くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「珍獣図鑑」中川志郎

2014-01-21 01:53:09 | 自然科学

 ズーラシアの予習にと、本棚から引っ張り出してきました。中川志郎「珍獣図鑑」(新潮文庫)。
 昨年古本屋で二百円で購入した掘り出し物です!
 わたしは中川さんの文章が大好きなのですが、これは動物園のエピソードというよりも本当に「図鑑」なので、さらっと読むのもしにくく、たまに思い出してちょこちょこ目を通す感じでした。
 で、今回はホテルにあったズーラシアのパンフレットと相対して、載っている動物を優先して読んでみました。
 まず、オカピ。これは以前にも読んでいるのですが、中川さんから改めて「森の貴婦人」への印象を伝えられると、実際にものすごく優美に見えてくるのです。
 ズーラシアは希少動物の展示にも力を入れており、これまでそれほど気にせずにいた名前も目につきました。まずはターキンです。ギリシャ神話に黄金の羊伝説があるために、この動物はなかなかリアリティをもって受け入れられなかったようです。まあ、羊ではなく牛ですが。
 トラ、ラクダ(家畜として扱われるものは多いけれど、野生種はかなり減っているのだとか)、マレーバク、テングザル(冬場は展示中止でした)、カワウソ、ホッキョクグマ、メガネグマ……。
 そのほか、現在動物園で展示されている動物が、当時は育成を模索中な場合もありました。コアラはユーカリがないと生きられない。しかし、コアラを生かすためには結構な広さの林がないと。
 東京にその地域を確保して(農家に依頼だったかな)、コアラは実際にその後展示可能な動物園が増えましたよね。
 単行本が出たのは昭和五十一年です。三十年以上を経て、絶滅が心配された動物たちはどうなっているでしょう。
 本には標本しか残っていないフクロオオカミを、絶滅したかもしれないと書かれています。でも、それ以前に絶滅したと断言する資料もありました。
 何種類か検索してみると、レッドリストに入っているものもあれば、だいぶ状態が改善された例もあるようです。
 この本の表紙を見た同僚からは、
「ウーパールーパーとか? エリマキトカゲ?」
 と言われましたが、それ「獣」じゃないですから。
「コアラとかパンダとかですねー」
 と言ったら、「珍獣」というイメージではないのではと。
 確かに、現在ならそういうタイトルにはなりませんよね。「絶滅危惧動物図鑑」あたりですかね。
 新潮文庫で440円だったそうです。
 最後に、最近気に入っている動物園まんがを。山浦サク「けものみち」です。小さな動物園の新米飼育係晴子の奮闘ぶりがとてもおもしろい。今回は獣医になりたいと思う女の子と反対する母親の話がよかった。おすすめです。

「ボクの先生は動物たち」今泉忠明

2014-01-05 05:16:05 | 自然科学
 今泉吉典先生の本と一緒に借りてきたのです。「ボクの先生は動物たち」(ハッピーオウル社)。息子の忠明さんが書かれた本です。お兄さんも動物学者なんですって。
 忠明さんは、「家の近くに住む動物博士」の「泉先生」に影響を受け、まず幼い頃はコウモリを育てるために蓑虫を探しまわります。運転免許を取ってたり、やがて依頼を受けて現地調査に行ったり。
 はじめからどうもおかしいと思ったんですが。国立科学博物館にお勤めだというし、お父さんの話題が出てこない。
 西表島を訪れる場面になったら、なんとイリオモテヤマネコを「泉先生が1967年に新属新種のヤマネコとして発表」というじゃありませんか。こ、これはご本人に間違いない。
 あとがきで、自分の父親を先生とする人は多くないだろうからとぼかして書いたといっています。これが毎日小学生新聞に連載していたときに、正体に気づいて手紙をくれた編集者もいたのだとか。
 さて、忠明さんはアメリカに野生動物を見に行き、あのイエローストーン国立公園にも足を運んだそうです。生態系を保つためのオオカミの移植、火事でないと発芽しない植物など、「世界遺産」のDVDに紹介されていたことも書かれていました。
 あ、カワウソを最後に目撃した記録も忠明さんなんですね。
お父さんとの区別のために名前で書きましたが、今泉忠明さんはわたしの父と同年代。そう考えてみると、世代的な環境もイメージできるように思います。
 今日は動物園に行ってきますね!

