書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

グレアム・グリーン著 田中西二郎訳 『グレアム・グリーン全集 17 コンゴ・ヴェトナム日記』 

2005年05月11日 | 文学
DVD-ROM 平凡社『世界大百科事典 第2版』より

グリーン
Graham Greene
1904‐91


“イギリスの小説家。オックスフォード大学時代は一時共産主義に共鳴したが,まもなく幻滅し,1926年カトリックに改宗した。初めはジャーナリストの道に進んだが,密輸団を逃げ出した男を主人公にして,一種スリラー仕立てながら,近代心理小説の手法も十分に活用して倫理的宗教的問題を提示した小説《内なる私》(1929)で認められた。この後《ここは戦場だ》(1934),《英国が私をつくった》(1935)のような本格的な小説や,もっとスリラー性の濃い,グリーン自身が〈娯楽物〉と名づける《スタンブール特急》(1932),《拳銃売ります》(1936),《密使》(1939),《恐怖省》(1943)などを次々と発表し,一種痛烈な文明批判を見せた。しかし彼が本格的にカトリック的主題と取り組み出したのは,すさまじい少年ギャングを描いた《ブライトン・ロック》(1938)からで,政治権力に対する信仰の超越性を示した《力と栄光》(1940),純粋な信仰のゆえにかえって破滅するカトリック信者の悲劇《事件の核心》(1948),情欲の苦悩の中から神の存在を発見する《情事の終り》(1951)などを次々と発表した。その後も旺盛な筆力を示し,50年代からは戯曲にも手を染めている。
 彼のカトリシズムは E. ウォーなどのカトリック作家同様,人間の悪の意識に強く結びついているが,ウォーと比べると,罪,信仰,慈悲といったテーマが,はっきりと描かれている。また,キャロル・リード監督《落ちた偶像》(1948),《第三の男》(1949),エドワード・ドミトリック監督《情事の終り》(1954)など,映画化された作品が多い。なおグリーンの主要作品はほとんど邦訳されている” (鈴木 建三)

 「インドシナ日記抄」と「ヴェトナム通信」を読む。期待はずれ。ベトナムとベトナム人に対する観察の犀利さもそうだが、それら眼前の事象を超えた大情況(いわゆる“ベトナム問題”)への執着において、開高健「ベトナム戦記」「サイゴンの十字架」の足許にも及ばない。

(早川書房 1982年7月)