もしもいま何か大異変が起こって、科学的知識が全部なくなってしまい、たった一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられないということになったら、最小の語数で最大の情報を与えるのはどんなことだろうか。私の考えでは、それは原子仮説(原子事実、その他、好きな名前でよんでよい)だろうと思う。すなわち、すべてのものはアトム――永久に動きまわっている小さな粒で、近い距離では互いに引き合うが、あまり近付くと互いに反撥する――からできている、というのである。これに少しの洞察と思考とを加えるならば、この文のなかに、我々の自然界に関して実に膨大な情報量が含まれていることがわかる。 (下巻最終章「原子論の最後の最後の勝利」、本書159-150頁。『ファインマン物理学 Ⅰ 力学』からの引用)
(仮説社 2004年4月)
(仮説社 2004年4月)