「知りたかった動物の名前」高橋健

2014-01-04 05:21:04 | 自然科学
 出来事カレンダーを作っているうちに、1965年にイリオモテヤマネコが発見された経緯が気になってきました。作家の戸川幸夫さんが国立科学博物館に標本を持ち込んだことから、新種として認定されたそうです。
 関連項目の本を紹介するのに、「高安犬物語」かな、と思いながら図書館にいったら、この本があったのです。
 「知りたかった動物の名前 今泉吉典先生とイリオモテヤマネコ」(ポプラ社)。今泉吉典先生はイリオモテヤマネコの鑑定をされた方です。今泉忠明先生のお父さんなんですって。宮城県出身。
 大正三年生まれとのことで、わたしの祖父(大正五年生まれ)と同年代。非常に動物に興味があったけれど、図鑑などもそうそうなく、当時の最先端北隆館の「動物図鑑」を大切に読んでいたそうです。
 写真がありますが、雰囲気としては国語辞典ですね。二段に分かれていて、上に動物のカット、下に説明文。「たぬき、きつね」「てうせんとら、おほやまねこ」の見開きが紹介されています。どういう順に掲載されているのかちょっとわからないんですが、前者は「犬科」後者は「猫科」なので、科別ですかね。あんまり古いためか間のページが一枚抜けています。
 今泉先生は、イリオモテヤマネコの頭骨や毛皮から、どうもこれまで認識されていなかった古い種類の動物だと判定しますか、ネコ属の研究者ライハウゼン博士は、これはベンガルヤマネコの亜種であろうとし、二人は長らく論戦をします。
 一方、土地開発によってすみかを失ってしまうのではないかとされるイリオモテヤマネコの保護と研究では協力関係も結び、撮影を工夫したり記号給餌の仕方を考えたりします。
 動物学のあけぼのの時代、どのように種を分けるのか、生態を観察するにはどうすればいいのか、そういうことに悪戦苦闘する方々の様子が感じられました。
 当時から自然環境の問題はあったのですね。ヤマネコの生態系を守るために、西表島を無人島に戻した方がいいのではないかというライハウゼン博士の主張などもあったようです。
 この十年でさらに野生動物には住みにくい環境になったと思います。絶滅にも拍車がかかりつつある現代、わたしたちには何ができるのでしょうか。

「病魔という悪の物語」金森修

2013-12-30 06:29:06 | 自然科学
 「チフスのメアリー」
 これが、この本の副題です。「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」(ちくまプリマー新書)。
 聞いたことはありませんか? チフスが流行した時期に、ある家政婦がキャリアとして病原菌を運んでしまった、と。本人には自覚がなく、自分がチフスを撒き散らしているとは思っていない。そんなメアリーの人生を、金森修さんが紹介しています。
 昨年、プリマー新書を重点的に図書室に入れたいと思って調べたときにも気になっていたのですが、なにしろ予算の都合もあって買うにはいたりませんでした。
 本人はいたって元気なのに、周囲は病に倒れる。当局によって逮捕されたメアリーは、ある島に隔離。恋人や弁護士の協力を得て裁判を起こしますが、期待したような結果にはなりませんでした。
 メアリーは優秀な料理人だったようですが、一時釈放されたあとは調理の仕事をしないように誓約書を書かされます。
 ただ、結局は偽名を名乗って同様の仕事を続けていたそうです。再び島に戻ることになったメアリーは、残る生涯をそこで過ごします。その時期には恋人も弁護士も亡くなっていたのだそうですが、彼女と同じような「キャリア」がほかにも存在することが知られつつあるのに、いわばスケープゴートのように隔絶された人生を送ることになるメアリー。
 友人もおり、島の病院に職を得るなど、よい面もあったようですが、なんとも釈然としないようなやりきれない感じがします。
 誰かに病をうつしてしまう。自分には過失がないと思っていても、やはりつらいことです。病の代名詞のように呼ばれることも。
 ところで、メアリーのサンプルを取りにくる衛生官はジョセフィン・ベーカーというんです。ちょっとびっくり。
 

