書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

柳家花緑 『落語家はなぜ噺を忘れないのか』

2010年11月08日 | 芸術
 好きだから。真剣だから。ある意味、バカみたいな答えだが、もうひとつ、口立てで憶える、あるいは台本を読んで(あるいは口立てを自分で書き起こすところから始めて)憶える、いずれの方法かを問わず、完全に憶えるまで自分の口と身体を使って繰り返すから。これは、漢字や英単語を覚えるのに、ただ眺めていて憶えるよりも、声に出して誦む、自分の手で綴るほうが、早いし確実なのと同じことだ。これでもバカみたいか? しかしこれは言うは易く行うは難しのわざである。(なんでそこまで)とか(面倒くさい)とかと思ったら、じつはそれほど好きでも真剣でもない、つまりその分野には本当には向いていないということである。さっさとやめちまえ。

(角川SSコミュニケーションズ 2008年11月)