カンボジア事情1

カンボジア事情1
2004.9.9.
金森正臣
訳本の点検
 現在短期専門家としてきておられる化学の川泉先生(名古屋大学工学部)・野本先生(三重大学教育学部)に応援をお願いして、村山さんと化学のメンバーが訳したイギリスの本のチェックをしています。かなり地球科学的内容が含まれています。なかなか難物で、こちらもクメールは分からないし、抜けているところ、明らかに変だと思われる所などだけでもかなりあります。今後10月までの時間との競争で、できるところまで直したいと思っています。でも本として出すのであれば、索引なんかも訳して貰いたいし・・・・。
彼らは、地理的素養はほとんど無く、多くの教官が3年前には、地図や地球儀の上で自分の国が何処にあるか分かりませんでした。しばらく探しても見つからず(確かに地球儀の上で知らない国を探し出すのはかなり大変ですが)、アジアにあるとかインドシナ半島だとか言っても混乱の度を増すばかり。タイの隣で、ベトナムの隣、中国よりも南にあるとか説明してもサッパリ。それはそうだ位置関係も分からないし、自分の国も分からないのだから、隣の国が分かるわけがないと考え直し、指し示して説明を加えたりしました。訳本の中に、ジャマイカのボーキサイトか何かの話が出てきたのですが、彼らはイギリスの本にあるのだから、ジャマイカはイギリスの地方だと思っていたようです。この様な現象は、単に経験の不足に因るところが大きい問題なのでしょう。
 昨日も今日も、1階で化学の授業をしておられる川泉先生が、2階の生物の部屋に駆け込んできて、地球儀を貸してくれと言う。生物はアース・サイエンスと同居しているから、幾つかの地球儀があるのです。彼らにいろいろ地球上のことを説明しても、なかなか通じないようです。生物の森本先生も、ダーウィンの調査航路の話と進化論のために地球儀を使ったが、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアとかが分からなかった様で、これでは大陸移動説を説明しても何にも分からないかも知れないと嘆いていました。因みに生物関係の大学の教官、教育省の視学官、高校の先生など二十数人が集まっていて、ダーウィンのことを誰も知らなかったと言います。確かに高校の生物の教科書には進化の話は全く出てきていないのですが、それにしても驚きますね。
 川泉先生の曰く、「もう少し教養部分が何とかならないと、レベルを上げるのは難しいよ」とのこと、全く同感です。何が不足しているかは、その都度問題が起こってから判断するしかない状況です。確かに日本の教育は、その様な点では優れていろいろバランスが良い様に思いますが、カンボジアの路上生活の子どもたちを観察していると、日本の先生も生徒も生きる力はほとんど無いと嘆けますね。どっちが目指すべき道の基本なのでしょうか。
カンボジアの温泉
 先日の日曜日に、生物のメンバーが企画した奈良教育大から短期の専門家として見えている森本先生歓迎会に村山さんと2人でついて行きました。
カンボジアの西の方のキリロム山塊の東端ですが、なんと温泉が出ていました。水温は65.3℃、立派な温泉です。暑いところの人達は、温泉には関心が薄いらしく、入る様にはなっていませんでした。山の端に湧き出していると言うので、私も村山さんも小川に湧き出している温泉を想像していたのですが、なんと平坦地の湿原の真ん中に出ている様な温泉でした。手を入れられない温度です。草原は結構70センチぐらいの草丈があり、奥の方は分かりませんが熱い温泉の縁まで茂っています。草の根元の温度を測ると45℃程度はあり、これで良く生活できると思いました。
 この土地は、環境省がエコツーリズムを考えていたようですが、現在は金持ちの中国人の物になってしまっているとのことでした。
 因みに温泉の回りには妙に赤いトンボが、縄張り飛行をしたり、草の茎の高いところに止まったりしていましたが、まさか温泉に卵を生み付けているのではないでしょうと思いながら、なぜ温泉の上だけという疑問は解けませんでした。この温泉では温泉卵ができるそうです。カンボジア人も温泉卵を食べるのかと思ったら、どうやら茹でることが出来ると言う意味だったようです。トンボが卵を産んでも温泉卵になるのかなーと、極楽トンボの様なことを考えていました。
 この温泉の話題は最近カンボジアのテレビで取り上げられたと言うことで、生物のメンバーもそれを見て行くことに決めたと話していました。火山の影響かと聞かれましたが、十分には答えられませんでした。地熱の影響ではありますが。
昼食の前に、村山さんが3-4軒有る売店の中から呼ぶものですから行ってみたら、何か黒々とした液体がプラスチックコップに注がれていました。一口飲んで見てはいかがかと進められて恐る恐る飲んで見ました。あまり強い臭いもなく焼酎様の物に何か漬けてあると言うことでした。
 店の奥に(と言っても4-5歩も歩けば裏に出てしまいそうな店ですが)、プラスチック製の100リットルぐらいのバケツに造られていて、お客にそこから汲み出して飲ませていました。中を覗くと村山さんが棒でかき回しながら、底からいろいろ持ち上げてきます。サルの薫製状態の物、カメの丸ごと、ヘビなどはその姿から分かりましたが、他にも何か入っているようです。サルもカメも1個体しか入っていないようでした。サルはスロー・ロリスの仲間で(英名SlowLoris学名Nycticebuscoucang)、昔から薬として使われていたようです。一昨年の正月にシェムリアップの奥の、プノン・クーレンの山の中のお寺に行った時も、沿道で幾つか売っていました。開いて薫製状に干してある一つを標本のために買ったら、生きた物もどうかと言って進められたので、森林地帯では、普通に売られているようです。