「プラントハンター」西畠清順

2013-12-14 19:03:08 | 自然科学
 このインパクトのある表紙カバー! 骨ばったしいたけのような巨木が、青空に向かってそびえています。傍に佇む男の人がいるので大きさのイメージがつきますし、それにしても荒れた大地でずいぶん岩がごつごつしてるなとか、そんなことが一気に流れ込んでくる。
 乾燥しいたけのようなこの木は、ソコトラ島の竜血樹(ドラゴン・ブラッド・ツリー)、男性は著者の西畠清順さんです。西畠さんは兵庫県で「花宇」という植物卸問屋の五代目として活躍されているそうで、季節に先駆けて咲く桜を百貨店に展示したり、百万個のソテツの種を海外に輸出したり、樹齢千年を超えるオリーブをヨーロッパから搬入したりと、我々一般人には想像もつかないようなお仕事をしている。
 わたしも植物は好きで、食卓にのぼったアボカドや百円ショップのシルクジャスミンを育ててはいますが、あまり流通する植物について考えたことはなかったように思います。講演会や入学式に飾る花だって市場から入荷するんですよね。非常にわくわくしました。
 「プラントハンター」(徳間書店)です。サブタイトル「命を懸けて花を追う」。大袈裟じゃなく、富士山にカラマツを切りに行って遭難しかけたり。口絵でも断崖絶壁をにじり歩く写真が載っていましたが、こんなところ行きたくない、と呟きたくなるような場所です。(叫んだら、落下しそう)
 竜血樹の島では、持ち込まれたヤギが食べてしまったために若い植物が育たず、絶滅寸前のものもあるそう。また、バオバブの木があるマダガスカルには、人々の生活のために植えられたサイザルやウチワサボテンが繁殖し、自然の生態系を変えつつある。
 様々な植物が、その特長に合わせて繁茂してきた地球。自然は次第に失われていくのでしょうか。
 新種の植物の発見や、表舞台には出ずに支えてくれる人の存在も、読み応えがある一冊でした。

「動物園の疑問50」加藤由子

2013-11-18 05:37:13 | 自然科学
 「みんなが知りたい 動物園の疑問50」(サイエンスアイ新書)。「ペンギンの行進はどうやって教えるのか? レッサーパンダはなぜ2本足で立てるのか?」というあおりがついております。
 借りてきて真っ先に読みはじめたのですが、つい他の本を読んでいるうちにラスト数ページ忘れていました。
 わたしは動物園ものが好きなので、どれもこれも興味深いのです。大型動物はどうやって運ぶのか。これは輸送箱に慣れさせるところから始めるのだそうです。
 絶滅についての考え方も、飼育動物の血統登録をするということを知り、納得です。
 あと、「動物園」とネーミングしたのは福沢諭吉なんだとか。
 動物の生態って、はっきりしないこともありますよね。この本では、例えば双眼鏡を持っていくことをおすすめしています。ダチョウを観察して「瞬膜」を見るのもいいとのこと。動物はまばたきをこの瞬膜によって行うのだそうです。
 飛べる羽根とそうでないものを比べるのもおもしろそう。
 ペンギンの羽根も、よく観察すると落ちているらしいですよ。
 今度動物園にいくときに備えて、双眼鏡を購入すべきでしょうか。 

「さらば脳ブーム」川島隆太

2013-11-11 05:36:59 | 自然科学
 そろそろ授業も「脳の働きを目で見てみよう」に入ります。遅いかな?
 で、川島教授の本を読もうと思ったんですが、どれもこれも十年近く前のもので、読んだこともあるようなものだったんです。
 わたし、研修で川島教授のお話を伺ったことがあって、それがすごくおもしろかったんですよ。帰ってからイラスト入りでまとめてしまったくらいです。
 だから、この本もちょっと期待したんですが、教授の話を盛り上げようとするサービス精神がうまく起動していないように思います。
 「さらば脳ブーム」(新潮新書)。脳ブームの中心ともいえる方の著作であることからも、違和感のある書名ですね。こうやってみると、話すのであればちょっとした「くすぐり」のような部分が、書くことで他と同じような比重に感じさせてしまうような。借りる前にいくらかレビューを見たのですが、養老孟司と立花隆のエピソードに触れているものが多かったため、てっきりこちらがメインなのかと思ってました。たった二ページなんですね。この構図は、留学中に会うことができた江崎・利根川の両ノーベル賞教授の対応と同じだと思うんです。茂木健一郎についても同じ。
 この本の骨子は、脳機能イメージの研究をしているうちに「学習療法」を発見し、前頭前野にあるワーキングメモリーを高めることで脳が活性化することを突き止めた。しかし、学術界ではあれこれと難癖をつけてくる。自分にとっては自明のことでも、データとか言葉の表層的な部分での批判がある。脳ブームの立役者のように思われているが、産学連携の一環でもある、という感じでしょうか。難しいところは飛ばし読みしたし、川島教授も曖昧に書いているところがあるので、断言はできませんが。
 ただ、脳の活性化をテーマにしているうちに、クレペリン検査、単純計算、音読、楽器、料理、手芸と多岐に広がっていった経緯はよくわかります。
 学術論文よりも、もっとわかりやすいストレートな表現で伝えようという思いもあったといいます。(お手本は小泉純一郎だそうな)
 わたしが中学生のころ、二十歳すぎると脳の細胞が毎日ハエ一匹分ずつ減っていくんだと教えられたんですけど、現在はどういう研究になっているのでしょうね。
 そういえば、暗記は「子ども」だからできると書かれた資料も見ました。うちの娘は教科書の物語をまるっと覚えて語るのですが、それも今の時期限定なんでしょうか。うーん、わたしも暗記は得意でしたが、現在は歌詞もうろ覚え。中学生くらいまでに覚えたことは今でも暗記できますけどね。

