くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「震災後の不思議な話」

2018-03-31 18:50:19 | 社会科学・教育
 書店で面陳してありました。ずっと気になっていたので、読めてよかった。宇田川敬介「震災後の不思議な話」(飛鳥新社)。
 三陸でいつの間に話されるようになった怪談や、実際に見たという人に聞いた奇妙なエピソード。自分が死んだ自覚のないらしい悲しい話が集められています。
 著者は以前マイカルにお勤めだったそうで、出張で東北に来たときに知りあった方々から聞いた話が多かった。 
 これは釜石だろうとか、気仙沼だろうなと思う場所も、なんかぼかして書いてあるのは、自分の住む町に怪異があると伝えられるのは嫌だからという人に配慮したからだそうです。
 母親が、死んでからもなお子どものことを心配している話が印象的でした。
 瓦礫の下にある車に取り残された子どものことを探している姿が、幾度も目撃されたのだそうです。余りにも一瞬で死んだ自覚がないらしいながらも、一心に探し続ける姿は、怖さを感じさせるものではなかったといいます。
 以前テレビドラマで、自分が拷問を受けても仲間が殺されても、決して口を割らなかった女性刑事が、娘が狙われると我慢ならなかったという場面を見たことがあります。
 わかる、と思いました。
 子どもには、未来を生きてもらいたい。
 もう、それが叶わなくても、探さざるをえない逼迫しものが、概念としてあるのです。
 わたしたちはあの震災で、多くを失いました。
 失ってしまったものには、取り戻せないものもあります。
 どこかで、誰かの耳に伝わる悲しい怪異、本来ならば広範囲には広まらないはずの物語が、こうやって読まれていくことは、やはり大切だと思いました。

「息子が人を殺しました」阿部恭子

2018-01-17 22:23:20 | 社会科学・教育
 先日、この本の出版が新聞に載っていました。加害者家族支援のNPO法人代表阿部恭子さんの「息子が人を殺しました 加害者家族の真実」(幻冬舎新書)。
 以前鈴木伸元「加害者家族」を読んだときに、阿部さんの活動を知ったので、今回も興味深く読みました。
 詐欺、窃盗、殺人など、報道される事件は様々ですが、「犯人」が隔絶される一方、家族たちは逃げ場もなく社会と関わり続けるしかありません。
 地域や見知らぬ人からの中傷。どうしたらよいのか? 相手への謝罪は?
 事件の渦中に否応もなく放り込まれて、どうにもできなくなる人も少なくないはずです。 
 親が犯した罪に自分は関係ないと思う子どもに、世間の目は冷たい。たくさん事例が紹介されていましたが、中でも気になったのは、お嬢さまから転落した子のエピソード。
 カナダ短期留学中に父親が詐欺で逮捕され、母親の実家に引っ越して近隣の定時制高校に転校するように言われた彼女は、3月までの授業料が支払い済みであることからバスで一時間半かけて通学することに。
 しかし、学校からは転校手続きをするように話され、部活では一緒に活動したくないと言われます。カナダのお土産は拒否されて、ネットに誹謗中傷が記載されます。唯一親身になってくれた友人に八つ当たりしてしまったことから、ついに転校を決意。
 新しい学校では居場所が見つかったのが、せめてもの救いですね。
 
 先日読んだ押川さんの本でも、家庭での過ごし方が影響していると書かれていました。阿部さんは「人に迷惑をかけるな」と言われて育った子どもが加害者になるケースも紹介しています。
 加害者家族、自分を追い詰めてしまう人も多いのですね。なんとも、心苦しい感じがしました。

「子供部屋に入れない親たち」 押川剛

2018-01-15 05:42:13 | 社会科学・教育
 タイトルがどぎつくて買うのに抵抗があると感じたまんが、「『子供を殺してください』という親たち」について、その後テレビでルポを放映していたのです。
 まんが原作の押川剛氏が登場し、精神障害者移送サービスの現状を話していました。
 そのまんがの脇に置いてあったのが、新潮文庫版の「『子供を(略)』」です。
 押川さんが実際に行った移送を紹介しながら、精神障害者・パーソナリティ障害・グレーゾーンと呼ばれる事例とその家族の問題をあげていきます。
 就職したものの、次第に行けなくなって引きこもる男。交際相手への執拗な執着。母親を支配して家にゴミを溜め込んでいく女。
繰り返される家庭内暴力。意味不明の落書き。退院を恐れる兄弟。
 究極の子育ての失敗とまで言われるのは、彼らの精神を大きく揺さぶるのが家庭由来の要因だからでしょう。

