書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

坂野潤治 『明治デモクラシー』

2005年06月10日 | 日本史
 事実に基づく、明治時代に“下から”の民主主義の動きや努力が存在したという主張。「上からの封建制の打破」「上からの工業化」「上からの立憲制」「上からのファシズム」「占領軍による上からの民主化」といった、「下からの民主化の努力を無視して、体制側だけの歴史をつなげて」、「日本近代史は『上からの改革』ずくめの歴史」だったとする日本近代史研究界の通説は、間違っているという結論である。
 労作である。だが「それがどうした当たり前だろう」などと不謹慎な感想を抱くのは、私が市井の門外漢である故か。
 「『上から』の史観は、事実に反している」というのは、確かにその通りだろう。しかし「日本近代史は『上からの改革』ずくめの歴史」だったという学界の通説なるものが、そもそも世間では到底通用しない非常識も極まるたわ言としか、私には思えないのである。何から何までお上がやったのであり下々はただ木偶のごとく何も考えず工夫もしなかったなどと、馬鹿も休み休み言えというのが、私の正直な感想である。
 おかしいと分かり切ったものをあらためて「おかしい」と言ってみたところで一体どれほどの意味があるのかと思うし、よしんばこれが「王様は裸だ」の勇気ある発言だとしても、外部の者にしてみれば裸なのは最初から分かり切ったことだから、やはり「それがどうした当たり前だろう」という感想しか浮かんでこないのである。

(岩波書店 2005年3月)