他にもコンポンチャムの市場で見かけたことがあり、伝統薬として需要が結構あるようです。実際の使い方が分かったのは初めてです。煮出して使うのかと思っていましたが、アルコールで抽出するのが普通なのかも知れません。カンボジアには、ピグミー・ロリス(英名PygmyLoris学名NycticebusPygmaeus)もいるようですが、あまり見かけたことはない様に思います。いずれも保護獣になっています。村山さんは、1リットル入っているこの抽出液を買いましたが、5ドルとカンボジアとしては結構なお値段でした。ラベルには、男性の夜の薬だという話も書いてありましたが、何にでも効くと言うことでした。この薬が効いたのか、昼寝はぐっすりでした。カンボジアの教育事情最近若い生徒が出入りしていると思ったら、なんと中学生が十名ぐらい来て授業を受けていました。授業をしているのは、物理のカウンターパートであるペンロン君(彼は既に日本で、3ケ月間の研修を2回受けています)です。事情を聞いてみましたら、この12月にインドネシアで東南アジアの国々の中学生の理科に関する学力を競う大会があるのだそうです。今年の4月にもペンロン君が担当で、高校生の同じ様な大会があり、ベトナムに行ってきました。出かける以前に1週間ぐらいトレーニングをしていました。しかし帰ってきた彼の曰く、カンボジアはレベルが低く、最下位だった。ちょっとくらいでは追いつかないと嘆いていました。今回も彼が担当になって早くからトレーニングを始めたようです。この様なカンボジアの勉強レベルの状況を理解するのは良いことですし、大いに頑張って貰いたいと思います。しかし選抜された10名ぐらいを、即席にレベルを上げようとしても、あまり効果はない様に思います。結局試験問題を予想して、回答例を覚え込ませることになるのでしょう。やはり先生の力を上げなければ、何ともならないと思います。でも彼らにもプライドがあり、ベトナムやタイ(どちらもカンボジア人はよい感情を持っていません。昨年のタイ大使館焼き討ち事件も、結局はこの様な感情を示す事件です)に負けることは許せないのでしょう。経済力ばかりではなく、学力でも格差はかなりあると思いますが。カンボジアの社会状況いろいろな国々を見てきましたが、日本の様に経済格差の少ない国は、あまり見かけない様に思います。カンボジアも例外ではなく、かなりの経済格差があるようです。片側で、災害の時には村を救うほどの寄付をする財力のある政治家があるかと思えば、何もなく路上で生活している人たちが居ます。いろいろ観察していますと、内戦中で有っても1980年頃からは、財力のある者はかなり裕福な生活をしていたようです。現在でも若者が、数千万円の車を乗り回したりするレベルから、バイクを乗り回したりするレベルまで様々なランクがありますが、彼らはいずれもかなり裕福な家庭のようです。ランクから見ると、イ)何も持っていないクラス:路上生活者など、ロ)ぎりぎり生活のための拠点を持っている、水上生活者もこの仲間?、ハ)それなりに立派な家を持ち生活が安定している:但し現金はあまり豊ではない、ニ)家もあり車などを持っている:現金もそれなりに自由になる、ホ)結構富豪に属するクラス:別荘を持っていたり、豊富な資金を持っていたりしてますます収入が増えて行くクラス:かなり悪いこともしている様です。カンボジア社会では、独立気質があるというか自分勝手というかは別にして、他人のことはあまり気にしない風潮があります。前にも書きました様に、パーティーなどで路上生活の子どもたちが空き缶を求めて走り回っていても、あまり気にする風はありません。追い出すこともしませんが、何かを恵んでやる風もないのです。路上生活者に対しても同じ様なことが見られます。町ですれ違っても全く無視です。路上生活者の方もあまり困った様子も無く、時間があれば路上の日陰でトランプによる賭け事をしています。夜なども、どこかの塀の上の明かりを頼りにその下に集まり、同じように賭け事です。シクロ(自転車タクシー)の運転手(多くは農村からの出稼ぎ労働者)も混じって楽しそうです。カンボジアは熱帯で寒くないこと、土地の生産性は高く飢え死にが少ないことに関係が深い様に思います。路上生活者も悲壮感はほとんどありません。この様な状況ですと社会の問題も、あまり人々が気に掛けないのは当たり前かも知れません。
金森正臣KANAMORI,Masaomi
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ご無沙汰致しました。

皆様
 ご無沙汰致しました。プノンペンにおります金森です。
 最近2カ所ほど見学する機会に恵まれました。
なるべくカンボジアの状況をいろいろな角度から認識したいと思っておりますの
で、簡単な報告を送らせて頂きます。
 →カンボジア日本友好学園訪問   カンボジア事情1
 
 長くなりますので、異なる場所は後ほど別送します。
 プノンペンはこのところ毎日雨が降って、かなり涼しい感じがします。それでも27 ℃から33℃ぐらいにはなるのですが、先週日曜日に雨の中を歩きました。寒くはなかったのですが、やや風邪傾向で、今日あたりから復活しました。皆様も残暑厳しい中、健康にお気を付け下さい。
 明日からチャンセンの研修先である市橋先生が、研究材料の選定のために来て下さ
ることになり、明後日からタイとの国境パイリンに行ってまいります。雨で道路が心配ですが、多分アフリカよりは大丈夫だと思います。
 
                    2004.9.5.
                    JICA短期専門家(生物) 金森正臣 
 
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