 興味深かったので、「子供部屋に入れない親たち」(幻冬舎)を借りてきました。
 こちらの方がソフトな感じはします。タイトルもどぎつくない(笑)。
 押川さんがこの仕事をはじめたきっかけや、ノウハウを身につけるためにしばらくボランティアとして活動したことなども描かれています。
 こういう本の肝になるのは、実例紹介だと思います。
 おそらく二冊とも取り上げられるのは違う事例かとおもうのですが、驚くくらい共通したイメージがありました。
 暴力。親への反発。エリートからの挫折。異性への過剰な執着。片づかない部屋。 
 この本では、バスジャック事件のニュースを見て、自分ならナイフを取り上げるのに、と考える場面が出てきます。
 そして、凶器は性的な意味を表している、と。
 実際、少年は男性たちをバスから降ろし、自分のまわりに女性を集めたというエピソードも紹介されています。
 家庭生活の歪みは、押川さん自身も自分と同年代の人々から顕著になってきたように感じたというようなことが描かれていました。
 また、不満のない環境で壁にぶつかったとき、どのように回避するかを学ばないまま大人になってしまうと、そこからどうしたらよいのかが分からなくなる。
 打たれ弱いということですかね。
 守られすぎる、というのも、つらいものだと思います。
 最近思うのですが、人付き合いは「自分とどう付き合うか」ではないかと。うまくいかないことも多いけれど、切り換えるとか受け流すとか、方法はあると思うのです。
 この親たちが、子供部屋に入れなくなるのは、いつからなのでしょう。
 大人になっても「子供部屋」みたいな感じですよね。

「よく考えて! 説明のトリック」

2017-11-08 20:53:53 | 社会科学・教育
 図書室に入れた本。「よく考えて! 説明のトリック 情報・ニセ科学」(岩崎書店)。
 「ウソ? ホント? トリックを見やぶれ」というシリーズの三冊めです。一冊めは錯覚、二冊めはミステリなどのお話トリック。どの本もおもしろいのです。
 説明トリックとしてあげられているのは、ニセ科学・ことばトリック・情報リテラシーです。
 このところニセ科学をしつこく読んでいる気がしますが、取り上げられる例はだいたい同じなのに、飽きずに借りてきてしまう。
 今回はマイナスイオン、血液型占い、納豆ダイエット、水はことばで変化する、ゲーム脳。
 さらに、「火星人来襲」、伝言ゲーム、詐欺師の手口、新聞、グラフによる情報操作、アンケート、SNS、インターネット、アポロ計画などなど。
 中には川島隆太の脳トレの話題もありました。「脳の活性化」イコール「脳のはたらきがよくなった」とは言えないそうです。この前まで国語の教科書にも載っていたのに……。
 そういえば、川島隆太本人も「脳科学者を名乗るある人」を糾弾していましたが、立ち位置が違うのですかね?
 
 今回はトリックアート、だし、絶滅危惧種、日本の伝統文化、地理データ関係の本を中心に入れました。
 もう予算の残りがちょっとしかないんです。ああ、もっと入れたい本があるのに!
 とりあえず登録頑張りました。テスト問題作らないとならないのに、逃避でしょうか。

「もっと変な論文」サンキュータツオ

2017-10-25 05:51:59 | 社会科学・教育
 世の中様々な論文が書かれています。
 学者でもあるサンキュータツオ氏が、おもしろい論文を掘り起こした「もっと変な論文」(角川書店)。
 中でもおもしろかったのは、「坊っちゃん」は東京から松山までどうやって来たのか。船が好きでたまらない在野の研究者が、年表を詳細に検討し、従来考えられてきた経路とは違う説をあげるのです。
 また、「竹取物語」の翁の年齢問題、競艇場に通う女性たち、「メロス」の走るスピード(これは知っていました)など、様々な論文をサンキュータツオが掘り起こして、いろいろツッコミつつコメントしています。
 一冊めも読みたい。

