書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

一又正雄編著 『山座円次郎伝 明治時代における大陸政策の実行者』

2009年04月20日 | 伝記
 山座圓次郎(1866-1914)は1901年から1908年にかけての約6年半、外務省政務局長の職にあった(最初は心得)。政務局長は大臣、次官の下、通商局長とならぶ地位であり、「通商以外の一切の外交案件の処理にあたる」(本書16頁)政務局長は、文字通りのナンバー3であった。
 その地位にあった山座が、玄洋社関係者としてかねてから抱懐する大陸政策を実現すべく、何の憚るところなく存分に腕をふるったのが日露戦争を挟むこの6年半の期間であると著者は言う。さらに著者によれば、日露戦争前後の日本外交、いわゆる「小村外交」もまた、実質は山座外交にほかならず、外相小村寿太郎は山座の立案する政策をただ追認しただけだった、といわんばかりの論調になっている(もっとも付録の座談会で、著者本人は、本書からほぼ同じ印象を受けた臼井勝美氏の問いに「それほど強く私は思っていません」《109頁》と、否定している)。だが、臼井氏が同時に著者の論の重要な柱のひとつとして指摘した、一般には小村の作(口述)とされる「日英協約ニ関スル意見書」が、山座の起草にかかるものであり小村はそれに添削の手を加えただけだという著者の判断について、その根拠を求める臼井氏の問いに対しなんらの直接的な証拠を提示できない以上、「小村自身には主体性がなく、より能動的に動いたのは山座ではなかったか」(3頁)という著者の「はしがき」における問題提起は、残念ながらその答えは「否」もしくは「不明」と言わざるを得ない。

(原書房 1974年10月)