くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「舟を編む」三浦しをん

2012-06-24 16:14:39 | 文芸・エンターテイメント
 はじめに、言葉があった。
 そんなことを考えさせられました。人は、言葉によって記憶し、分かち合う。誰かと思いを共有するのも、言葉があってこそ。
 本屋大賞に輝く前から気になっていたのですが、やっと読みました。三浦しをん「舟を編む」(光文社)。辞書の編集に賭ける人々を描いた作品と聞いてはいたのですが、いやはや、言葉への「こだわり」をもつ編集者たちの熱意がものすごい。ちょっと辞書をめくって紙質を確かめたくなりますね。「ぬめり感」か……。
 わたし自身が使った辞書は、高校時代は旺文社版、現在は三省堂版です。新明解が話題になったときも、「みんなで作る国語辞典」も関連資料を読んでいます。電子辞書も持っていますが、ほとんど使わない。あぁ、家には「辞海」もあったな。文中に出てくる「言海」ですが、小学校の遠足で大槻三賢人の胸像を見た覚えもあります。
 「大渡海」という辞書を企画した編集部が、十五年の歳月をかけて完成する物語です。
 スカウトされる馬締が、「大都会」を熱唱しようとする冒頭部がおかしくて、笑ってしまいますね。突然ベランダで恋に落ちるのもすごい。
 後に彼の配偶者となる香具矢さんが作るおつまみがおいしそう。白髪ねぎとザーサイとささみを和えて胡椒を振ったのを作ってみたい。
 なんといっても、装丁がいいですよね。紺色の表紙カバー、クリーム色の帯、花布は銀。帯をめくったらちゃんと波のデザインもあって、心にくい。カバーを外すとエピソードのイラストがいっぱい入っているし。図書館でカバーリングすると、見えなくなるのがもったいない。
 一冊の辞書をめぐる、制作者たちの思いがぎゅっと詰まったおもしろい本でした。
 松本先生が用例採集カードを書き続けるのが印象的です。この前、NHKニュースを見ていたら、日の出に感激したランナーが「やばい! やばい!」と連発していました。すかさずアナウンサーの方が「やばいというのは、最近の言葉で非常に感激したということです」と解説して、なんともいえない気持ちです。
 言葉が変化するのは、時代として仕方ないことではあるのですが、こういうのも辞書に載るんでしょうか。
 文中で西岡さんが、調べた人の気持ちを安心させるような説明がよいというようなことを言っていたことも、なんだかほんわかとして素敵です。