 わたしは論文というと松崎有理「代書屋ミクラ」を思い出すのですが、近日論文小説作品集を上梓されると聞き楽しみです。

 あ、カラスヤサトシ「日本文学紀行」(講談社)がマニアックでおもしろい。ザビエルについてとか……。
 わたしはこの時期の近代文学にさほど詳しくないため、新しい観点が新鮮です。

「聞くトレ」上嶋惠

2017-10-11 05:55:53 | 社会科学・教育
 聞くことが苦手な子が増えているように感じます。
 ちょっと勉強しようと思って借りてきたのが、子どもの教育研究所所長の上嶋惠さんの「子どもの『集中力』を育てる 聞くトレ」(学研)。
 中でも面白そうなのが、「線つなぎ」! 
 点がいくつかある紙を配って指示していきます。下方に日付と名前。
 スタートやストップの合図をしっかりつかませるためのトレーニングだそうです。
 まず、紙の真ん中にあると思う点の脇に1。その点から見て一番下にあると思う点に2。一番上にある点に3。左にいって4。一番右が5。6は好きなところ。そこから離れた上に7。下の方に8。好きなところに9。斜めに10。
 1から順番に直線でつなぎます。(終わったら「できました」と言ってタイム記入)
 20までや、逆順につないだり、途中で色を変える指示をするバージョンアップがあるそうです。
 サブタイトル「聞く・見る力を改善する特別支援教育」とあるのですが、トレーニング不足で聞いていない子の力をつけるにはやってみるべきだと思います。
 
 数唱を升目ノートに書いていく。三字や四字の単語を書く。始めの字や最後の字が同じ単語を増やす。しりとりを書いていく。絵を透かして写し取るなど、具体的な手法が参考になります。
 
 トレーニングを学力アップにつなげる、ということが書いてありましたが、確かに自分にはできないとか関係がないと思ったままでは、学習に向き合えませんよね。
 わたしは話を聞くのが割と好きな方だと思うのですが、苦手な分野はスルーしがちかも。
 苦手意識を増やさないように、徐々にステップアップする方向でやってみようと思います!
 上嶋先生は、初めは床に寝させて自分の体をコントロールすることから始めさせるそうです。さすがに中学生を床に寝させられませんが……。でも、自分がいつの間にか動いてしまうという自覚を持たせるのは大切だと思いました。

「くらべる東西」

2017-10-10 19:11:14 | 社会科学・教育
 あんまり小説が読みたい気分じゃない今日この頃。まんがばかり読んでいました。「そばもん」とか……。
 図書館に行っても、なかなか心惹かれるものがなく、社会科学の棚をうろうろしていたらこの本があって、これは読みたい! と強烈な引力を感じた一冊です。
 おかべたかし(文)・山出高士(写真)「くらべる東西」(東京書籍)。
 「本書は『いなり寿司』や『銭湯』など34組の『東(主に関東)と西(主に関西)の文化・風俗の違い』を解説した本です」
 この紹介文がわかりやすいでしょ。
 四ページでセットになっていて、まず見開きで左に東の品、右に西の品がどーんと写真で、次ページはその解説と取り上げた場所(例えばお菓子なら、撮影されたお店の紹介)。

 扇子も、東と西では違いがあるのです。京扇は骨が三十五本もあり(この本の写真では四十五本のものが使われています!)、江戸扇は十五本!
 金封は、東では「たとう折り」、西では「風呂敷折り」を使うのです。さらに、西では法事に黄色の水引を用いる場合もあるんですって。
 わたしは関西には修学旅行と友人のアパートしか行ったことがないので、カルチャーショックでした。
 うわー、こんなに違うんだ! コマの軸(東は木、西は鉄。紐の巻き方も違います)、座布団の閉じ糸(東は×、西はY)、七味唐辛子(西は山椒多め)、消防紋章(中心円の大きさ! ちなみにモチーフは雪の結晶とか)、タマゴサンド(西はホットサンドで卵焼き)……。
 ただ、卵焼き器は関西のものが全国的に流通しているようです。関東のは四角いんですって。
 日本の文化は様々で、普段当たり前だと思っているものも場所が変われば違うものになるのですね。
 線香花火、わたしにとっては東のものが当たり前でしたが、言われてみれば花火セットに西のものも入っていますよね。線香花火と同じような火が出るとは思っていたけど、違うものだとばかり思っていました。
 

