花の四日市スワマエ商店街

表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

小津安二郎の「長屋紳士録」

2011年06月04日 | 諏訪商店街振興組合のこと
「長屋紳士録」は昭和22年、小津安次郎がシンガポールでの捕虜生活を終え帰国してつくられた第一作です。戦災で一面焼け野原となった東京の片隅に肩を寄せ合って生活する長屋の人々の人情劇です。
     
ある日、人相見(笠智衆)が雑貨屋のおたね(飯田蝶子)のところへ、上野公園に居た戦災孤児を、しばらく預かってくれと連れてくる。子供嫌いの強情女が、これまた強情な少年にてこずらされたあげく、やがて情が移り、ほだされてしまうストーリーです。
おたねは「きたない子だよ、あっちいっといで!」「「今度寝小便をやったら、つまみだすよ!」「あんたのおとうさんも不人情だよ。あんたははぐれたんじゃないよ、置いてかれちゃったんだよ」と最後のギリギリまで、子供嫌いを通します。
しかし、叱りつけた子供の家出をきっかけにおたねの心境が変化して行くのです。
     
動物園へ連れて行ったり、写真屋で記念写真を撮ったりするのですが、ある夜、少年の父親が現れて、少年は引き取られていきます。
肩を落として涙するおたね。それを慰めようとする長屋の面々。
     
ところがおたねは寂しくて、悲しくて泣いているのではないという。
「あたしゃ悲しんでないているんじゃないんだよ。あの子がどんなにかうれしかろうと思ってさ」
「あたしたちの気持ちだってずいぶん昔とは違っているよ。自分一人さえよきゃいいじゃすまないよ・・・早い話が、電車に乗るんだって人を押しのけたりさ、人様はどうでもてめえだけは腹いっぱい食おうって料簡だろう。いじいじしてのんびりしてないのは私たちだったよ」
おたねの流す涙は、子供を捨てた父親が予想に反して良い親だったことを喜び、薄情な自分を恥じる嬉し涙だったのです。
      中野 翠「小津ごのみ」筑摩書房 より
     
映画の中で、笠智衆が楽しい芸を披露します。長屋の連中が集まって酒盛りが始まる場面ですが“のぞきからくり”の口上(不如帰)を謡います。
「父は陸軍中将で、片岡子爵の長女にて、桜の花も開きかけ、人も羨む器量よし、その名は片岡浪子嬢・・・」
宴会の席で、この芸を披露したところ、監督に気に入られて映画に取り入れられることとなったそうでアリマス。
     
戦争直後の東京の風景には、ア然とさせられます。


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