「オオカミ」ブライデンバーグ

2013-08-31 21:36:05 | 自然科学
 やっと運動会が終わりました。台風直撃するかも、と事前にはたいへん怯えたのですが、幸いにも終日降ることはなく、無事に終了いたしました。でも、代休あけには指導案の提出が待っているのです……。忙しいですね……。今週は駅伝大会もあり、ずっとばたばたしていました。
 だから、どちらかといえば写真絵本みたいな本なんですけど、じっくり時間をかけて読みましたよ。「動物大せっきん オオカミ」(ほるぷ出版)。筆者はジム・ブライデンバーグとジュディ・ブライデンバーグ。小宮輝之さんの監修です。
 「オオカミを見る目」を学習するときに読むといいだろうなー。童話が与える印象とか絶滅に至る経緯とか共通していますので。写真もたくさんあるし、群れの生活とか今後の課題とか参考になります。図書費で買おうかな。
 ここで紹介されているのは、主にブライデンバーグ夫妻の家近くで活動する群れのことです。三十年に渡って関わってきたために、相手も撮影に慣れてきたようなんですって。オオカミは敏感な動物だから、人間の気配に気づくと姿を隠してしまうそう。
 アメリカでは入植前、かなり広い範囲でオオカミの生息が知られていたのに、1973年ごろにはミネソタ州とロイヤル島の一部にしかいなくなってしまった。
 わたしはこの教材のラストで、動物たちがメインの世界遺産を取り上げたDVDを見せるのですが、そこでイエローストーン国立公園でオオカミを繁殖させる話を紹介しています。この本でも同じサイドから取り上げられていて、オオカミという種を考えるには適切な一冊といえるのではないでしょうか。
 その後、どんなアプローチでオオカミのことを考えるといいか、なんてことも加えられていますよ。わたしとしては、「ネバー・クライ・ウルフ」という映画が気になる。
 アメリカではオオカミは増えつつあり、絶滅危惧種から外れたものの、今でも保護に反対する人がいるそうです。
 自然のバランスを考えながら、保護していくのが良いのでしょう。
 実は千葉徳爾「オオカミはなぜ消えたか」(新人物往来社)も借りたのですが、忙しくて
読んでいません。うーん、夏休み前に授業が終わったからでしょうか。目先のことを優先してしまいがちなわたしです。
 とりあえずスピーチを題材に、指導案を書くつもりですが……。書けるのかな……。
 

