一八六〇年代清朝官僚の間で見られた対日観は、大体次のように整理してよいであろう。
①日本は新式の武器や艦船の購入・製造・使用、さらにこれらの技術獲得のための留学生の欧米派遣といった「自強」政策を推進しており、この結果、欧米列強の侵略に対し中国よりも有利に対処している。
②明代の倭寇の故事に鑑み、日本が「自強」政策を遂行して強国化すれば、中国にとって脅威となる。
③朝鮮に関しては、英米仏がキリスト教布教と通商にのみ関心を持つのに対し、日本は領土併合を企てるかもしれず、英米仏よりも危険である。 (「第一章 同治年間における清朝官僚の日本観 第二節 日清修好条規締結交渉時の日本論」 本書23頁)
李鴻章は、日本との条約〔日清修好条規。1871年9月締結〕交渉の準備を行うにあたって、日本が朝鮮を侵略する可能性のあることを考慮に入れていた。ただし、その際彼がこのような判断を持つ根拠となったのは、八戸〔順叔〕事件という日本の国策とは関係のない偶発事であり、また『明史記事本末』、頼山陽『日本政記』といった歴史書の記述であった。王政復古後の〔朝鮮との〕書契問題を契機とする日朝関係の紛糾や日本政府内部における対朝進出計画、また清国との条約締結方針が即時征韓を抑えるために急遽決定された事情などは、李鴻章をはじめとする当時の清朝官僚の考え及ばぬところであったといえる〔注〕。 (第一章 同治年間における清朝官僚の日本観 第二節 日清修好条規締結交渉時の日本論」 本書31頁)
注。明治維新後の日本との交渉(とその紛糾)について、著者は、朝鮮政府は清政府に全く通知していなかったとし、その根拠の一つとして『清季中日韓関係史料』に関係文書が一件も収録されていない事実を挙げている(本書30頁)。
(東京大学出版会 2000年12月)
①日本は新式の武器や艦船の購入・製造・使用、さらにこれらの技術獲得のための留学生の欧米派遣といった「自強」政策を推進しており、この結果、欧米列強の侵略に対し中国よりも有利に対処している。
②明代の倭寇の故事に鑑み、日本が「自強」政策を遂行して強国化すれば、中国にとって脅威となる。
③朝鮮に関しては、英米仏がキリスト教布教と通商にのみ関心を持つのに対し、日本は領土併合を企てるかもしれず、英米仏よりも危険である。 (「第一章 同治年間における清朝官僚の日本観 第二節 日清修好条規締結交渉時の日本論」 本書23頁)
李鴻章は、日本との条約〔日清修好条規。1871年9月締結〕交渉の準備を行うにあたって、日本が朝鮮を侵略する可能性のあることを考慮に入れていた。ただし、その際彼がこのような判断を持つ根拠となったのは、八戸〔順叔〕事件という日本の国策とは関係のない偶発事であり、また『明史記事本末』、頼山陽『日本政記』といった歴史書の記述であった。王政復古後の〔朝鮮との〕書契問題を契機とする日朝関係の紛糾や日本政府内部における対朝進出計画、また清国との条約締結方針が即時征韓を抑えるために急遽決定された事情などは、李鴻章をはじめとする当時の清朝官僚の考え及ばぬところであったといえる〔注〕。 (第一章 同治年間における清朝官僚の日本観 第二節 日清修好条規締結交渉時の日本論」 本書31頁)
注。明治維新後の日本との交渉(とその紛糾)について、著者は、朝鮮政府は清政府に全く通知していなかったとし、その根拠の一つとして『清季中日韓関係史料』に関係文書が一件も収録されていない事実を挙げている(本書30頁)。
(東京大学出版会 2000年12月)