書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

朱子へのひと言

2018年09月12日 | 東洋史
 本(経典)は虚心に読めと弟子たちに言っておいて各自虚心に読んだその解釈が自分の定めた読みに一致しなければならないというのはどういうことだ、朱熹先生。私欲を去れば仁とは何のことだと王守仁が怒るのも無理はない。 『中国文明選 3 朱子集』で、三浦国雄氏は「朱子の目ざすもの」は「モラーリッシュな人格、当世風に言えば主体的自己の確立」にあったと言われるのだが、虚心(私意=個人としての情動と意思を棄てる)に、私欲を去る(単一の倫理・道徳的原則に同化する=自分一個の主体的な思考を放棄する)、即ち自我を滅却することで確立される主体的自己とは何の言いぞや。
 はるかな後世から振り返る、私の頭に真っ先に浮かぶところのこの点に関する朱子への感想は、「笑わせるな」というものだ。