くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「つけびの村」高橋ユキ

2020-04-19 13:43:37 | 社会科学・教育
 図書館もさらっとしか滞在できない今日この頃。
 久しぶりにドキュメント読みました。高橋ユキ「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)。
 2013年7月、山口県周南市で起こった5人殺害、2軒の放火。
 犯人と目される男の家の窓には「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という貼り紙が。

 ……気になるでしょう?
 でも、なんていうか、著者の姿がちらちらしがちで「異物感」が拭いされませんでした。わたしだけ?
 実録って、著者の「目」を通して事件を切り取る訳です。
 取材の結果よりも過程を重視しているのか、村をうろうろする描写がやけに出てくる。住人から見たら、見慣れない感じじゃないかと。
 なにしろ、12人しかいない集落なんですよ。
 その中で5人亡くなり、1人が逮捕。事件後転居した人もいるから、かなり目立ちますよね。
 イメージとしては、再現ドラマに近いと思うんです。「主人公」が巻き込まれていくスタイルの。
 取材のために子どもの世話を旦那さんに頼む苛立ちのような不要な表現があったり。

 結論からいうと、この事件にはどんでん返しも意外な真相も、ありません。
 犯人の妄想に引っ張り回される感じ。(この妄想は相当変ですが)
 古老が語る「ことの真相」も拍子抜けですが、伝奇的な方向なら成立しなくもないか……。(ないか?)
 と思っていたら、あとがきで愕然!
 「古老」の語りは、複数人の話をまとめたもので、実際には存在しない人物の回想として統合したんだって。
 うーん、事件そのものより、この方の「切り取り方」に疑問を感じます。「私が」「私が」「売れたい」というもがきのようなものに。
 執筆のスタンスって、大事だなと思いました。なぜ、この事件を自分が書かなければならないのか、という熱が、伝わってこない。
 彼女の切迫感は、違うところにあるような気がします。