前略
明智先生、ご無沙汰いたしております。
先生にお会いして、早、一週間の月日が流れました。
その後ご壮健であらせられましょうか?(ご病気がちなので心配いたしております)
先生は「天空の魔人」をご記憶でしょうか。
「少年クラブ」の昭和31年1月15日増刊号では、二十面相こそ登場しませんでしたが、先生と活躍させていただきました。
あのときの記憶がまだ脳裏に焼きついております。
犯人は、走っている機関車の貨車一台だけを奪い去るという、大胆な強行に出ました。まるで天から大きな手が伸びて、その貨物車だけを吊り上げていったように・・・。
そのトリックを見事に解決したのが、明智先生、あなたでしたね。(ホンマニ オボエトルカ?)
どのようにして、貨物一台を奪い去ったのか、そのトリックをお話します。
犯人は二人でした。身軽な男と力の強い男。
初めから機関車に乗っていた身軽な男は、盗もうとする貨物車の前後の連結をはずしロープで結わえました。
引込み線で待ち構えていた力の強い男は、ちょうどその貨車が通り過ぎる瞬間、瞬時に線路を切り替えて一台だけを引込み線に入れたのです。
「来たぞ、いまだ!(ガッチャン)オッ!通り過ぎた、いまだ!(ガッチャン)」
そのあと、紐を手繰り寄せて、前後の貨物を連結しました。
とても考え付かないような神業でした。
幼心に、先生の推理に感心したものです。
成功率は1パーセント。まかり間違えれば大事故に繋がるような仕業でした。
乱歩先生も、一度実験してから小説に取り掛かっていただきたかった・・・と思う今日この頃です。
百回ぐらい大事故を起こしてから、ようやく「デキタ!」と思われたに違いありません。否、一度も成功しなかったかもしれません。
おそらく実験中に、国鉄(今のJR)さんから大目玉をいただいていたに、違いありませんが・・・・
乱歩先生のしょぼくれたお顔が、目に浮かびます。
先生の更なるご活躍を期待して、思い出話しの幕を閉じます。
草々