書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

Elizabeth C. Economy "The River Runs Black" 

2005年05月19日 | 政治
 副題 "The Environmental Challenge to China's Future"。
 著者は中国の深刻な環境汚染・破壊の具体的諸要素を以下のように分類している。

1.森林伐採と湿地の破壊による洪水。
2.砂漠化。
3.需要の急増と水質汚染による水不足。
4.乱伐による森林資源の縮小、そしてその結果としての生態系の破壊、気候変動、砂漠化、土壌流失。
5.人口増加。 
            (Chapter Ⅰ, "The Death of the Huai River," pp. 9-10)

 本書は、鄭義『中国之毀滅』(明鏡出版社、ニューヨーク、2001年)の姉妹編もしくは英語版と言えるだろう。 
 両者を比較してみるとすれば、この書は環境保護担当の中国政府官僚や中国の自然保護団体メンバーへのインタビューを行っているという点において、『中国之毀滅』に勝ると言える(鄭義氏は反体制知識人として米国に亡命している身で、プリンストン大学の東アジア図書館所蔵の文献や新聞雑誌といった活字資料によるほか調査手段がなかった)。
 しかし深刻な中国の環境状態をもたらした原因の探究については鄭義氏が勝っている。エコノミー女史は、急激な経済成長、政府官僚の腐敗と非効率、中央政府の抽象的・画一的でときに首尾一貫しない地方政府への環境保全政策の指示などに中国の環境保護がうまくいかない原因を帰している。一方の鄭義氏は、中国では歴史的に私有制が存在せず、なかでも「自然は皆のもの」という考え方が、「共同責任は無責任」という態度として現れ、今日の中国における環境破壊の根本的な原因になっているのだと結論している。
 いわば“技術的”な要素に原因を求めるエコノミー女史の展望はその困難さを認めつつも解決は不可能ではないとしていわば明るく、文化という不変の(少なくとも一朝一夕には劇的な変化をきたすとは思えない)要素に原因を見る鄭義氏の見通しは、当然ながら暗い。

(Cornell Unversity Press, Ithaca & London, 2004)