体字に「草冠に辰」と書く字があったのを思い出した。その崩しで間違いない。「農隙」は辞書では「のうげき」だが、ここでは「のうのひま」と読んで、読み聞かせていたのだろうと思った。

改めて「多田乙山」さん、有難うございました。ところで、「多田乙山」は「唯のおっさん」のもじりですよね(笑)。
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「古文書に親しむ」講座でペンディングのこと


(「古文書に親しむ」のペンディング箇所①)

午後、金谷宿大学「古文書に親しむ(経験者)」講座を実施した。今日は、少し量が多いかと思ったが、「御法度書四拾三ヶ條」の残りを最後まで読んだ。次回は、「大井川川除け御普請」の話で、家山に聖牛などの原寸大のサンプルが見られるところがあるので、講座終了後、希望者だけでも、見学に行きたい旨を話した。もちろん当日の天気次第ではあるが。

講座の中で、二ヶ所程、次回までのペンディングにした場所が出来てしまった。

一つは、①影印の4行目、下から2文字。

「解読」を示すと、
一 神事祭禮古来よ里有来ル分も
随分軽く仕美麗ヶ間鋪儀可為
無用候其外不時之會合或ハ月待
日待尓事寄せ大勢集リ■■
費し申間敷事


「読み下し」を示すと、
一 神事祭礼、古来より有り来る分も、
随分軽く仕り、美麗がましき儀、
無用たるべく候。その外、不時の会合、或は月待ち、
日待ちに事寄せ、大勢集り、■■
費し申すまじき事。


この2文字、意見を聞いた所、当講座で、最もベテランで、たくさんの古文書を読んでおられる、Nさんが、上の字は莨(たばこ)ではないか、という。そう言われれば、見えないこともないが、奢侈禁止の触れで、煙草を控えることに言及したものは見たことがない。現在と違って、煙草に健康被害があるとは知られていない。この2文字を合せてペンディングとさせてもらった。


(もう一つのペンディング箇所②)

もう一つは「印鑑」の、江戸時代における意味について。

「解読」を示すと、
一 印形大切尓可致若し紛失候歟改候ハヽ
早速印鑑庄屋組頭ハ役所江可
差出百姓水呑ハ庄屋方へ印鑑取置
可申候印判麁末ニ致出入出来候ハヽ
可為越度事


「読み下し」を示すと、
一 印形大切に致すべし。もし紛失候か、改め候わば、
早速印鑑、庄屋、組頭は役所へ
差し出すべく、百姓、水呑は庄屋方へ印鑑取り置き
申すべく候。印判麁末に致し、出入出来候わば、
越度たるべき事。


同じNさんから、「印鑑」は「印」そのものではなくて、印影を押した届け出の書類をいうのではないかと、指摘があった。これは全く自分の勉強不足で、確認の意味で、ペンディングとさせてもらった。終ってから、辞書で見ると、
印鑑(いんかん)は、「江戸時代、照合のために関所や番所に届け出ておく捺印手形。」とあった。照合のためにあらかじめ届けて置く書類のことであった。一つは答えが出た。

講座にNさんのようなベテランにいて頂くのは、大変心強い。古文書を読む時に、思い込んでしまうと、中々正しい答えに戻れないもので、Nさんのような一言で、間違ったことを教えてしまう危険が防げるからである。
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「江戸繁昌記 ニ篇」 27 葬礼4

(散歩道のクズの山)

散歩道に、葛が生い茂り、山になっている、元畑がある。何年置けばこれだけになるのだろう。クズの繁殖力は放置すれば、街をも飲み込むほどのものがある。

午後、駿河古文書会に出席する。最近、古文書会会員の多くの方とお話し出来るようになった。少しずつ会になじんで行けて大変うれしい限りである。何人かの方へ名刺代わりに、お遍路の本を差し上げようと思う。今日の課題は「算法地方指南」の内から「川除堤用水堰樋等普請之事」というもの。カットされている部分もあり、全文ではないが、金谷の講座で来月辺りから、大井川の川普請の文書を読む予定だから、参考に出来ると思った。

「江戸繁昌記 二編」の解読を続ける。

以下、和尚が引導を渡す場面である。現代の葬式でも、引導の文句は漢文を読み下したような、難解な文句で、中々内容は知れない。この引導は静軒作の、諧謔的なものだけれども、本来の引導も、理解できないだけに、内容がどんなに下世話なものであっても、不思議ではない。

和尚聲咳し、徐々に出で来たる。従容として柩に向い、挙げて、謂いて曰く、それ惟(おも)んみるに、もと、これ何れの所の馬骨ぞ。今逝(ゆ)きて、また何れの天に向かう。また四国を巡りて猿狙となるや。将(はた)、江河に浮かれて蛇鱣に為るや。鱣(うなぎ)よ、我能く若(なんじ)を噉(くら)わん。和尚、もと、羶(なまぐさ)きを嫌わず。拂(払子)、一払いして、曰う、去来、何れの煨薯(やきいも)一竈(かまど)の烟(けむり)在る所ぞ。喝(かつ!)
※ 聲咳(けいがい)- せきばらい。
※ 従容(しょうよう)- ゆったりと落ち着いているさま。
※ 拂(ほつ)- 払子(ほっす)。仏具の一つ。長い獣毛 (馬の尾毛など) や麻を束ねて、柄をつけたもの。
※ 蛇鱣(だせん)- 蛇やうなぎ。
※ 去来(きょらい)- 去ることと来ること。行ったり来たりすること。(ここでは、あの世とこの世を示すか)


賓主次を以って、香を(ねん)。こと畢(おわ)るや、客を側室に延じ、主人稽顙して拜す。茶を献じ、飯を供す。一時混雜、梵娘(ダイコク)事に幹たり、皆、飯を袖にして出て、挙げてこれを乞児に投ず。
※ 賓主(ひんしゅ)- 客と主人。
※ 次を以って - 順次。次々に。
※ 拈ず(ねんず)- つまむ。(「拈香」(ねんこう)で、香をつまんで炊くこと。焼香。)
※ 延じる(えんじる)- 引き入れる。招く。
※ 稽顙(けいそう)- 頭を地に近づけて、しばらくとどめ、敬礼する。また、その礼。稽首。
※ 梵娘(ぼんじょう)- 梵妻。僧の妻。大黒(だいこく)。
※ 幹たり(かんたり)- 中心となって取りしきる。
※ 賓(ひん)- 敬ってもてなすべき客人。また、訪れて来た人。
※ 乞児(こつじ)- こじき。乞食(こつじき)。
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