書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

テンジン/イリハム・マハムティ/ダシ・ドロノブ/林建良 『中国の狙いは民族絶滅』

2009年07月03日 | 政治
 副題「チベット・ウイグル・モンゴル・台湾、自由への戦い」。

 チベット、ウイグル、南モンゴル〔内モンゴル〕を支持してくれる日本人には、思想的にはいわゆる保守、右翼といわれる人が多いが、支持してくれるなら右も左も関係ない。ありがたいことだ。 (ダシ・ドロノブ「南モンゴル――併呑されたもう一つのモンゴル」 本書125頁)

 これで、本当にいいのかね。
 それに、この書のなかでは文化的な抹殺と、生物的な抹殺の区別が、いまひとつ明確にされていないように思える。
 表題の“民族絶滅”が文化的な抹殺という意味であるならまさにそのとおりだろう。中国は、たしかに、歴史的に見れば異民族を漢民族に同化する伝統もしくは政策を採りつづけてきているし、その過程で、激しい抵抗を示す相手に対して、虐殺を伴う強圧を加えることも事実である。
 しかし、同化(ちなみに漢民族はこれを古くは教化、文化などと呼んだ。新しくは融合と呼ぶ)によって、民族的なアイデンティティを失って消滅させられた民族は多々あるが、虐殺によって絶滅させられた例――普通“絶滅”といったら生物的な消滅=死を指すだろう――は、それほど多くないはずだ。モンゴルのジューンガル部は清の乾隆帝によってこの意味で絶滅させられたといわれるが。それに古くは五胡十六国時代の後趙(4世紀前半)に、支配者階級だった匈奴系の羯族が反乱を起こした民衆(もっとも当時中国の一般大衆を漢族と呼んでいいのか疑問だが)によってほぼ皆殺しにされた例もあるけれども。

(まどか出版 2009年3月)