偏平足


偏平足 2013.12.21.  金森正臣
この文章は、カンボジア日本人会の会報のために書いたものです。既にこの記事が発行されたあとですから、載せました。

偏平足 親の心配を防ぐ

カンボジアで発行されているフリーペーパーの広告に、タイの病院の広告があった。その中に赤ちゃんの足の写真があり、偏平足は将来、ひざ、ふくらはぎ、背中の痛みを発症する要因になると書いてあった。1歳から15歳の子どもは、無料で診断を行っていると宣伝している。更に、偏平足の70%は子どものころから形成されている、と言う記述もある。
これを読むと、自分の子どもの足を見た親は心配し、検診を受けようかと思うようになる。ここが病院の思うつぼであろう。偏平足は、赤ちゃんには普通の現象で、1歳の子どもの足を診断して、偏平足ですと診断するのは明らかに誤っている。足の裏が、アーチ形になるのは、歩き始める1歳ごろから5-8歳ごろまでに徐々になるのであって、1歳児ではほぼ全員偏平足である。この様な現象を説明せずに、親の不安を煽って、病院に導くやり方は、日本では明らかに問題になる。

もう35年も以前に、住んでいる隣の市にある小学校に良く行っていた頃、2年生の担任のベテランの先生から相談を受けたことがある。「最近、偏平足の子どもが多いような気がする」と。それまであまり関心を持ったことがなかった偏平足について、以前に勤めていた大阪市立大学医学部の小児科の先生に相談してみた。結果は、小さい時は足の裏は平らで、2歳ごろから足の裏のアーチが形成されることが判明した。これは解剖学的な機能性を考えると明らかで、直立するようになって、足を使いだすと、足の指を引っ張っている足裏の筋肉が発達し、先端の末節骨(指の先端の骨。爪がある節)や中節骨(指の先端から2番目の骨。但し親指は2節しかないから、2節目は基節骨と呼ばれる)が引っ張られるようになり、アーチ形が造形されてくる。さらに運動することによって、アーチ形は高くなり、素晴らしい弾力を持つようになり、長時間の歩行に耐えられるように進化する。偏平足の子どもの多い原因は、靴やスリッパを使うことによって、足の指が十分に使われず、足の指が足のかかとの方に強く引かれる機会が少ないと考えられた。小学校では、このことを話して、草履か素足で生活するように指導した。もちろん怪我をする可能性が高くなるので、父兄にも目的と方法を通知し、理解を求めた。2年後の5年生の時には、偏平足は10%以下に減り、大きな問題にはならなくなった。これは訓練の成果と子どもの成長による結果であって、素足がどの程度効果を発揮したかは明らかではない。しかしその年の他の学校での5年生の偏平足率は、指導した学校より数%高かったように覚えている。
素足で生活する習慣をつけると、意外なところに効果が表れた。子どもたちはそれまで、教室の床が汚れていても、さして気にしていなかった。素足になると、床の上の埃や汚れ(給食をこぼしたものなど)が気になりだし、掃除を頻繁にするようになった。父兄からも、子どもに指摘されて家の廊下の汚れがきれいになり、子どもが良く掃除をするようになったと報告があった。もっと驚くことは、風邪をひいて休む子どもが明らかに少なくなったことである。これは保健室の先生から指摘され、調べてみると、素足になり始めて3か月ぐらいで効果が表れている。冬になっても靴下をはかない子どもも増え、明らかに子どもの健康状態が良くなった。以前の小児科医に報告すると、多分足の裏の刺激で、体の活性が高くなり、いろいろなことに対応する能力が高くなったのであろうとのことであった。確かに、足の裏には、色々なツボ(日本式・中国式のマッサージや針、お灸の効果的な場所。多くは、リンパ液の流れる交差点に当たる。中国の医学は、生きた人体の解剖:黄帝の捕虜の解剖から始まっており、リンパ液の動きを観察している。西洋の医学は、死体の解剖から始まっているので、リンパ液の観察は遅れた)があり、素足によって刺激を受け、体の活性が高まったのであろう。

歩き始めて間もない、ヨチヨチ歩きの1歳児では、足の裏は扁平が普通で、この段階で偏平足を診断することはできない。病院の宣伝にある「偏平足の70%は、子どもの頃から形成されている」と言う記述も、問題がある。確かに子どもの定義によるが、私の経験からすると、現在では7-8歳では30%ぐらいの子どもに偏平足は残っている。上のカッコ内の記述は、誤りではないが明らかに親の不安心を煽っている。この様な書き方によって病院の患者を増やそうとするような診療は、信用に値しない。手術や投薬はしないと書いてあるが、自宅でなるべく素足で歩かせることによって、この病院ぐらいの効果は十分に発揮できる。

私の子どもの頃は、靴などほとんどなく、小学校3年生の時(昭和23年、1948年)に50人ぐらいのクラスで、たった2-3足の長靴が配給になり、クラス全員でくじ引きをした覚えがある。教科書も2年生になって、同じように配給制で、各科目3-4冊が配給された。この様な状況では、草履や裸足であったから、偏平足などはほとんどなく、私が知ったのは大学生になって山岳部に所属してからである。足を締め付けることによって起こる、外反母趾も、履物の変化によって起こったと考えられている。その意味では、両者ともにある意味の文明病かもしれない。


写真1:ゼロ歳児の足の裏。一応アーチがあるように見える。
写真2:ゼロ歳児の足の側面。一応アーチがあるように見える。
写真3:中央の坊主頭の男の子と後ろの男の子は、偏平足。右側の陰になっている女の子も偏平足。3歳、5歳6歳ぐらいであろうか?この成長段階では、まだ偏平足とは判断が難しい。
写真4:左側の赤いシャツの女の子は、偏平足。右側二人は正常。この段階はまだ大人になってからの判定が難しい。
写真5:この子も偏平足。年齢は不明。まだ成長途上。
写真6:偏平足の簡単な判定。濡れた素足で、乾いた板やコンクリートの上を歩く。くっきりとツチフマズが出れば、正常。


「イタチの最後っ屁」です。これで終わりです。さようなら。
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