カンボジアの民間薬 1 ビンロウヤシ

カンボジアから   金森正臣(2005.12.26.)

カンボジアの民間薬 1 ビンロウヤシ

写真:ビンロウヤシ・セット。ビンロウヤシは、女性の嗜好品として市場などで売られている。写真は、ある民家に置かれていたビンロウヤシを噛むためのセット。薄切りの椰子の実を乾燥したもの(暗褐色の円形の板状、英名:Betel nut palm 学名:Areca catechu)、と貝殻を焼いて粉にして水で練ったもの(白く見えている)、山芋の様なツルの生葉(英名:Betel leaf vine 学名:Piper betle)がセットになっている。生の葉に貝殻の粉末を塗り、ビンロウヤシの種子を包んで噛む。

 どこの国にも嗜好品は、発達している。カンボジアでは、年配の女性の嗜好品としてビンロウヤシが栽培されている。コンポンチャムのある地方では、これを専門に栽培している農家を見たことがある。一般的には、庭先に数本が植えられている程度で、沢山は栽培されていない。プノンペンでも僅かながら庭先で見ることがある。カンボジアでは、庭に植える木は、果物がなる木が多く、観賞用のものは少ない。ジャックフルーツやマンゴーはよく見かける。

 市場には必ずどこかにこのビンロウヤシのセットが売られている。この中の貝殻を焼いたものは、生物の実験で、光合成で炭酸ガスが使われることを確認するための試薬として使う。この白い粉を水に溶いて上澄み液を、炭酸ガスのある中に入れると、水酸化カルシュウムが炭酸カルシュウムになり、水に溶けなくなるので白濁する。カンボジアではかなり田舎でも手に入るので便利である。後は透明なペットボトルがあると、簡単に実験ができる。
 
 ビンロウヤシについて、男性がタバコを吸うが、女性はタバコを吸わないのでその代わりであると説明を受けたことがある。しかし年配の女性だけで、若い人は吸わないと言われた。何か性的興奮作用でもあるのかと思ったが、言葉が良く通じなかった。

 この写真の家で、少し分けて貰って噛んでみた。やや疲れていたこともあったが、噛み始めると軽い目まいを感じて、気分が沈む様だった。脈拍はややゆっくりになった。数分で、その目まいはなくなり、気分は落ち着いた。30分ぐらいしてまた噛んでみたが、今度は前よりも軽い症状だった。きっとタバコと同じで、続けると作用が弱まるのだろう。その後特に好んで噛んでみようと思わないから、習慣性はないのかも知れない。

 葉に貝殻の粉の練ったものを薄く塗りつけ、ビンロウヤシを包んで口の中に放り込む。ビンロウヤシは、乾いているのでかなり硬い。噛んでいると唾液で柔らかくなり噛みやすくなる。唾液が真っ赤な汁になるので、これは吐き出しながら噛む。飲み込むことはしない様だ。おばあちゃん達は、市場の片隅でナイロン袋を片手に、ビンロウヤシを噛んでいる。なんだかシンナーをやっている姿を連想させる。
 ビンロウヤシは、ゴルフボールよりやや大きめの果実を付ける。外皮は緑色であるが、中は白色。これを薄切りにして乾燥すると暗褐色の、写真用になる。種子は房状に数十個が付く。木は椰子の仲間であるが、かなり特徴があり直ぐに見分けられる。葉が付いているところから下部は、竹を連想させる。

 コロンビアでは、高地の人達の間では普通にコカが使われていると聞いた。寒さ、空腹、疲労感を消失するという。コカの葉は野生でもあり、これがコカですよと教えて貰った。葉を噛む程度では、強くはない様で習慣性も薄いという。
 コカの栽培は、密林を切り開いた中で小面積ずつ行われていた。日陰を好むため、木を全部切ってしまうのは良くないとのことだった。マフィヤが管理しており、国で造った地図には書いて無い、15m幅ぐらいの立派な道路が走っていた。調査の時にはこの道路を使って、軽飛行機やヘリコプターの発着を行った。国の役人が付いてきていながら、俺たちは知らない道路だと言うのも、コロンビアらしくて妙に気に入っていた。

 どこの国でも、遠い昔から様々な嗜好品が開発されてきている。これらが薬とも関係している。生活の必需品なのであろう。

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