「そろそろ、部活のこれからを話しませんか」

2017-08-24 05:29:18 | 社会科学・教育
 あーっ、そうですそうです、ぜひ話し合いたいですっ、と勢い込んで答えたくなるこの書名。
 「そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義」(大月書店)。著者は、早稲田スポーツ科学科准教授の中澤敦史さんです。
 学校で部活をするシステムは、日本と他数国だそうです。
 いろいろ弊害はありますが、中澤さんの主張は、活動する子どもの命は守らなくてはならない、指導する教師の生活を守らなくてはならない、がメインです。
 体罰とか部員内のトラブル、無計画な練習ではいつ事故が起きるかわからない。これまても部活中の事故のニュースは報道されてきました。
 また、教師の日常も部活に左右されがちです。
 わたしの知人は、六時に朝練を始め、正規の部活終了後(それでも勤務時間は間違いなくオーバーしています)に夜練。超過勤務時間は二百五十時間を超えると言っていました。
 百五十時間でひーひー言っていたわたしは比べものになりませんが、そんなことやってたら身体壊しちゃうでしょ! と思うのです。
 中学校では、週に二日程度は休息日を設けるようにと言われているんです。土日どちらかともう一日。でも、スポーツ少年団扱いで活動している部はあるし、保護者が生徒自身より燃えていて、キャパシティ以上を求めることもよくあります。

 中学校と高校の部活所属人数比較もありました。中学校上位は、ソフトテニスとバスケット、サッカー。高校はサッカー、野球、バスケットの順。
 ソフトテニスは高校では八位で、硬式テニスに転向する子がいるからだろうということでした。
 ただ、ある大会で県の理事さんたちも、高校ではテニスをやめてしまう子が多いと嘆いていました。
 全国大会出場校は、例えばバレーボールだと年間一千セットをこなすくらいの猛練習をしています。
 わたしも、全国大会を目指すチームの学校に勤めたことがありますが、土日はほとんど遠征、平日の帰宅は十時半、なんてのがざらです。
 指導者は、半年間の研修に出ていても土日は指導にくるし、地域の協会の役員のため、退職後も試合会場にいます。
 でも、それは仕事以上に「趣味」として好きでなければできないだろうな、と言っていました。
 わたしはスポーツ苦手なので、あまり部活に積極的ではない方でした。文化部だった高校・大学は、活動するのがとても楽しかった。
 中澤さんは、活動を楽しむ「練習」をすること、そのためには「決める」「交わる」「ふり返る」の練習が必要だと語っています。
 やらされている、のではなく、どうすれば楽しむことができるのか。それをデザインしていくことが大切なんですね。
 コラムには、部活に関するまんがや小説の話題、中澤さん自身が親しんできた部活についての話題もあり、興味深く読みました。
 でも結局、部活は学校生活からは切っても切れないものなんだなー、とも思います。生徒たちの活躍は、応援のしがいがありますからね。わたしも地道に頑張ります。

「ある日うっかりPTA 」杉江松恋

2017-08-22 04:30:44 | 社会科学・教育
 杉江さん? 杉江さんって、「本の雑誌」に書いてる杉江さん?
 杉江さんの書評、おもしろいんですよ。だけど、海外ミステリの本だとわたしは知識不足で読めないと諦めたことがあります。
 今回は学校が舞台。
 しかもタイトルは、「ある日うっかりPTA」(角川書店)。
 予想以上に楽しめました!

