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書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

木村肥佐生著/スコット・ベリー編/三浦順子訳 『チベット 偽装の十年』

2009年09月18日 | 東洋史
 原著:Japanese Agent in Tibet: My Ten Years of Travel in Disguise, by Hisao Kimura and Scott Berry, Serindia Publications, London, April 1, 1990.

 パタン出身の家族に会うのは初めての経験だった。パタンの人間は、平均的なチベット人と比べると多少色合が違った。パタンはチャムドと打箭炉(ダルツェンド)の間に位置し、反乱にみちた歴史と一風変わった方言をもつ地方である。その反乱精神にもかかわらず、家族は全員中国名とチベット名をもち、いずれの言葉にも堪能だった。 (「十二 交易人兼密輸業者、時には活動家」 本書295-296頁)

 この家族はプンツォク・ワンギャルの伯父江新西の一家なのだが(それは『チベット潜行十年』にも書いてある)、彼らがバイリンガルであったことはこちらの著書で初めて知った。江新西は国民党の国防機関の駐チベット連絡将校で、河北省の保定陸軍軍官学校を首席で卒業した経歴の持ち主というから(これもこちらの著書で初めて知った)、漢語ができて当然ではある。

(中央公論社 1994年4月)