月曜日の午前中、仕事場へ旧友のK君から電話があった。k君とは小学校、中学校以来の付き合いである。私たちの郷里で、今も会社を経営している。
「今、渋谷にいるんだが、会えないか?」
否や応の話ではない。K君の上京などは珍しいこと、万難を排して会わなければならない。
K君は大の日本酒党。焼酎の蕎麦湯割りというわけにはいかない。昵懇の料亭に無理を頼んで、席を設けてもらうことにした。
そんな段取りの結果、3時半過ぎから呑み始めた。中庭にはまだ額紫陽花が咲いていて、折からの小雨に濡れていた。
「Tが死んじゃったんだよ」 言い出しかねていた気配の後、K君が言った。
「えっ?!」
「オレも後から聞いたんだが、急性心不全だったようだ。朝、起きてこないので見に行ったら、布団の中で……」 K君は言葉を切った。
「ふーん」 私にとっても、大きなショック。
私には、小学校、中学校を通しての旧友が4人。KとTとH,それに私。
H君は数年前に肝臓ガンで亡くなっていた。
また一人、T君を失うこととなった。
T君は50年ほど前から、少し離れた都市に移り住み、普段からの付き合いは途絶えていた。訃報がなかったのはやむをえなかったかも知れない。
二人とも、しばらくは言葉がなかった。
やがて、K君がポツリ。
「早過ぎるよなァ。Hは68歳、Tは73歳だぜ」
「うん……」
女将が元気よく入ってきた。外出していたらしく、はじめて顔を見せた。紫陽花みたいな顔だ。
「珍しくしんみりねえ。浮気がバレたの?」
「同級生が死んじゃってね」
「アラッ、そりゃあゴメンなさいね」 女将は出ていってしまった。
雨はあがったようだ。
濡れた顔の紫陽花が、微かに揺れている。
紫陽花に言い訳してる昼の酒 鵯 一平
K君は後継者が悩みの種。暫くは仕事を続けるとのことだ。
遅ればせながら、弔問を考えなければならない。
(写真の紫陽花は、別の日に撮影したもの)
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