 わたしも現在、中学生の親として校外指導部の委員長(ローテーションで当て役)をしており、小学校時代は学年委員長、学年役員三回、広報委員、環境委員、福祉委員、子ども会地区長と一通り引き受けました。
 杉江さんは、最初から会長として参加し、三年間仕事を全うされて無事卒業。そのときのことを振り返った一冊です。
 すごいアクティブ!
 PTAの予算とか、校庭開放の報酬とか、周年行事とか、もっと合理的に行えると判断したことを次々に改革していくんです。
 周囲の人たちも協力して、やりがいを感じさせられます。
 特に校長先生とのコンビネーション。校庭の芝生が損なわれるからと夏の盆踊り復活に否定的だった前任者とは違って、使用許可を出してくれる。
 そこで杉江さんは何をしたのか。
 豚の丸焼きを作ったのです!
 旧知の学童保育の保護者たちにそのパワーがあることを知っていて、ここぞとばかりに仕掛けたのですね。
 わたしは集団で何かする活動は、つい面倒がってしまう方ですが、こんなにいきいきとしている人たちを知るとなんだか嬉しくなってきます。
 また、「がんばらないことを、がんばる」を裏スローガンにしたり、役員の人数を増やしたりと、いろんなことに取り組みます。
 PTA活動に積極的になり、新聞づくりに尽力してくれた女性が、事情で学校から離れていかざるを得ない場面は、ショックでした……。
 PTAには賛否両論あるかと思います。文中で「PTAの常識」とする括弧書きがあるのは、世間一般では常識ではないということなのでしょう。
 単位PTAそれぞれで、やることが違う、というのも、言われてみればそうだなーと感じました。転勤のたびにPTAのやり方は違うものだと感じてはきましたが、概要は同じパターンなので。
 思えばわたしも、PTAに加入して四半世紀(!)。広報一筋でしたが、今年は新しい部門にチャレンジしています。週末は草刈作業で五時半集合。雨天続きで順延だとつらいなあ。いい加減に晴れてもいいと思いません?

「ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?」牧村朝子

2017-08-18 05:28:02 | 社会科学・教育
 図書館の社会科学コーナーで面陳されていました。牧村朝子「ゲイカップルに萌えたら迷惑ですか?」(イースト新書Q)。
 このタイトルからわかるように、LGBT(この本ではLGBTs)について語られています。
 牧村さん自身がフランス人女性と同性婚されているのですが、Q&A方式で様々な質問に答えていきます。
 それは何もLGBTsにかかわること限定ではなくて、誰かと人間関係を結ぶには当たり前で大切なこと。
 
 わたし個人としては、後半のLGBTsの歴史が非常に興味深いものでした。
 ニューヨークの政治家マレイ・ホールが死去し、男性として活動していた彼が、実は女性だったと判明。死因は乳癌で、病院に行けば女性であることが分かってしまうからと恐れたためだとか。
 FtM(女として生まれたけど、心の性は男)の殺人事件があったとか。
 わたしは結構LGBTs関連の本は読んできたと思います。そういう本も図書室に入れたいと思っているので、この本はオススメできると感じました。
 ところで、ネタバレしてしまうので敢えてここに書きますが……。
 篠田真由美「閉ざされて」(角川書店)を読みました。函館が舞台、閉ざされた一族の破滅の物語です。
 ただ、冒頭で主人公がMtFだというのは推測できてしまったので、世間的にはそこまで悲観したり破滅を選んだりするように見られているのかなあと悲しくなりました……。
 独白、手紙、手記で構成されています。主人公の汀は、全寮制の学校を中退して函館に戻ってきています。
 函館山の裏側にある雪鼻荘は、亡くなった母が持参金で建てたもので、汀はそこで車椅子の父、お手伝いの杉浦など若干の使用人と暮らしています。
 父は再婚した彩子と、二人の娘(早苗と緑)がいるのですが、市街地(五稜郭近辺)でマンション暮らし。
 また、兄は東京の大学に在籍しており、ほとんど帰ってきません。
 汀は、自分の願いを兄に理解してもらい、味方になってほしいのですが。
 父の財産を巡り、様々な思惑が行き交います。結婚式で身につけていたティアラがどこに隠されているのかを気にする彩子や、母が結婚に乗り気でなかったことを知って憂鬱を募らせる汀、財産を手に入れるには手術を諦める必要があると語る弁護士など、どんどん不穏な雰囲気に。
 ペンダントトップのジルコニアが重大な役割を果たしますが、えーと、保育器に入っていたから本当は4月生まれって、どういうこと? 学校で生年月日使われるでしょう。緑も、本当は「7ヶ月年長」ではないわけ? と、ちょっと釈然としないのでした。
 それから、このラストだとLGBTsは遺伝みたいな印象を残すので、それもどうかと思うのでした。