「ぼくが宇宙人をさがす理由」鳴沢真也

2013-06-18 21:40:53 | 自然科学
 なんと、著者は石巻の女子高で教鞭をとっていたそうです。経歴をみると、どうもわたしと同期採用らしい……。でも、校種も地域も違うので面識はありません。職員録を調べたら、夫と同僚だった方と一緒に仕事をしています。
 現在その学校(共学になり、校名変更していますが)に勤める知人に聞いてみたけど、この本のことが話題になってはいないようで、ちょっと残念。
 鳴沢真也「ぼくが宇宙人をさがす理由」(旬報社)。読書感想文課題図書です。かつて感想画コンクールの課題にもなった「望遠鏡でさがす宇宙人」の著者でもありますね。
 今回は地球外生命体をさがすアプローチとしてのSETI(セチ・地球外知的生命探査)の活動をメインに書いてくださっていますが、少年時代に不登校を経験し、高校へは進学しなかったことも書かれています。
 でも、子どものころから憧れていた宇宙。福島大学に最先端の観測システムが導入と聞いて一念発起する姿に感銘を受けました。
 わたし自身は中学から高校にかけては無欠席でしたが、決して順調な生活ではなかった。やはり、思春期は息苦しいと思うのです。現在も「学校」の中にいて、居心地の悪さのようなものをちくりちくりと感じることはあります。
 理想と現実のギャップ、完璧であることにこだわってしまう自分。そんな生活が苦しかったと鳴沢さんは振り返ります。
 でも、「ドロシー計画」と名づけられたSETIの活動で、鳴沢さんは総合本部として世界中の天文台をリードします。すごいねぇ。
 子どものころの夢って、持ち続けるのは難しいですよね。幼稚園のころから繰り返し読んだ絵本のことも取り上げられていますが、自分だったら覚えているでしょうか。キンダーブックからの引用もありますが、よく記憶に残っているなと感心します。
 ところでSETIの観察は何か反応があるのか。これについては、「ときどきあやしい信号」が受信されるそうですよ。びっくりして紙に「Wow!」と書いた人もいたとか。
 生命体をさがす活動は、鳴沢さんにとって結構哲学的なものということも感じます。
 わたしは地学選択していないのですが、いろいろ懐かしいように思います。

「イマドキの野生動物」宮崎学

2013-02-27 05:16:20 | 自然科学
 里に降りて農作物を貪る猪、民家にまで侵入してくる熊、増えすぎる鹿……。様々な野生動物が、今、人間社会で問題になっています。古来から彼らと共存してきたはずなのですが、いつの間にか近代化したらしい動物たちは罠を見破り、火すらも恐れないのだそうです。外来種が野生化して繁殖したり、保護していたはずのカモシカが増えすぎていたり、日本中がこんな「イマドキの野生動物」に困惑している。
 この本は、写真家の宮崎学さんが日本各地で捉えた動物たちの生態をまとめた写真ルポです。「人間なんて怖くない イマドキの野生動物」(農文協)。書店で農業関連の本を特集していた中にあったんですよね。2400円と高額のため、躊躇しつつも買いました。
 これが読めば読むほど、改訂した東京書籍の国語教科書三年生用につながっていくような一冊なんです。絶滅の問題、テクノロジーと文明社会の中で人間らしいというのはどういうことか、文章と写真による説明なので抽象的にも具体的にも読み取れます。
 宮崎さんによれば、動物被害に悩んでいるといいつつ、人間は無意識な「餌づけ」をしていると言わざるをえない。流通に乗らず大量に捨てられる果物や田んぼの二番穂が野生動物にはご馳走になり、都会では公園の樹木を目当てに鳥が集まる。
 最近の動物は高速道路の脇や夜でも明るい街灯に慣らされて、かつてのように文明を恐れる様子が見られなくなっているとのこと。帯に「大胆不敵、傍若無人…」とありますが、本当にそんな感じですよね。田舎育ちのわたしでも、近隣に熊出没のニュースが増えたと思います。友人は家の前の堀で水を飲む姿を見たと言い、同僚は庭先のトウモロコシを食い荒らされて、土に座ったあとが残っていたと話していました。
 宮崎さんは無人カメラを設置して、人気がないときの様子を撮影します。樹木が伐採された山ではノウサギが増え、雪の上には雑多な足跡が残る。果物を大量に廃棄した場所では、猪、狐、カラス、ヒヨドリ。お墓に供えた梨を取っていく猿。熊棚を見つけて、思った以上に生息数が多いのではないかと考えます。
 この本、レシートには「ビジネス書」と記載されていました。警鐘を鳴らすだけではなく、実際に動物たちに立ち向かうためのヒントもあります。
 しかし、わたしたちは野生動物と対峙するスキルを持っているといえるのでしょうか。文明のなかで生きる者として暮らしながら、その中に入り込んできたものを駆除できるとは言えない。
 疥癬の被害に危機感を覚えるという項もありました。かつて、母が毛の抜けたタヌキを見て「クロヒョウがうちの縁の下にいる!」と騒いだことがあったのですが(とほほ……)、すぐ近くまでそんな問題は迫っていると言っていいのでしょう。何かできることがあるのか、まずは生態数を把握することから始めようと宮崎さんは言います。実際自分が動けるかと聞かれると不安なんですが、ちょっと視点を変えて見るきっかけを作ること、大切だと思いました。